#2111 『リック・カントリーマン/ファースト・バード』
『rick countryman / “the first bird”』

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text by Yoshikai Onnyk Kinno 金野onnyk吉晁

rick countryman “the first bird” (2021)
ChapChap CPCD021

Rick Countryman (alto sax)

1.The fist bird (5:03)
2.It is time (4:46)
3.Lost and found (2:56)
4.One Mind two hands (4:47)
5.Wood Topia (3:43)
6.Emerald (6:43)
7.What??? If!!! (4:04)
8.Deep Style is (3:25)
9.Shape of the line (2:04)
10.Large as life (for Sonny) (3:19)


「鳥は今どこを飛ぶか」

リック・カントリーマンの無伴奏サックス・ソロが発表された。既にJT, No. 280「及川公生の聴きどころチェック」で音響的なことは紹介されている。

その他、彼は既にサブ豊住との数々の共演盤のリリースで、Jazz Tokyo では私も何度かレビューしている。しかし純然たるソロでの初登場は、この独自路線の人が、虚空にいかなる「書」を描くのか極めて興味あるところだ。
マサチューセッツ州出身、1957年1月生まれたというからには、私と生まれ月まで同じ64歳だ。

フリージャズの影響を受けつつ、長く音楽シーンに知られる事なく過ごして来た。彼が師と仰ぐのは、先頃逝ったサックス奏者、ソニー・シモンズと、長いキャリアのベーシスト、マイケル・ビシオ、そしてリード奏者、バート・ウィルソンだ。

2011年フィリピンに移住。マニラを中心に活動するようになり、豊住芳三郎を招き、同地で録音された数々のセッションを怒濤の勢いでリリースし始めた。秘めていたサウンドを一気に噴出せんばかりに。しかもフリージャズの辺境、フィリピンから。

本サイトに、彼はソニー・シモンズ追悼の寄稿をし、「バート・ウィルソンは、ソニーこそコルトレーン亡き後、彼の衣鉢を継ぐべき人と固く信じていた」と記し、リック自身もそれに同調している。

この、リックの、おそらく初のソロ・アルバムには、2分から6分台の10トラックが収録されている。彼のサックスは決して華麗流麗なものではない。しかし決してフリーキートーンやヌードリングに走った、情念的奔流というのではない。クリシェを気にしなければ、ある意味、淡々と、来し方行く末を見定めた、落ち着きのある即興演奏だ。

フリーミュージックのソロでは、模索しながら終わりに向かうプロセスになるか、方法論やアイデアによる短いソロの配列というのはよく見られる。

サックスの運命なのかもしれないが、勢い込んで演奏する程に単調になってしまうということもある。これでもかと気合いを入れると、独りよがりになりやすい。それを如何に乗り越えるかが、無伴奏サックスの課題でもある。

例えばレイシーやコニッツのように明確なテーマがある場合は、自在な変奏の妙を堪能できる。

ルーマニアの現代音楽系サックス奏者ダニエル・キエンツィは、あらゆる特殊奏法を自家薬籠中のものとし、作曲家ベン・ジョンストンの、恐ろしく単調で味気ない、しかも複雑な曲を延々と、サックス全種で全く乱れる事なく独奏する驚くべきテクニシャンである。

1901年に生まれ、百歳を越えるまで生きた、ナディア・ブーランジェの弟子、パリ音楽院の教授だったマルセル・ミュールは、二つの世界大戦を越えて、多くの弟子を育て、かつその独奏があまりにも美しい音色のサックス奏者として、記憶されるべき人だ。

レイシー、コニッツは草書の、キエンツィはタイポグラフィの、そしてミュールは美しい手描きカリグラフィの「書家」だと私は勝手に思っている。

嗚呼、ジャズサックス界には、なんと多くの「書家」達がひしめき合っていることだろうか。

先頃来日したカナダのフランソワ・キャリリールもソロアルバムこそ無いが、キャノンボールを愛する、21世紀の新古典主義的フリージャズとも言えるかもしれないし、話題のリューダス・モツクーナスはリトアニアからやって来たパワーとテクニックを備えた最新即興最終兵器だ。

とにもかくにも注目すべき今世紀のサックス奏者は目白押しだ。彼等は皆自分の観念、方法、技術で群雄割拠している。しかしどれだけの者が無伴奏ソロに挑むだろうか。

いや、違う。サックスを志す者は誰でも一度はソロという孤独な時間、まっさらな虚空に軌跡を描いてみなければならない筈だ。それは楷書でも行書でも草書でもいい。漢籍ではなく仮名書きでも和漢混淆でもいい。

サックスのソロは自己との対話である。それを他者に訴えられるだけの技量と意志を持つ者だけがライブで、アルバムで日記をさらけ出す。

私がサックス演奏の自己の頂にあったと自覚したのは十年以上前だ。しかしリックは64にして無伴奏ソロを完成した。貴方はまだ登り続けるのか。貴方が大気中に放った「最初の鳥」、それは確かに届いた。

金野 "onnyk" 吉晃

Yoshiaki "onnyk" Kinno 1957年、盛岡生まれ、現在も同地に居住。即興演奏家、自主レーベルAllelopathy 主宰。盛岡でのライブ録音をCD化して発表。 1976年頃から、演奏を開始。第五列の名称で国内外に散在するアマチュア演奏家たちと郵便を通じてネットワークを形成する。 1982年、エヴァン・パーカーとの共演を皮切りに国内外の多数の演奏家と、盛岡でライブ企画を続ける。Allelopathyの他、Bishop records(東京)、Public Eyesore (USA) 等、英国、欧州の自主レーベルからもアルバム(vinyl, CD, CDR, cassetteで)をリリース。 共演者に、エヴァン・パーカー、バリー・ガイ、竹田賢一、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、豊住芳三郎他。

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