#2118 『Lyle Mays / Eberhard』
『ライル・メイズ/エバーハルト』by 神野秀雄

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Text by Hideo Kanno 神野 秀雄

『Lyle Mays / Eberhard』
『ライル・メイズ/エバーハルト』

2021年8月27日 CD、レコード、デジタル、ストリーミングで世界公開
各サブスクリプションでも聴けるが、3ドルでのダウンロードなどをお勧めしたい。
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EBERHARD 13:03

COMPOSITION BY Lyle Mays
ARRANGEMENT BY Lyle Mays
PRODUCED BY Lyle Mays

ASSOCIATE PRODUCERS Steve Rodby and Bob Rice
EXECUTIVE PRODUCERS Lyle Mays and Aubrey Johnson
RECORDED, MIXED, AND MASTERED BY Rich Breen

LYLE MAYS piano, synthesizers
BOB SHEPPARD tenor sax soloist, flute, alto flute, clarinet, bass clarinet
MITCHEL FORMAN Wurlitzer electric piano, Hammond B3 organ
STEVE RODBY acoustic bass
JIMMY JOHNSON electric bass
ALEX ACUÑA drums, percussion
JIMMY BRANLY drums, percussion
WADE CULBREATH marimba, vibraphone, orchestra bels, xylophone, tone bells
BILL FRISELL guitar
AUBREY JOHNSON vocals (featured)
ROSANA ECKERT vocals
GARY ECKERT vocals
TIMOTHY LOO cello (principal)
ERIKA DUKE-KIRK PATRICK cello
ERIC BYERS cello
ARMEN KSAJIKIAN cello

JON PAPENBROOK project coordinator, musician contractor, music preparation
BOBRICE project coordinator, additional programming & engineering
RYAN ANDREWS score supervisor, composer’s asistant, additional electric piano
PIERRE P score preparation

RECORDED AUGUST 2019 THROUGH JANUARY 2020 AT
Sphere Studios LA, Asistant Engineer: Xavier Stephenson East West Studios, Asistant Engineer: Brendan Dekora
Henson Recording Studios, Asistant Engineer: Chenao Wang
The Village Studios, Asistant Engineer: Matt Dyson
Autumn Audio, Eric Fisher

STEINWAY MODEL D SPIRIO R PIANO courtesy of Steinway & Sons
LUKE TAYLOR piano technician
BERNARD ALEXANDER piano technician
JOHN McCLOY graphic design
MARCO FRANCHINA front and back cover photograph
BETH HERZHAFT Lyle Mays inside photograph
AMY ZABEL-NORDSTROM personal assistant to Lyle Mays

ライル・メイズが亡くなったのは2020年2月10日(「ライル・メイズ逝く」を参照)。筆者は2010年7月9日ノースシー・ジャズ・フェスティヴァルでのパット・メセニー・グループ「The Song Book Tour」が最後にライルを聴く機会となった。最後の来日は、2009年1月、ブルーノート東京/名古屋ブルーノートでのパット・メセニー・グループのクラブ公演と思われる。スタジオで録音されたリーダーアルバムとしては、2000年の『Solo: Improvisations for Expanded Piano』が最後となっていて、多くのライルファンにとっては、いつかライルの音楽を聴きたいと長く長く待ち望んでいた中で、その機会が永遠に失われたことを嘆くこととなった。特にライルを敬愛する若いピアニストたちはいちども観る機会がないままとなってしまった(ライル・メイズ追悼特集参照)。しかし、7月にライルが2019年後半に新作の録音を行なっていたとのニュースが入る。

<Eberhard>と名付けられた13分3秒の作品。<Eberhard>は言うまでもなく、ECMに多数の名作を残しているドイツのベーシスト、エバーハルト・ウェーバー(1940年〜)に捧げられている。1977年の『Pat Metheny / Waltercolors』(ECM1097)にライル、ダン・ゴットリーブと共にエバーハルトが参加しており、1982年の『Eberhard Weber / Later That Evening』(ECM1231)にも参加し、エバーハルトから大きな影響を受けた。

マリンビスト、ナンシー・ゼルツマンの主催するゼルツマン・マリンバ・フェスティヴァル(ZMF)*からの委嘱で2009年に書き上げられた。ナンシーはライルのウェブサイトに手記「A Jazz Star, Composition & Legos」を寄せている。1985年に<Somewhere in Maine>作曲したのが最初で『Marimolin』に収録され、やがて2人は終わらない長電話を繰り返すほどの親友となって交流を深めていく。そして、2009年のZMFでアンサンブルのための<Eberhard>とマリンバソロのための<Mindwalk>の委嘱・演奏として結実する。

2009年版の編成は今後調べたいが、少なくとも、ナンシー・ゼルツマンの他、スティーヴ・ロドビー(b, el-b)、ライルの姪オーブリー・ジョンソン(vo)らも参加したまとまった編成で演奏しているので、この時点でもかなり完成されたものであったことは確か。2019年からライルが加筆拡張して、2020年2月10日にライルが亡くなる数ヵ月前、2019年後半にライルと親交のあるトップミュージシャン16人が集まりロサンゼルスで録音された。

明るく繰り返し持続するマリンバから、エバーハルトが書いた空気感のあるピアノのフレーズ、もちろんライルが弾き出し、さまざまな楽器が重なり、繋がりストーリーを紡ぎ出していく。筆者が感じたイメージは「水の循環」。冒頭のマリンバとピアノの音に、水蒸気が凝固した、森の朝露の一滴を見て、細い流れが風景が移り変わりながら、都市部も経ながら海へ注ぎ、やがて水蒸気となって森へ帰っていく。16人の奏者が同時に音を出すことはほとんどなく、ミニマルミュージックのような反復の多いフレーズを複数の楽器が音を重ねながらリレーしていく。「Bass Magazine」でのインタビューによると、ジミー・ジョンソン(el-b)とスティーヴ・ロドビー(b)へのリレーはシームレスに変容するようミックスされたという。その構造は非常に論理的、建築的で美しい。そしてボブ・シェパードのサックスが歌い出す。そして、、、。

蛇足だが、<Eberhard>を聴き終えた後の静寂の深さ。。。耳が研ぎ澄まされて、遠くのノイズが克明に聴こえてくることに驚かされた。

健康状態のこともあり、サウンド構築のこともあり、弾いたピアノ演奏の微調整もできる、Steinway & Sons SPIRIO R という精密なMIDI記録再生ができる自動演奏ピアノを使ったことを付記しておきたい。角野隼斗のブルーノート東京公演でもひとり2台ピアノ演奏のために使った最新型。その使い方の原型は、ヒロ・イイダがサポートした『Solo: Improvisations for Expanded Piano』に見ることができる。

スティーヴ・ロドビーは以下のように語っている。「ライルの健康状態は2019年に悪化し、それと同時に、ライルは<Eberhard>を録音しようと決めました。この曲をあらゆる点から加筆拡張し再構築しました。」「その結果がこの録音で、亡くなる直前にライルに聴こえていた音を聴くことができます。それはこのアルバムがライルの音楽の最終形であるという意味ではなく、もしも彼が長生きできたら、さらに新しいプランを考え実行していたことでしょう。」

ライルが生きていたらどんな音を出しただろうと望むのではなくて、<Eberhard>は、永遠を感じさせる音楽で、その無限ループの中でもライルが永遠の中に生き続けていると感じさせる音楽だった。ライル・ファンには最高の贈り物となった。ありがとう、ライル!


L+R: Roberto Masotti

*ゼルツマン・マリンバ・フェスティヴァルと、そこでのライル・メイズ作曲の楽曲について、ボストン在住のマリンビスト、ミカ・ストルツマン氏よりご教示いただいた。深く感謝したい。

Lyle Mays: Mindwalk
Nancy Zeltzman (Marimba solo)

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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