#2117 『Lyle Mays / Eberhard』
『ライル・メイズ/エバーハルト』by 久保智之

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Text by Tomoyuki Kubo 久保智之

ぎっしりと詰まったLyle Maysの魅力を味わう、至福の13分3秒

『Lyle Mays / Eberhard』
『ライル・メイズ/エバーハルト』

2021年8月27日(金) CD、レコード、デジタル、ストリーミングで世界公開
CD、デジタル音源、関連グッズの通販はLyle Mays Store

EBERHARD 13:03

COMPOSITION,ARRANGEMENT & PRODUCED BY Lyle Mays
ASSOCIATE PRODUCERS Steve Rodby and Bob Rice
EXECUTIVE PRODUCERS Lyle Mays and Aubrey Johnson
RECORDED, MIXED, AND MASTERED BY Rich Breen
RECORDED AUGUST 2019 THROUGH JANUARY 2020

LYLE MAYS piano, synthesizers
BOB SHEPPARD tenor sax soloist, flute, alto flute, clarinet, bass clarinet
MITCHEL FORMAN Wurlitzer electric piano, Hammond B3 organ
STEVE RODBY acoustic bass
JIMMY JOHNSON electric bass
ALEX ACUÑA drums, percussion
JIMMY BRANLY drums, percussion
WADE CULBREATH marimba, vibraphone, orchestra bels, xylophone, tone bells
BILL FRISELL guitar
AUBREY JOHNSON vocals (featured)
ROSANA ECKERT vocals
GARY ECKERT vocals
TIMOTHY LOO cello (principal)
ERIKA DUKE-KIRK PATRICK cello
ERIC BYERS cello
ARMEN KSAJIKIAN cello
より詳細なクレジットはこちらを参照

★「美しいLyle Maysの世界」

あぁ、美しすぎる…
Lyle Maysの魅力がたっぷりと味わえる至福の13分3秒。じっくりとLyle Maysの素敵な世界観に浸りました。
このところ、サブスクで曲を次から次へと聞き流してしまうような日々でしたが、久しぶりにひとつの曲に意識を集中して、音楽の素晴らしさを堪能しました。

本作品「Eberhard」は、Lyle Maysが2009年のZeltsman Marimba Festivalに向けて書き下ろした曲が基となっています。タイトルは、Lyle Maysに多大な影響を与えた、偉大なベーシストであり作曲家であるEberhard Weberにちなんでいます。

Lyle Maysは2011年頃から、音楽活動を一切行わなくなってしまっていましたが、2019年に健康状態が悪化した頃、あらためてこの曲に向き合い、形にしていったそうです。長年の親しい共演者などを集め、5回のレコーディングセッションを行い各パートを録音していったとのこと。Lyle Maysは重病を患っていたそうですが、集めたミュージシャン、プロダクション・チーム、親しい友人にエネルギーをもらいながら、半年間にわたり全身全霊を込めて制作を行っていったそうです。

★「すべてが新しい。でもどこか懐かしい。様々なスタイルのLyle Maysサウンド」

曲を聴いていきましょう。

マリンバの音から穏やかに始まり、静かに入ってくるピアノの響き。0:28あたりの「レ… ミ… ラ… 」の柔らかなタッチを聴いて、その独特のリズムとハーモニーから、「あぁ、Lyle Maysがそこにいる」と感じてしまうのでありました。
曲全体の雰囲気はEberhard Weberの「Maurizius」などを想起させ、Lyle MaysがEberhard Weberに大きな影響を受けていたということをあらためて強く感じますが、浮遊感のあるサウンドからは、「As Fall Wichita, So Falls Wichita Falls / Pat Metheny and Lyle Mays」なども思い出されます。

1:00 Jimmy Johnsonのフレットレス・ベースがメロディを歌い上げます。Jimmy Johnsonは、Lyle Maysプロデュースの「What it takes / Pat Coil 」に参加しています。ベースのメロディがとても美しく印象的で、ピアノと対話をしているかのようです。Jimmy Johnsonは後日インタビューで「Lyle Maysの指示に忠実に従った」と語っていますが、このことから想像すると、このピアノパートとベースパートのメロディは、緻密にデザインされたものなのではないかと思われます。

2:50 聴こえてくる鐘の音などから「Imaginary Day / Pat Metheny Group」のサウンドを思い浮かべていると、このあたりからコーラスがフィーチャーされていきます。透き通った美しい声の主はLyle Maysの姪のAubrey Johnson。この透明感のある素敵な声が、本作の特徴の一つにもなっています。Aubrey Johnsonは、2009年のZeltsman Marimba Festivalでの「Eberhard」初演時にも、Vocalとサブ・キーボーディストとしてLyle Maysと共演をしていたそうです。

4:35 ベースがSteve Rodbyのアコースティック・ベースに切り替わります。Steve RodbyはPat Metheny Groupでも長年の付き合いになりますが、ソロアルバムでもCo-Producerを務めるなど、大事な場面ではいつも側にいる大親友です。本プロジェクトでもAssociate Producerを務めています。演奏家としても、Steve Rodbyのベースが入ると、バンドアンサンブルが一気に聴き慣れたサウンドに変化してしまうのがとても不思議なものです。

6:14 クライマックスに向けてギターやオルガンが加わります。ギターはBill Frisell(Eberhard Weberの「Later That Evening」Lyle Maysのソロ作品「Lyle Mays」「Street Dreams」等で共演)。これまで様々な作品でLyle Maysサウンドの一翼を担ってきたギタリストが、ここでも独特の彩りを添えます。ハモンド・オルガンは、Mitchel Forman。Lyle Maysの趣味の一つであるビリヤードの仲間だそうです(ビリヤードをしている時の写真)。実はこれまでLyle Maysと共演したことはなかったとのことです。

6:30 どことなくPat Metheny Groupの「Tell It All」を感じさせるハーモニー。Aubrey Johnsonのコーラスを再びフィーチャーしながら、少しずつよりジャズ的なサウンドへと変化していきます。

8:34 様々な楽器が重なり合い、いよいよ後半へ。ドラム、パーカッションはJimmy Branly(TEDxCaltech等で共演)とAlex Acuna(「Lyle Mays(ファーストアルバム)」Spectrasonicsのデモ演奏「Duo #1」「Duo #2」等で共演)の二人。場を熱く盛り上げていきます。
その熱気の中で、Bob Sheppard(「The Ludwigsburg Concert / Lyle Mays Quartet」で共演)のテナーサックスが炸裂します。2分程の情熱的なソロを経てAubrey Johnsonと共にエンディングテーマを歌い上げ、曲はクライマックスを迎えます。

11:20 一度静まりかえった場から、再びマリンバのテーマが始まります。そしてそのまま穏やかにフェードアウト。13分3秒の壮大なLyle Maysの世界が幕が閉じます。

聴き終えたあと、幸せな気持ちと寂しい気持ちが混じり合った、とても不思議な気持ちが訪れました。「Lyle Maysは今そこにいる。でも会うことはできない」というような、そんな気持ちでしょうか…

★「Lyle Maysファミリーがつくり上げた入魂のサウンド」

本作品を聴いて感じたのは、穏やかな曲でありながらもそこに漂う、ただならぬ熱量を帯びた一つ一つの音でした。

2019年に「Lyle Maysの挑戦」を支援するべく集まった、Lyle Maysファミリーの面々。
Lyle Maysご自身の気持ちの強さも並々ならぬものがあったと思いますが、周囲の関わる人すべても、Lyle Maysが思い描く音を実現させるべく、気持ちをひとつにして全力で支援をしていったのではないでしょうか。優しく美しい曲ですが、すべての一つ一つの音に、並大抵ではない気迫のようなものを感じました。

Lyle Maysのアイディアがぎっしりと詰まった作品。Lyle Maysと共に時間を過ごしてきた人々の気持ちがぎっしりと詰まった作品。そしてこの難しい時期におけるリリース。奇跡の一枚と言えるのではないかと思いました。

作品をこのように形にしてくださったこと、届けてくださったことに心から感謝しています。
Lyle Maysさん、Aubrey Johnsonさん、Steve Rodbyさん、関係者の皆さん、本当にありがとうございます。

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久保智之

久保智之(Tomoyuki Kubo) 東京生まれ patweek (Pat Metheny Fanpage) 主宰  学生時代にPat Metheny GroupのアルバムOfframpのサウンドに衝撃を受け、以降Pat Methenyの活動及び周辺の音楽を探究中。週末ギタリスト。 https://twitter.com/patweek

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