#2121 『高木元輝カルテット/Live at Little John, Yokohama 1999』
Text by Akira Saito 齊藤聡
NoBusiness Records
Mototeru Takagi 高木元輝 – tenor saxophone
Susumu Kongo 金剛督 – alto saxophone, soprano saxophone, flute, bass clarinet
Nao Takeuchi 竹内直 – tenor saxophone, flute, bass clarinet
Shota Koyama 小山彰太 – drums
Improvised & composed by Mototeru Takagi, Susumu Kongo, Nao Takeuchi and Shota Koyama
Recorded live on the 25th September, 1999 at LITTLE JOHN, Yokohama, Japan by Susumu Kongo and Nao Takeuchi
Mastered by Arūnas Zujus at MAMAstudios
Design by Oskaras Anosovas
Cover photo by Mitsuo Jofu 上不三雄
Booklet photos – Shota Koyama by Yutaka Narasaki 楢崎 豊 / Nao Takeuchi courtesy of Papillon / Mototeru Takagi by Mitsuo Jofu 上不三雄
Produced by Danas Mikailionis and Takeo Suetomi 末冨健夫 (Chap Chap Records)
Release cordinator – Kenny Inaoka (Jazz Tokyo)
Co-producer – Valerij Anosov
https://nobusinessrecords.bandcamp.com/album/live-at-little-john-yokohama-1999
高木元輝の80年代と90年代の活動はこれまであまり認知されてこなかった。実際、福生、大阪、博多、豊橋、横浜といくつもの街を転々とし、目立つ活動が少なかったことは事実だ。さまざまな肉体労働に就き、経済的に苦しく、健康を害していた時期もあったようだ。だが、本盤の音を聴くと、なお再燃焼に向けたマグマが熱せられていたことがわかる。
もとより管楽器の3人には縁があった。高木よりひと回り年下の金剛督(1953年生まれ)は、高校3年生のときに新宿ピットイン昼の部で高木カルテットを観て衝撃を受け、それを機に、高木と長い個人的な付き合いを続けていた。福生など高木の近くに住んでもいた。また竹内直(1955年生まれ)は明治大学在学中に高木に師事した人である。3人のブロウにそれぞれ驚くほど固いコアがあることも、その縁と無関係ではないのかもしれない。
本盤録音の少し前の1996年には、同じ横浜のリトルジョンにおいて、金剛と竹内が『アワー・トライバル・ミュージック』(Vibration Records)をデュオで吹き込んでいる。ふたりともいくつもの管を持ちかえ、ときに同じバスクラリネットやフルートで重なりつつ、どっしりとした不動の足腰から強面でありつつも蝶のように舞う音の層をつぎつぎに作りあげる傑作である。あえて言えば、情を強く伏せる竹内とさらけ出す金剛との対照がおもしろくもある。
また同じころ、横浜のドルフィーにおいて、高木、金剛、竹内、小山彰太という本盤と同メンバーに不破大輔(ベース)を加えた演奏が行われた。金剛によれば、高木と小山との「結び」はこの頃からであった。これが、2000年4月・関東における高木2デイズの素晴らしい演奏につながることになる(4月21日の横濱エアジンにおける不破と小山とのトリオの演奏が、「月刊不破大輔」においてダウンロード配信されている)。
本盤は、それらの間をつなぐ重要なリンクである。
<Yokohama Isezaki Town>においてバスクラを含む3管が互いに絡みあい、うねり、やがて、じっと聴いていた小山が介入する。ドラムスとのデュオでアジアの私たちが呻き泣くようにうたう高木はさすがである。ここにフルートとバスクラが重なって提示されるサウンドは、まったく色の異なる4層からなる。そして各々の演者は泰然として、その音のさまざまな組み合わせは時間軸を狂わせる。金剛のサックスには意外なほどの透明感と粘りがあり、一方、竹内のバスクラが折れることは想像できない。この曼荼羅のごとき音世界は、自在に下から構造物をつくり続ける小山の個性ゆえに実現したものでもあるだろう。
<Yokohama Yamashita Town>は、高木による<苦悩の人々>のテナーからはじまる。いうまでもなくアート・アンサンブル・オブ・シカゴの名曲であり、高木は、1969年にレコードがリリースされた直後から亡くなるまでこの曲を演奏し続けた。その背景には、おそらく在日コリアンという自身のルーツに対する意識があっただろう(拙稿参照、ちゃぷちゃぷレコード編『Art Crossing 特集・高木元輝』、2021年秋刊行予定)。4人による濁流を経てふたたび哀切な旋律に戻ってくるさまは、聴く者に何とも言いがたい気持ちの昂りをもたらすに違いない。
<Yokohama Yamate Town>における竹内と金剛とのフルート競演は、内部が乱反射する結晶同士の対話のようで耳を奪われる。ここにずいと入ってくる高木のテナーのノイズやコアからの逸脱は、やはり唯一無二のものだ。終盤のマシンガンのごとき竹内のバスクラにも聴き惚れる。
強靭にして互いに異なる4人が共存した、貴重なドキュメントである。
(文中敬称略)