#2068 『Soft Works – Abracadabra in Osaka』』
『ソフト・ワークス/アブラカダブラ・イン・大阪』

閲覧回数 9,372 回

text by Nobu Suto 須藤伸義

Moon June Records

Elton Dean (saxello, alto sax, Fender Rhodes)
Allan Holdsworth (guitar)
Hugh Hopper (bass guitar)
John Marshall (drums)

Disk 1: Seven Formerly/Alphrazallan/Elsewhere/Baker’s Treat/Calyx/Kings & Queens
Disk 2: Abracadabra/Madam Vintage Suite/Has Riff/First Train/Facelift

Recorded August 11, 2003 @ Namba Hatch (Osaka, Japan)
Recording Engineer: Unknown. The original source is 2 CDRs with flat stereo-mix of the show
Mastering Engineer: Mark Wingfield
Producer: Leonardo Pavkovic


ソフト・マシーンと言えば、プログレッシブ・ロックのみならず英国ロック史に確然たる足跡を残したバンド。その全盛期のメンバー4人によって結成されたソフト・ワークス2003年大阪公演の音源が、レオナルド・パブコビッチ氏率いるMoon Juneレコードよりリリースされた。メンバーは、エルトン・ディーンreed(1969-72年在籍)、アラン・ホールズワースg(1973-75年及び1980年在籍)、ヒュー・ホッパーb(1968-73年在籍)とジョン・マーシャルds(1972-78年、1980/84年在籍)。プロデューサーのレオナルドとドラムのマーシャル(1941~ )より、惜しくも鬼籍に入ってしまったディーン(1945-2006)/ホッパー(1945-2009)/ホールズワース(1946-2017)に捧げられている。

レオナルドのソフト・マシーンに対する思い入れは、ディーン/ホッパー参加のサード・アルバム(CBS:1970年作品)に収録された〈Moon in June〉を元にするレーベル名にもうかがえるが、この時のツアーは、同名のブッキング会社設立の契機になった。切っ掛けは、1999年にディーン/ホッパー/マーシャルに英前衛ジャズを代表するピアニスト=キース・ティペット(元キング・クリムゾン)を加えた編成でSoftware名義で数回だけ行ったコンサートだったらしい。パーマネントなグループ活動に難色を示したティペットの代わりに、天才ギタリストの名高いホールズワースを加えた編成を日本サイドの強い要請/資金援助で実現したプロジェクトとの事。この日本公演の前に、『Abracadabra』(Universal Japan:2002年作品)を発表している。因みにこのスタジオ作は、確か昔レオナルド本人から送って貰ったと覚えていたのだが、手元に確認できなかった。まあまあの出来の記憶がある。

ソフト・マシーンは、1965年に伝説的バンド=ワイルド・フラワーズを母体に結成され、後にカンタベリー・シーンとして一大音楽ファミリーを展開していく事になるのだが、サイケデリック・ポップ色の強いロックバンドとしてスタートし、その後ホッパー及びディーンが持ち込んだ前衛ジャズ色を強め、ホールズワースが加入した73年以降は、テクニカルなプログレ=フュージョンを展開。マーシャルは、そのジャズ/フュージョン化をヴァーサティルに支えたドラマーだ。マーシャルのみソフト・ワークス参加全てのメンバーと演奏経験あり。

ソフト・ワークスの聴きどころは、そんな違ったバックグランド/指向性を持つベテラン・ミュージシャン同士の対峙にあるが、結果は残念ながら?このCDを聴く限り、有機的なケミストリーは起こってはいない。第一の問題は、楽器間のミックスが悪く、ベース・ギターの音が殆ど聞こえないことだ。この作品は、ライブハウスでのステレオミックス済み音源を使っているが、マスタリングだけでは、どうしようも出来なかったようだ。

ソフト・マシーンは、独創的なキーボード奏者(オリジナル・メンバーのマイク・ラトリッジ及び後任のカール・ジェンキンス)が、作曲を含めサウンドメイキングの要を担っていた。ソフト・ワークスの様な編成では、通常、ギター奏者がその役割を担うのだが、ホールズワースは、サックス系のソロ時における、一般的な伴奏を拒否しサンドスケープ的なサポートに徹している。まあ彼は、ソロの天才だがバッキングの天才では無いから。そのホールズワースのギター・ソロ(多くの人にとっての目玉?)を支えるため、ディーンは、フェンダー・ローズ(音から判断するにローランド社製のデジタル版?)を弾いているのだが、本業ではない事が分かる演奏で、緊張感を高めるまでには至っていない。それらの穴を埋めれるのは、ベース・ギタリストでクセのある存在感で有名なホッパーだが、彼のプレイは、いかんせん我々の耳には届かない。ただ、マーシャルには聞こえていたらしく、(聞こえない)ベースラインに沿ったドラミングを展開している。それ故か、単調な印象を与えるのが残念だ。

往年のソフト・マシーン・ファンがもっとも興味があると思う、ホールズワース/マーシャル加入以前のホッパー作2曲〈Kings & Queens〉(フォース・アルバム収録、CBD:1971年作品)と〈Facelift〉(サード・アルバム収録、CBS:1970年作品)の出来は良くない。根本的には、ディーン/ホッパーの前衛ジャズ組とホールズワース/マーシャルのフュージョン組の相性が悪く、ホールズワースは〈Kings & Queens〉の演奏には参加すらしていない。そういったグループ内のテンションは、このツアー時に、ディーン/ホッパーがホッピー神山key/吉田達也dsと『ソフト・マウンテン』(Hux:2007年発売)としてスタジオ録音を残している事実からもうかがえる。録音状態の問題もあり、煮え切らなさが残る作品に留まってしまっていると思う。

しかし、「聴かせどころが無いか?」と言えばそうでもない。個人的なハイライトは、ディーン作〈Baker’s Treat〉における、晩年のアート・ペッパーを思わせる、魂を削り取られるような吹奏のサックスソロだ。レオナルド曰くこの曲は、ディーンの友人でカンタベリー派のベーシスト=フレッド・ベイカーの名を冠した曲らしいが、曲想から判断するに、絶対チェット・ベイカーに捧げられた作品だと勝手に納得している。ディーンの他のソロも熱が籠っているものが多く、ホールズワースも曲によっては良いソロを取っているので、往年のギターキッズはチェックしても良いのではないか。

この日本公演後、ソフト・ワークスは数回のコンサートを消化した後、ホールズワースの脱退をもってジョン・エスリッジ(1975-78年、1984年在籍)を後任ギタリストとして迎える。グループ名を『ソフト・マシーン・レガシー』に改め、ディーンとホッパーの死を乗り越え、2005-2013年にかけて5作を残した。後任には、フュージョン時代のメンバーでその後ジャズ・ベーシストとして活躍していたロイ・バビントン(1973-76年)とロバート・フリップとのコラボやプロジェクト・リーダーとして活躍していたサックス兼キーボード奏者=テオ・トラビスが参加。

トラビス/エスリッジ/バビントン/マーシャルの編成で、2015年より『ソフトマシーン』を再び名乗り、2作品を発表している。最新作で、2020年にMoon Juneよりリリースされた、2019年にLAの老舗フュージョンクラブ=ベイクド・ポテト(ピアニスト/スタジオミュージシャンのドン・ランディ設立)でのライブは、問題の〈Kings & Queens〉と〈Facelift〉を含む名曲を、骨太くスリリングに演奏しており大いに楽しめる。サンディエゴ在住の筆者は、出かけるべきだったと後悔しているのだが。

追伸:数日ぶりに読み直し、自分の文章が誤解を与えてしまっていると思うので確認しておくと、ベースギターは、一応聞こえる程度には入っています。ただ、圧倒的に音量不足で、ドラム(特に周波数がだぶるバスドラ)が少し大きくなると消されてしまうレベルです。ロック系の作品は、ベース音の締まるカーステレオで聴くのが好きで、このアルバムもドライブ中に聴いていたのですが、車の走行音でベースギターは、ほとんど聞こえていませんでした。しかし、自宅のステレオで聴いても、やはりベースギターの存在感の無さは、奏者が個性的なヒュー・ホッパーだけに、さらに惜しいです。

須藤伸義

須藤伸義 Nobuyoshi Suto ピアニスト/心理学博士。群馬県前橋市出身。ピアニストとして、Soul Note(イタリア)/ICTUS (イタリア)/Konnex(ドイツ)の各レーベルより、リーダー作品を発表。ペーリー・ロビンソンcl、アンドレア・チェンタッツォcomp/per、アレックス・クラインdrs、バダル・ロイtabla他と共演。学者としての専門は、脳神経学。現在スクリプス研究所(米サンディエゴ)助教授で、研究室を主宰。薬物中毒を主とするトピックで、研究活動を行なっている。

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。