#2120 『アントニオ・アドルフォ/ジョビン・フォエヴァー』
『Antonio Adolfo / Jobim Forever』

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text by Keiichi Konishi 小西啓一

Piano And Arrangements: ANTONIO ADOLFO
Guitars (except on track 8): LULA GALVÃO
Double Bass: JORGE HELDER
Drums: PAULO BRAGA* (tracks 4, 5, 6, 8, 9)
RAFAEL BARATA (tracks 1, 2, 3, 7)
Percussion: DADA COSTA (tracks 2, 3, 4, 5, 7, 8), RAFAEL BARATA (tracks 1, 3, 5, 6, 8)
Trumpet Aand Flugelhorn (tracks and 4, 6, 8, 9): JESSE SADOC
Alto Sax: DANILO SINNA
Tenor And Soprano Saxes And Flutes (tracks 4, 9): MARCELO MARTINS
Trombone: RAFAEL ROCHA
Vocal (track 3): ZE RENATO*

Special Guests:
PAULO BRAGA and ZÉ RENATO

Pproduced by ANTONIO ADOLFO

1 – The Girl From Ipanema by Antonio Carlos Jobim, Vinicius de Moraes and Norman Gimbel
2 – Wave by Antonio Carlos Jobim
3 – A Felicidade by Antonio Carlos Jobim and Vinicius de Moraes
4 – How Insensitive by Antonio Carlos Jobim, Vinicius de Moraes and Norman Gimbel
5 – Favela (O Morro Não Tem Vez) by Antonio Carlos Jobim and Vinicius de Moraes
6 –Inutil Paisagem (Useless Landscape) by Antonio Carlos Jobim and Aloysio de Oliveira
7 – Agua De Beber (Water to Drink) by Antonio Carlos Jobim and Vinicius de Moraes
8 – Amparo/Intro: Por toda a minha vida (For All My Life) by Antonio Carlos Jobim/ by Antonio Carlos Jobim and Vinicius de Moraes
9 – Estrada do Sol (Road to The Sun) by Antonio Carlos Jobim and Dolores Duran

Recording Engineer: Marcelo Saboia,
Assistant Engineer: Leo Alcantara (Visom Digital – Rio – BR), Mixing Engineer: Marcelo Saboia (Escritorio do Saboia – Rio – BR),
Mastering Engineer: Andre Dias (Post Modern Mastering – Miguel Pereira – BR),
Cover Illustration and Design: Arisio Rabin.


ブラジルのポピュラー音楽界の大立者と言えば、まずは “ボサノバの父”とも呼ばれるアントニオ・カルロス・ジョビン、そして “ブラジルの声”といった別称を持つミルトン・ナシメント、さらに ”ブラジル音楽の知性”とも言えそうなカエターノ・ベローゾ。この3人ではないかとぼくは思っているのだが...。この偉大な存在の内、二人の作品集をこのところ立て続けに発表したのが、サンバ、ショーロから地方の民俗音楽まで、ブラジル音楽全般に通暁したMPBの裏立役者的存在、ピアニスト&作編曲家のアントニオ・アドルフォである。

ブラジルの音楽界ではかなりな存在感を誇る彼だが、残念なことには日本では国内盤が出ていないこと、また、本国とアメリカ双方を股にかけ活動を展開していることなどもあり、知る人ぞ知る...といった影の存在といった感も強い。但し、この Jazz Tokyo では稲岡編集長の慧眼もあり、(娘のモダン・ボッサの第一人者、カルロス・ボーヤも含め)小まめにそのアルバムをフォローしているので、彼の重要性を知る方も多い筈だと思う。

多作でも知られるアドルフォは、これまでにもエルネスト・ナザーレなどのブラジル所縁の作曲家の作品集も出しているが、その集大成ともいえる仕事が、ナシメント集と今回のこのジョビン集ということになる。前者は確かラテン・グラミー賞も受賞した、自身でも誇るべきかなり力の入った渾身の野心作にして話題作だったが、このジョビン集『ジョビン・フォーエバー』も、それに劣らない好内容の作品と言えそうだ。94年12月に亡くなったジョビンは、もう既に亡くなって四半世紀以上。今なお圧倒的な影響力を誇る彼は、その生涯に膨大な数の作品を残しているが、ここでは所謂ボサノバ中心の作品に焦点を絞った選曲となっている。それだけに決して力感漲る意欲作などでは無く、洗練度を誇る本場の都市音楽=ボッサの本質を抽出、強靭さを内に秘めた軽快さ・爽快さ・洒脱さなどを第一義に考えた、旨味の多い好アルバムに仕上げている。

ここではアメリカのボッサ・ブームの火付け役のひとつ〈イパネマの娘〉を筆頭に、〈ウエイブ〉〈ハウ・インセンティブ〉〈おいしい水〉等々、お馴染みのジョビン銘曲を9曲取り上げており、ジョビンを敬愛して止まない彼の、アレンジャーとしてのペン捌きも流麗な冴えを示す。華麗にして繊細、怜悧さも併せ持つ、ジョビン・ワールドが魅力的に再構築されており、聴くものを充分に魅せる。ここではアドルフォの洗練されたピアノ・プレーをメインに、彼とも付き合いの長いマルセロ・マルティンス(sax & fl)を始め3管編成の面々も、ボッサの雰囲気たっぷりに優雅なアンサンブルを展開、個々人のソロも目一杯の洒脱さを醸し出し、21世紀のボッサ・プレーのある指針を指し示す。またもう一つの注目点はジョビンと長く行動を共にした、ブラジルを代表するドラマーの一人、パウロ・ブラガのゲスト参加で、その音世界の再構築に貢献している。

アドルフォはこの後カエターノ作品集を作るのでは...とも思われるが、その日が来るまでとかくぎすぎすしがちなこのコロナ禍の不安定な日々を一時忘れさせてくれる、このユートピア的楽園サウンドの心地良さに、硬派な聞き手も多い Jazz Tokyo の読者の方たちも、一時浸ってみるのもまた一興だとも思うのだが...。

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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