#2122 『The Very Big Experimental Toubifri Orchestra / Dieu Poulet
ザ・ヴェリー・ビッグ・エクスペリメンタル・トゥビフリ・オーケストラ / ニワトリの神』

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Text by 剛田武 Takeshi Goda

CD/DL : No Label – LGE01/1

The Very Big Experimental Toubifri Orchestra:
Mélissa Acchiardi : vibraphone, percussions, carillon
Lionel Aubernon : batterie, percussions, accordéon, instruments électroniques, carillon, poulet
Stéphanie Aurières : saxophone baryton
Aloïs Benoit : trombone, conque, flûtes à becs
Félicien Bouchot : trompette, bugle
Mathilde Bouillot : flûte, piccolo, voix
Captaine Saxo aka Thibaut Fontana : saxophone ténor, carillon, voix
Lucas Hercberg : basse, guitare, voix
Grégory Julliard : trombone, tuba
Emmanuelle Legros : trompette, bugle, voix
François Mignot : guitare
Antoine Mermet : saxophone alto, voix, bouche
Yannick Narejos : saxophone ténor et soprano
Benjamin Nid : saxophone alto
Alice Perret : piano, claviers, accordéon, cymbale, voix
Yannick Pirri : trompette, bugle
Corentin Quemener : batterie, percussions, jouets, voix
Laurent Vichard : clarinette, clarinette basse

Loïc Bachevillier : trombone (tracks 7,9)
Julien Chignier :saxophone alto (tracks 7,8)

Et quand tout le monde chante, ça fait des choeurs !

1. Sexe !
2. Les anciens humains
3. Le costume
4. Range ta chambre : blucafete
5. Bleant
6. Aigue : Bossa aigue
7. Lune
8. Waiting for lips
9. Dieu Poulet
10. Tell me

Production : La Grande Expérimentale – www.toubifri.com
Enregistré en juillet et septembre 2020 Studio Rouge (Rivolet), Studio Supadope (Lyon), Les Subsistances (Lyon)
Prise de son et mixage : Franck Choko Rivoire
Mastering : Jérôme Rio

Images : Lola Roubert
artwork : Bruno Belleudy

Cet album est dédié à Grégoire Gensse.
We are freedom, we are Toubifri !

フランス産新進気鋭ビッグバンドの特大実験自由化宣言。

“The Very Big Experimental Toubifri Orchestra”(以下VBETO)はフランスのリヨンをベースに活動する18人編成のビッグバンドである。“Toubifri(トゥビフリ)”とは“To Be Free”のフランス語読みだというから、グループ名を和訳すれば「壮大なる実験で自由を目指す管弦楽団」という意味になる。2006年にピアニストのグレゴワール・ゲンセを芸術監督として誕生した。その名の通り“音楽を極限まで突き詰めること”を活動方針に掲げている。ゲンセは当時20歳。メンバーの年齢は公表されていないが、写真や映像で見る限り、皆同世代の新進気鋭のミュージシャンだと思われる。もしかしたらリヨンの音楽学校の学生を中心に結成されたのかもしれない。

2014年にアルバム『Waiting In The Toaster(パン焼き器の中で待つ)』でデビュー。“我々はフリーダム。自由になろう!”という合言葉で幕を開ける彼らの世界は、前衛ロック(フランク・ザッパ、ヘンリー・カウ)/フレンチ・プログレ(ゴング、マグマ)/チェンバー・ロック(ユニヴェル・ゼロ、アール・ゾイ)と、グレン・ミラー/デューク・エリントン/カウント・ベイシーからサン・ラ・アーケストラ/グローブ・ユニティ/渋さ知らズまで継承されるビッグバンド・ジャズのアマルガム。2015年に世界中の前衛ロック・アーティストが集まる一大フェスティバル「Rock In Opposition (RIO)」に出演し、日本でもコアなプログレ・ファンに知られるようになった。そのまま順調に活動範囲を広げるかと思われた矢先、2016年4月にリーダーのグレゴワール・ゲンセが急逝。しかしバンドはゲンセの遺志を継ぎ、制作途中だったシャンソン歌手ロイック・ラントワーヌとのコラボレーションを続行し、2017~18年にかけて50ヶ所のフランス・ツアーを敢行、2017年10月にコラボ・アルバム『Loïc Lantoine & The Very Big Experimental Toubifri Orchestra / Nous(我々)』をリリースした。スタジオ盤とライヴ盤の2枚組の大作で、全編フランス語のトーキング・スタイルのヴォーカルは正直言って日本人にはハードルが高いが、バックを固めるVBETOの変幻自在のサウンドは、彼らの非凡な才能を証明して余りあるものだった。フランス国内で好評を博し、コンサート・ツアーは2019年5月まで続いた。

ラントワーヌとのコラボレーションを終えたあと、改めて音楽的支柱を失った事実に直面し、大所帯のバンドを維持していけるか迷いや葛藤が生まれたかもしれない。そこに突然、新型コロナウィルスの脅威が襲った。ライヴ活動どころか外出や人と会うことまで禁じられた極限状態の中で“くよくよ悩んでいる場合じゃない!”と意気投合したのだろうか、パンデミックが少し収まった2020年9月にリヨンのスタジオで一致団結してレコーディングされたのが、4年ぶりの新作『Dieu Poulet(ニワトリの神)』である。亡きグレゴワール・ゲンセに捧げられたこのアルバムは、18人のメンバーが新たな編成、新たな音楽性、新たな思想を掲げた最新版の<特大実験自由化宣言>と言える。動物のイラストがコラージュされたノアの方舟を思わせるジャケットはシュール且つユーモラス。“Expérimentale(実験的)”にはシリアスでストイックで難解なイメージがあるが、VBETOの表現の核には特大の“Humour(ユーモア)”がある。実験室の暗い湿り気は皆無。ジャケット通りの青空の下で明るい陽を浴びて、動物の謝肉祭さながらの楽隊行進が繰り広げられる。前衛だからと言ってしかめっ面をする必要はない。子供でも“実験って面白い!”と楽しめる、それが“トゥビフリ”精神なのだ。

M1「Sexe !(セックス)」の『ライオン・キング』を思わせる壮大なファンクビートと重厚なコーラスワークの高揚感たるや、初っ端から昇天もの。M2「Les anciens humains(太古の人類)」はポリリズミックなヴォーカリゼーションとホーン隊のレイヤーが夢見るような浮遊感を生み出す。M3「Le costume(衣装)」の綿密にアレンジされた室内楽が一転してトロンボーンとトランペットのインプロ合戦に転じる反則技は、そのままM4「Range ta chambre : blucafete(部屋の整理整頓:ブルーカフェテ)」のスラップスティック組曲に繋がる。目まぐるしい場面展開はまるで歌のないミュージカル。“Ça va?(元気?)”の掛け声からインタールード的な小品M5「Bleant(ブレアント)」を挟んでアルバム後半へ。荘厳なM6「Aigue : Bossa aigue(エイグ:ボッサ・エイグ)」は鎮魂歌のよう。M7「Lune(月)」はゆるやかなドローンに導かれるミニマル・ミュージック。ヴィブラフォンとファゴットの二重奏が月世界の幻想を歌い上げる。消え入るような電子音から始まるM8「Waiting for lips(唇を待ちながら)」はスローモーションのディープ・バラード。深いリバーブの中でひとり暴れるドラムの妙。アルバム・タイトル・ナンバーM9「Dieu Poulet(ニワトリの神)」はカリプソ・リズムの陽気なカーニバル。フランス版鳥獣戯画よろしく楽器隊がスウィングしまくる。ラストのM10「Tell me(教えて)」はロバート・ワイアットを思わせるヘヴンリーなバラード。折り重なるコーラスが美しい。曲が終わるとしばらく無音が続くが最後の最後に元気が出るメッセージが入っているのでお聴き逃しなく。まるで天地創造を60分で成し遂げるような驚きと歓びに満ちたアルバム。出会えたことをニワトリの神さまに感謝したい。

ヨーロッパの前衛ビッグバンドとして、以前ドイツ・エッセンのザ・ドーフ The Dorfを紹介した【Disc Review】。50分近く全く音の変化がない究極のストイシズムを追求するザ・ドーフと、驚天動地の笑いを演奏の核とするVBETO。好対照をなす両者の存在こそ、“三密こそが音楽表現の本質”と声を大にして宣言できる時代の到来を弁証法的に証明しているのである。(2021年9月2日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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