#1245 『Yoni Kretzmer 2 Bass Quartet / Book II』

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OutNow Recordings ONR020

Yoni Kretzmer (ts)
Reuben Radding and Sean Conly (b)
Mike Pride (ds)

CD 1:
1. Haden
2. Soft
3. Stick Tune
4. Metals
5. Freezaj
6. Leaves
7. Polytonal Suite
8. Ballad
CD 2:
1. Number 4

Recorded by Joe Rosenberg at Systems Two, Brooklyn, June 9th 2014
Mixed by Joe Branciforte
Mastered by Nate Wood
Design by Yoni Kretzmer
Produced by OutNow Recordings


驚嘆してしまうような奇抜さがあるわけではなく、また、スピードや手数で勝負するわけでもない。しかし、ヨニ・クレッツマーというテナーサックス奏者は実に多彩な引き出しを持っている。

意図的なキュキュキュという甲高い擦音。モンゴル周辺の喉歌さえをも思わせる、高音と低音とが同時にコントロールされた倍音。スローなブルースにおいて滲み出るような深い情感。失礼な表現かもしれないのだが、いわば発酵食品のような深く癖のある味わいなのだ。しかも、それらを悠然と繰り出してくる。

グループの編成は、ベースふたりとドラムスとのカルテット。シンプルにして異色である。

ベーシストはひとりが指で、もうひとりが弓で弾いたり、あるいは同調したり。それらの重なりが残響感を生み出している。時折は茫洋たるダークな海から空中に飛び上って音楽全体を挑発したりもする。ベーシストが雰囲気という権力を操りながら自身が踊り手にもなるという点で、本盤の1曲目に「Haden」という題名が付せられていることは、偶然ではないだろう。(言うまでもなく、先日亡くなった偉大なベース奏者チャーリー・ヘイデンのことである。)

そしてマイク・プライドのドラムスは切れる。まるで、薄い刃物を小気味よく振り回し、舞を演じているようだ。ベースとテナーとが情念のマッスを下へ下へと沈殿させていくのに対し、プライドの無数の軽いジャブは、聴く者に活性化を命じるように、耳と脳とに別の刺激を与え続ける。

4人の演奏は、CD2枚分の長い間、単調になることはない。それは、ひとりひとりが持つマルチの声と、4人の相互作用があってのことだ。もちろん主役はクレッツマーのテナーである。

「JazzTokyo」の「ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報」においては、前号および今号で、シスコ・ブラッドリー氏がクレッツマーについて特筆している。ブラッドリー氏は、彼のテナーを評し、アルバート・アイラーやアーチー・シェップのような偉大なテナーの先人の系譜に連なりながら個性を発揮しているという。同感である。

クレッツマーは、イスラエル・エルサレム生まれ。いつ、どのように、テナーの歴史的財産を吸収し、また、ニューヨークでどのように変貌し、己の声を獲得しおおせたのだろうか。非常に興味のあるプレイヤーである。

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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