#2110 『外山喜雄&デキシー・セインツ:デキシー・マジック〜ビビディ・バビディ・ブー、Again!』
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text by Takeo Suetomi 末冨健夫
Nola Music ¥2,750(税込)
演奏:外山喜雄とデキシー・セインツ
1. Bibbidi Bobbidi Boo (シンデレラ)
2. You’ve Got a Friend in Me (トイ・ストーリー)
3. Let It Go (アナと雪の女王)
4. Under the Sea (リトル・マーメイド)
5. When You Wish Upon a Star (ピノキオ)
6. Chim Chim Cher-ee (メリー・ポピンズ)
7. I WannaBe Like You (ジャングル・ブック)
8. The Bare Necessities (ジャングル・ブック)
9. Friend Like Me (アラジン)
10. Heigh-Ho (白雪姫)
11. Grim Grinning Ghosts (ホーンテッド・マンション)
12. Beauty and the Beast (美女と野獣)
13. Bella Notte (わんわん物語)
14. Cruella De Ville (101匹わんちゃん)
15. Hakuna Matata (ライオン・キング)
ジャズの2大巨頭、ツートップと言ったら誰だろう? 「マイルスとコルトレーン」って声があっちこっちから聞えて来そうだ。彼らは確かに凄い。その影響力たるやたしかにツートップと言っても過言ではないだろう。だが、ちょっと待って欲しい。現在世界中で演奏されているジャズの種を蒔いたのは1900年前後のニューオリンズを中心とした地域(ほぼ同時にアメリカ各地でも起こっていたと思うが。ニューヨーク、ボストン等々)で演奏していたクレオールやアフリカン・アメリカン達だ。その中から1901年生まれのルイ・アームストロングが、ひとりでその後のジャズの、いやもっと広くポピュラー音楽の基礎を作って行ったと言っても過言ではない。一方ワシントンD.C.では、1899年にデューク・エリントンが生まれている。サッチモと違って育ちのいいエリントンは、小学生の頃からピアノと音楽理論を学んでいた。1916年にピアニストとしてデビュー後は、後年自身のバンドを率いてプリミティヴな都市型民族音楽とも言えそうなジャズ(と当時呼ばれていたのかどうか?)をサッチモとはまた違った方法で進歩・発展させ、まさに唯一無二の音楽を構築して行った。この二人の存在が無かったら、現在のジャズの姿はかなり違っていたものになっていたはずだ。現在のジャズの直接の方向性は、その後に出て来たチャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、セロニアス・モンク、バド・パウエルらに負うものが多いが。マイルスもコルトレーンも彼らの存在が無かったらもっと違う人生を送っていたはずだ。
さて、前置きが長くなった。そのサッチモに多大な影響を受けた日本人のデキシーランド・ジャズの第一人者のふたり、外山喜雄と恵子夫婦率いるデキシーセインツは、今年で46年目を迎える息の長いバンドだ。長さだけではない、彼等の経歴は、日本ジャズ史上最高の輝きを放っている。1967年移民船「ぶらじる丸」に乗り、船旅でアメリカに渡った。豪華客船の船旅とは正反対な長旅なので、勘違いしないように。渡米後5年間を夫婦二人でジャズの修行に費やした。NYなんかじゃくてニューオリンズ! 最初に住んだのがあのプリザベーション・ホールの真裏の安宿。毎晩ホールで行われている演奏の音が聞こえて来たそうだ。さて、ここからが凄い。そのプリザベーション・ホールに出演し、ニューオリンズの古老達と演奏を共にしていたのだった。1800年代生まれのまさにジャズが産声を上げていた頃の歴史を共に歩いて来た者達との共演は、「新宿PIT INNに出ていました。」とか「ヴィレッジ・ヴァンガードに出演したことがあります。」の次元をはるかに超えた重みを持つ。そんなミュージシャンが日本人にいるという事だけでも、外山喜雄&恵子のふたりの存在の重要度が分かろうと言うものだ。ジョージ・ルイスの葬儀に参列し、演奏も行った。聖者の行進のごとく実際にニューオリンズの葬儀の列に参加して演奏もしている筋金入りのジャズ・ミュージシャン!
ふたりは、1975年に帰国し、「外山喜雄&デキシーセインツ」を結成。1983年の東京ディズニーランド開業以来2つのバンドを率いて毎日演奏をし、それは2006年まで続いた。彼らの演奏を聴いた人は、この23年の間に通算1000万人を超えるらしい。おそらく日本で最も聞かれたジャズの演奏ではなかろうか。
今年は、ウォルト・ディズニーとルイ・アームストロングの生誕120年になるのを記念して、外山喜雄&デキシーセインツは、ディズニーの様々な曲を演奏しこの偉大な二人に捧げるアルバムを作りました。それが、この『デキシー・マジック・ビビディ・バビディ・ブー、Again』です。なぜAgainが付くかと言うと、2000年に『デキシー・マジック・ビビディ・バビディ・ブー』をすでにリリースしているのでした。ルイ・アームストロングには、『Disney Songs The Satchmo Way』というサッチモが歌い演奏するアルバムがあり、ディズニーとサッチモの華やかさ、楽しさ満載のアルバムは、私も長年聴き続けて来ました。その中に、もう1枚の楽しいアルバムが加わったのが、『デキシー・マジック・ビビディ・バビディ・ブー』でした。それから21年後に再び吹き込むことになったのが、本作となります。前作からドラムスのマイク・レズニコフが木村おうじ純仕に、クラリネットが鈴木孝二から広津誠に変わり、ソプラノ・サックスの田辺信男が数曲加わる。トロンボーンの粉川忠範とベースの藤崎洋一は不動のメンバーだ。
サッチモの演奏でもそうだが、ディズニーの曲はジャズ、それもこのようなトラディショナルのスタイルの演奏にぴったりとハマっている。曲によっては、ラテン/アフリカン・リズムが飛び交ったり、〈フレンド・ライク・ミー〉のようにどこかエリントン・サウンドの香りがしたりとなかなか多彩な表情を見せる。ところで、私は、ディズニーの映画は正直言うと見たことが無いのだ。アメリカのアニメはせいぜい「トムとジェリー」くらいしか知らないので、曲毎のレヴューは不可能。だが、『Disney Songs The Satchmo Way』と『デキシー・マジック・ビビディ・バビディ・ブー』のおかげで鼻歌を歌えるようになった曲もある。さすがに〈ビビディ・バビディ・ブー〉、〈ハイホー〉、〈チムチム・チェリー〉(コルトレーンも演奏している)、〈星に願いを〉くらいは知っているが...。そういえば〈星に願いを〉は、リンゴ・スターも歌っていたな。これらの曲をデキシー・スタイルで演奏する『デキシー・マジック・ビビディ・バビディ・ブー』『Again』は、サッチモの『Disney Songs The Satchmo Way』共々お薦めいたします。「音楽は楽しけりゃいいじゃん。」には大いに反発する私ですが、この3枚は大いに楽しめます!
ジャズ・ファンを自認する人でも、ほとんどがビ・バップ以降。実際はハード・バップ以降からフュージョンあたりまでが多いようだ。チャーリー・パーカーすら聞かない人が多い。ましてやスウィング以前となるともっと減る。ニューオリンズ/デキシーランド・ジャズともなると絶滅危惧種かもしれない。今時、自称ジャズ・ファンにキング・オリバー、ジョージ・ルイス、バンク・ジョンソン、キッド・オーリー、ジミー・ヌーン、トミー・ラドニア(本当の発音は違うらしい)、マグシー・スパニア、ジョージ・ウェットリング、エマニュエル・セイルス、ジェリー・ロール・モートン、アーヴィング・ファゾーラ、オリジナル・デキシーランド・ジャズ・バンド等々と言ったって「名前くらいは聞いたことがあるような無いような...?」に違いない。古い音楽だし録音だし、とっつきにくいかもしれないがぜひ聞いて欲しい。ジャズ全体を見る目が変わって来ます。日本では、まずは「外山喜雄&デキシーセインツ」を。外山喜雄氏のトランペットや歌をもっと楽しみたい人には、『ラルフ・サットン&外山善雄:デュエット』がお薦め。そして、外山恵子氏のバンジョーやピアノがもっと聴けるアルバムの出現を強く望みます!(ちゃぷちゃぷレコード・プロデューサー)
♫インタヴュー(外山喜雄+惠子さん)
https://jazztokyo.org/interviews/post-67448/
♫著書紹介
https://jazztokyo.org/reviews/books/post-67514/