#2099 『Izumi Kimura, Cora Venus Lunny, Anthony Kelly / Folding』

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text by Kazue Yokoi  横井一江

Farpoint Recordings LP,  CD, Download

Izumi Kimura – piano
Cora Venus Lunny – violin and viola
Anthony Kelly – field recordings

1 Sea
2 Bees in Wild Poppies +
3 Dry Leaves
4 Blackbird Sings to Nearby Birds

5 Storm Emma
6 Spring Birds
– For Stephen ++
7 Rain and Thunderstorm 8 Booterstown at Dusk

Recorded and mixed by Dave McCune at Ventry Studios, Dublin, Ireland Mastering & additional mixing by David Stalling at Farpoint Recordings

+ Fog Horn at the end of the East Pier & Kish Lighthouse excerpt recorded by Fergus Kelly ++ For Stephen appears on the CD & Download versions of Folding

https://www.farpointrecordings.com

上記レーベルのサイトから購入可能。


木村泉はダブリン在住のピアニスト。桐朋学園大学卒業後に渡ったアイルランドで、ジャズ・ミュージシャンや即興演奏家と知り合い、クラシック/現代音楽だけではなく即興演奏まで幅広い活動を行っている。前作『Illuminated Silence』 (2019 Fundacja Słuchaj) はバリー・ガイ(b)とジェリー・ヘミングウェイ(ds) との録音、他に沖至(tp)、ドミニク・ピファレリ(vln)、ブノワ・デルベック(p)などと共演してきた。

本作は、2019年にDLRミュージシャンズ・イン・レジデンス・スキームで、木村がフィールドレコーディングとともに即興演奏してみようという企画を思い立ったことから生まれた。それはこれまでにない発想で、アンソニー・ケリーによるフィールド・レコーディングと、木村とコーラ・ヴィーナス・ラニーの即興演奏によるコラボレーションを試みている。木村はこの企画に至ったきっかけについてこう語ってくれた。

このプロジェクトを始めた時、自分の中と外にある音が共鳴して音楽となるのなら、全ての音を最も美しい音楽として聴けるようになりたい、という思いがありました。そのための練習をしたい、という魂胆がこのプロジェクトのはじまりでした。

私は個人的に、「構築」するのが苦手で、試みる度に、どちらかと言うと「解体して土に還す」のが私の演奏者としての役割だなと実感します。良い意味でそう思えるようになったの最近のことで、その方向第一歩としてこのアルバムを作ったと思います。

フィールド・レコーディングは既に録音されたものを使用したのか、あるいは共同作業としてアイデアを交換しながら録音していったのかという疑問が浮かび上がってくる。では、具体的にその作業、即興演奏とのコラボレーションはどのように行われたのか、木村に尋ねてみた。

このアルバムでは、アンソニーによって既に録音されたフィールド・レコーディングを私がパッチワークして50分くらいのフォームを作り、それと一緒に、コーラとの即興演奏をしました。即興演奏をできるだけピュアなものにしたいという思いが私たちにあったので、いわゆる音楽的な要素については(一曲<For Stephen>を除き)一切決めず、ただお互いの音を聴きながら演奏しました。

フィールド・レコーディングはもちろん私たちの音に応えて変わることはありませんが、自然音には無限の解釈が可能なので、聞く度に新しく、同じマテリアルからでも毎回全く違う演奏となりました。それでも、何回も弾きすぎないように気をつけ、録音当日は2テイクだけで、結局ファーストテイクを採用しました。エディットもしないことにしました。

でもこの録音に先駆けて、レジデンスでは3人で時間を一緒に過ごし、聴きあったり話しあったりしました。しかしそれは、音楽を作るためのスペースづくりの役割を持った会話で、「何を」や「どうやって」については結局ほとんど話し合っていません。この過程は、いわゆる従来の音楽作りで切り捨ててきたものたち、 vulnerable なものたちを全てありのまま受け入れたいという思いをもとに、意識的に行っています。

アイルランドの海岸の風景が浮かび上がってくるような<Sea>に始まり、それぞれのトラックが映画のシークエンスのようで、イマジナティヴな音空間が浮かび上がってきた。時に儚く、フラジャイルな感性の揺らぎさえもその情感の中に感じさせる木村のピアニズム。彼女が「とても繊細でありながら奈落の底のような凄みのあるプレイヤー」と評するコーラ・ヴィーナス・ラニーの好演が、場面によってはエモーショナルでドラマティックなシーンを演出する。聴く者の想像力に働きかけ、物語を幻視させるのだ。興味深いのは<Storm Emma>で、アンソニー・ケリーが雪の中に埋めたハイドロフォンによって撮られた音源を使用しているためか、雪の中と外の世界が混じり合った不思議な空間を創り出す。「音楽」と「音」が出会うことによって、表出されるサウンドの奥行きがぐっと広がり、視覚的な情景が瞼の裏側に浮かび上がる。アルバムを聴き終わった時に、映画を観終わった時のような心持ちになった。きっと映像を見るように音を聴いていたからだろう。

フィールド・レコーディングと即興演奏が出会ったことで、音表現による創造の可能性がまたひとつ開かれた。今後もこの企画は続けていきたいという木村、「次回からは、フィールド・レコーディングも新しく録音しつつ作っていきます。できるようになり次第、もちろんライヴコンサートをしたいと思っています。この企画の延長には、オーディエンスとの一体感の追求がある」という。今後の活動、そして次作も期待したい。

 


横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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