#2103 『Chick Corea & Makoto Ozone / Resonance』 
『チック・コリア&小曽根 真/レゾナンス』

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Text by Hideo Kanno 神野秀雄

過去から現在へ、光が射す未来へ、ふたつの自由な魂が旅立つ

『Chick Corea & Makoto Ozone / Resonance』
『チック・コリア&小曽根 真/レゾナンス』

Chick Corea チック・コリア: piano (右ch)
Makoto Ozone 小曽根 真: piano (左ch)
ユニバーサルミュージック UCCJ-3042/3 (SHM-CD) 2021年8月25日発売

JOURNEY 1
1. Introduction
2. Improvisation I (Chick Corea / Makoto Ozone)
3. Snapshot (Makoto Ozone)
4. A Spanish Song (Chick Corea)
5. Someone to Watch Over Me (George Gershwin, 1898-1937)
6. Children’s Song No. 20 (Chick Corea)

JOURNEY 2
1. Improvisation II: Part 1  (Chick Corea / Makoto Ozone)
2. Improvisation II: Part 2 “Fukuoka Blues” (Chick Corea / Makoto Ozone)
3. Koto-Rea (Chick Corea / Makoto Ozone)
4. Seven Pieces from Mikrokosmos:
no.123 Short Canon and its Inversion (Béla Bartók, 1881-1945)
(「ミクロコスモス」7つの小品より 短いカノンとその転回)
5. Fantasy for Two Pianos (Chick Corea)

Chick Corea & Makoto Ozone Piano Duo Plays Acoustic Japan Tour
2016年5月19日(木) 19:00 東京 サントリーホール (CD1-3,4)
2016年5月22日(日) 15:00 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール (CD1-1,2,5,6, CD2-5)
2016年5月29日(日) 15:00 福岡シンフォニーホール (CD2-1,2,3,4)

Produced by Chick Corea & Makoto Ozone 小曽根 真
Recorded & Mixed by 三浦瑞生(MIXER’S LAB)、櫻井 卓(Pau)
Mixed by Bernie Kirsh
Mastered by 藤野成喜(ユニバーサル・ミュージック東京スタジオにて)
Piano Technicians: 水野隆弘(ヤマハ株式会社) for Chick Corea
大丸和彦(ヤマハ・アーティスト・サービス) for 小曽根 真
Art Direction & Design: 吉永祐介(solla Inc.)
Photography: Dan Muse (Chick Corea Productions)
Lighting Design: 岡田勇輔 (川本舞台照明)
A & R: 斉藤嘉久 (Universal Classics & Jazz)
Project Director: 青野浩史 (Aono Music Office)
Tour promoted by KAJIMOTO & The Kurland Agency


Photo: ©Chick Corea Productions

2021年2月9日に79歳で急逝したチック・コリア(「60年間の音楽の旅」を参照)と、2021年3月に60歳を迎えボーダーレスに世界で活躍する小曽根 真によるピアノ・デュオ・アルバム。2016年5月7日〜29日に行われた「チック・コリア&小曽根 真 ピアノ・デュオ・プレイズ・アコースティック/ジャパン・ツアー in 2016」はライヴ録音されていて、チック生前に二人で選曲まで済ませていたものの、チックの急逝を受けて、長くチックと小曽根の録音を担当して来たレコーディングエンジニアのバーニー・カーシュが完成させた。

チックと小曽根の出逢いは、小曽根がまだバークリー音楽大学の学生だった1981年(インタビュー動画参照)。デビューとファーストアルバム『OZONE』(CBS)リリースの1983年頃には『Chick Corea & Gary Burton / Lyric Suite for Sextet』(ECM1260)に大きな影響を受けたという。以来、40年に渡り親交を重ね共演して来た。チックが音楽監督を務めた「パルテノン多摩サマーライブ」で、1996年にモーツァルト<2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調 K.365>を演奏。2016年には初の本格的なデュオツアーを行い、それに合わせてデュオ・アルバム『Chick & Makoto -Duets-』もリリースしている。2018年10月には、東京・文京シビックホール、大阪・いずみホールなどでもデュオコンサートが開催された。

2020年秋にチック・コリア・アカデミー(会員限定オンライン講座)の小曽根をゲストに迎えた回で、「来年は日本に行くよ。小曽根真と上原ひろみとツアーをするんだ。」とチックは嬉しそうに語っていて、2021年秋に「Love for Japan: 日本への愛」をテーマに「チック・コリア×小曽根 真×上原ひろみ」によるコンサートが計画されていたが、その機会は永遠に失われた。2021年9月22日〜26日に東京・名古屋・西宮で、小曽根と上原による「Tribute to Chick Corea」コンサートの開催が決まった。また、10月20日〜22日には、小曽根真 featuring No Name Horses、須川展也、小柳美奈子による「トリビュート トゥ チック・コリア スペシャル」も予定されている。

2016年/2018年のデュオコンサートのセットリストを眺めてみると、チックの楽曲の中でも 特にポピュラーな<Spain>、<La Fiesta>、<Almando’s Rumba>、<Bud Powell>、<Mirror, Mirror>なども演奏されていたが、今回のアルバムには収録されていない。その代わりに<Improvisation>が3トラック収録されている。営業的な思考であれば前者をより入れたいところだろうし、盛り上がっていくコンサートの熱狂をアンコールまで再現し追体験しながらチックを想うアルバムも制作が可能であったろう。でもそうはしなかった。

<Introduction>では、二人の機長から乗客へのご挨拶、そして未知の空へ離陸していく。グランドピアノはドイツ語で「Flugel」=「翼」だからそんな妄想も許してもらえるだろうか。観客のわくわく感の中で静かに緊張感を持った響きの中で始まる<Improvisation I>へ。このアルバムは聴く者の魂で感じてもらうしかないので、以降、演奏の詳細についての記述は控えめとさせていただき、先入観少なめでお楽しみいただきたい。

「2台ピアノ」も今では定番の演奏フォーマットのひとつになったが、曲の枠組みの中でフレーズを模倣し、反復し、拡張しながらグルーヴを共有して盛り上げていくような演奏も少なくないが、チックと小曽根のデュオ・インプロヴィゼーションは(曲名<Improvisation XX>と記されているものは特に)それとは大きく違う次元にいる。2人は鋭い耳と感性だけを頼りに、相手の音の動きと響き、心の動きを正確に聴き取り、そのレスポンスとしてそれぞれの心の中に降りてきた音だけを迷うことなく自信を持って弾いていく。フレーズの応酬ではなく音響レベルで時間と空間を共に彷徨い、自由奔放に精神世界を駆け巡る。ハーモニーもリズムも予定調和ではなく、本当にどこへ行くかわからない。歩み寄ることもあるが、どちらかと言えば違う方向へ誘っていくことが多いようだ。子どもが遊んでいるようでもあり、やがて、それは二つの魂が精神世界を自由に旅していることがわかってくる。過去から、現在、光の射す未来へ。空へ宇宙へ旅するようでもあり、生命の、細胞の、心の内側へ向かうようでもある。その中で波動として物質として共鳴していく。2人の音が完全に同質に同一に溶けて聴こえる瞬間すらあった。観客はその旅の光景を目撃しエネルギーを受け取り送り返し、それを燃料にさらにふたつの魂はさらに自由な旅を続ける。

「JOURNEY 1」の前半で演奏される新曲2曲は、小曽根作曲の<Snapshot>とチック作曲の<A Spanish Song>。<Snapshot>では上昇感のあるコード進行とミディアム4ビート感覚でのリラックスした楽しい歓びのやりとり。<A Spanish Song>はデュオツアーで演奏された後、2018年に『The Chick Corea & Steve Gadd Band / Chinese Butterfly』の1曲としてリリースされ、そのバンドの来日ツアーでも演奏されていた。スペインの朝を彷彿させるような透明感と輝きのあるピアノのやりとりに始まり、心地よい哀愁のメロディ。チック・コリア=スティーヴ・ガッド・バンド版ではソプラノ・サックスとパーカッションも交えたカラフルな演奏だが、シンプルな分だけデュオ版の方がその描き出す情景に想像力が広がっていく。

「JOURNEY 2」の<Koto-Rea>は二人の共作で、つまりMaKoto-CoReaから名付けられ、ピアノの響き合いが美しい。バルトーク<「ミクロコスモス」7つの小品より 短いカノンとその転回>は、『Chick Corea & Nicolas Economou / On Two Pianos』に収録されており、これと聴き比べるのも興味深い。<Fantasy for Two Pianos>は、1983年にチック・コリア&フリードリヒ・グルダのデュオでリリースされ、1996年にはチック&小曽根でも演奏された。余談だがフリードリヒは小曽根を高く評価し共演を望んでいたという。ツアーでもアンコール前、最後の曲として演奏されることが多かった。2人が紡ぎ出し展開していくストーリーの中に身を置き、その響きに心を委ねたい。

当時を振り返ると、ファンとしては二人のスーパースターを目前にして、自分の思い出のある代表曲を多めにとか、そして熱く盛り上がる演奏を聴きたいというレベルの下心もあったが、今回アルバムとなって聴覚に集中し(岡田勇輔による照明デザインが視覚から旅をサポートしていたことは付記しておきたい)、選曲され再構成され、二人と聴き手がダイレクトに向き合うことで、「精神世界の旅」という本質が浮かび上がってきて、聴き手も自らの精神世界と重ねて旅することになる。

チックを敬愛するミュージシャンたちに追悼文をご寄稿いただいた中で、クラリネット奏者リチャード・ストルツマンの「チックからの音楽の贈り物」での聖書の言い回しを使った表現が最も核心に触れていると思えた。

「チック・コリアは、この世界から生まれた存在ではなく、この世界を訪れ共に過ごした特別な存在でした。」
“Chick Corea was very much IN this world, but he was not OF this world.”

チックは時間と空間を超えて旅する中で、私たちひとりひとりと出会い、今またどこかの世界で音楽と人々とともに遊んでいるに違いない。ファンそれぞれにチックとはさまざまな想い出があると思う。一方で最後の来日公演となった2019年9月「東京JAZZ 2019」でのチック・コリア・エレクトリック・バンド&アコースティック・バンドのような”かっこよく”華やかな楽しい記憶も残しながら、『Resonance』は音を通しての精神世界への冒険と旅を如実に記録してくれた。これは小曽根という魂がダイレクトに繋がる特別なパートナーを得て生まれたものだった。

この魂の旅へ導いてくれた、チック・コリアさん、小曽根 真さん、そして、ゲイル・モランさん、神野三鈴さん、ツアーとアルバム制作に携わられたスタッフに深く感謝したい。

Chick Corea & Makoto Ozone: Children’s Song No.20 (Chick Corea) – Makoto Ozone’s interview

Chick and Makoto Ozone Trading Phrases at Tokyo Blue Note (2019)

「チック・コリア × 小曽根 真」文京シビックホール公演 小曽根 真インタビュー (2018年10月24日開催)

【2016年ツアーの記録】
チック・コリア&小曽根真
ピアノデュオ プレイズ・アコースティック
Japan Tour in 2016

5月7日(土) 14:00 よこすか芸術劇場
5月8日(日) 16:00 みやまコンセール(霧島国際音楽ホール) 【チック・コリア ソロ公演】
5月10日(火) 18:30 盛岡市民文化ホール
5月14日(土) 18:00 NHKホール 【NHK交響楽団定期演奏会】
5月15日(日) 15:00 NHKホール 【NHK交響楽団定期演奏会】
5月18日(水) 19:00 長野市芸術館
5月19日(木) 19:00 サントリーホール
5月21日(土) 15:00 三原市芸術文化センター ポポロ
5月22日(日) 15:00 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
5月25日(水) 19:00 松本市音楽文化ホール ザ・ハーモニーホール 【チック・コリア ソロ公演】
5月26日(木) 19:00 滋賀・守山市民ホール
5月27日(金) 19:00 愛知県芸術劇場 コンサートホール
5月29日(日) 15:00 アクロス福岡 シンフォニーホール
5月31日(火) 19:00 高岡文化ホール 【チック・コリア ソロ公演】

NHK交響楽団 第1835回 定期公演 Aプログラム
2016年5月14日〜15日 NHKホール
小曽根 真、チック・コリア:ピアノ、 尾高忠明:指揮

武満 徹/波の盆(1983╱1996)
モーツァルト/2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調 K.365
I. Allegro II. Andante III. Rondo, allegro
エルガー/変奏曲「謎」作品36

NHK Symphony Orchestra, Tokyo
Chick Corea and Makoto Ozone: Piano
Tadaaki Otaka: Conductor

Toru Takemitsu / Nami no Bon
Wolfgang Amadeus Mozart: 10. Klavierkonzert in Es-Dur, KV 365
I. Allegro II. Andante III. Rondo, allegro
Edward Elgar: Variations on an original theme op.36 “Enigma”
NHK Hall, Tokyo on May 14-15, 2016

*2016年7月3日(日) 21:00-23:00 NHK-Eテレ 「クラシック音楽館」で放映


●Tribute to Chick Corea 小曽根真×上原ひろみ
2021年9⽉22⽇(⽔) 19:00 サントリーホール
2021年9⽉23⽇(⽊・祝) 14:00 サントリーホール
2021年9⽉24⽇(⾦) 19:00 愛知県芸術劇場コンサートホール
2021年9⽉26⽇(⽇) 15:00 兵庫県⽴芸術⽂化センター
公演ウェブサイト

●トリビュート トゥ チック・コリア スペシャル
小曽根真 featuring No Name Horses
スペシャルゲスト: 須川展也(サックス)、小柳美奈子(ピアノ)

2021年10月20日(水) 19:00 長野・まつもと市民芸術館 主ホール
2021年10月22日(金) 19:00 東京・Bunkamuraオーチャードホール

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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