#2130 『Pat Metheny / Side-Eye NYC V1.VI』
『パット・メセニー/ Side-Eye NYC V1.VI』

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text by Tomoyuki Kubo 久保智之

Modern Recordings

Pat Metheny (Guitars, Guitar Bass, Orchestrionic)
James Francies (Organ, Piano, Synths)
Marcus Gilmore (Drums)

1. It Starts When We Disappear
2. Better Days Ahead ^
3. Timeline
4. Bright Size Life
5. Lodger
6. Sirabhorn
7. Turnaround *
8. Zenith Blue
9. The Bat

All Music Composed/Arranged by Pat Metheny
(Except ^ arranged by Pat Metheny and James Francies and * composed bu Ornette Coleman)
Produced by Pat Metheny. Co-produced by Steve Rodby
Recorded, Mixed and Mastered by Pete Karam
Recorded September 12 and 13, 2019 at Sony Hall NYC

★Pat Methenyの約半年ぶりの新作!

2021年9月10日、Pat Methenyの新作がリリースされた。前作「Road To The Sun」のリリースから約半年。前作はクラシックギターの楽曲を「作曲家」という立場で発表した作品。自身の演奏はほとんどなく、ファンとしては少し物足りなく感じたところもあったが、本作は若いミュージシャンとのベースレスという変則的なトリオによるライブ演奏。新たなアプローチで新旧曲に取り組んだとても意欲的な作品だ。

この「Side-Eye」はPat Methenyが、近年活躍している若手アーティストに焦点を当てながら新たなサウンドを創り出していくプロジェクトだ。本作のタイトルには「V1.IV」という記号のようなものがついているが、これはユニットを組んだミュージシャンの組み合わせを示している。現時点ではPat Metheny (Guitars, Guitar Bass, Orchestrionic), James Francies (Organ, Piano, Synths)の二人を固定メンバーとして、ドラマーが少しずつ変化したユニットとなっている。組み合わせは次のとおりである。

  • V1.I : Pat Metheny, James Francies, Eric Harland
  • V1.II : Pat Metheny, James Francies, Anwar Marshall
  • V1.III : Pat Metheny, James Francies, Nate Smith
  • V1.IV : Pat Metheny, James Francies, Marcus Gilmore
  • V1.V : Pat Metheny, James Francies, Joe Dyson

本アルバムの「V1.IV」は「バージョン1.4」という意味だそうだ。Marcus Gilmore (Drums)と組んだ第4世代のユニットによる2019年9月の演奏を収録したものだ。この名称の前半についている「V1」とは、おそらくJames Franciesとのユニットであることを指しているのだろう。この先James Francies以外のアーティストと組んだV2も想定しているのかもしれないが、現時点ではSide-EyeプロジェクトはPat MethenyとJames Franciesによるプロジェクトとも言えそうだ。

思い起こせば、本作品収録の約半年前の2019年1月にブルーノート東京にてNate Smithと組んだユニットでの来日公演があった。この時は突然の「Side-Eye」というプロジェクト名発表とメンバー発表と、これまでにないアグレッシブなサウンドに度肝を抜かれたが、この時すでにSide-Eyeプロジェクトは「V1.III(バージョン1.3)」の状態だったということのようだ。「Side-Eye」としてのスタイルがほぼ確立したのがこの「V1.III」ということかもしれない。後述するが「V1.I」や「V1.II」のユニットでは長期のライブ・ツアーは行われていないようだが、この「V1.III」のユニットでは、2019年1月の日本公演の後、2019年3月から4月にも米国内ツアーが行われた。

★「Side-Eye NYC V1.VI」の各曲について

「V1.III」でのツアーの後、Marcus Gilmoreと組んだ「V1.IV」による活動は、2019年8月末からスタートした。約2週間のツアーでの演奏を重ねた後、本アルバム「Side-Eye NYC V1.VI」は、2019年9月12日・13日にニューヨークのソニーホールにて収録された。当日の様子はNHK BSプレミアムにて放映されたが、本音源はその時と同じ内容だと思われる。

収録曲をひとつずつ確認していこう。

  • It Starts When We Disappear
    本ユニット「Side-Eye V1.IV」ために書き下ろされた曲。14分近い壮大な曲だ。オーケストリオンも加わり、トリオでの演奏とは思えないドラマチックな展開となっている。ところどころに入る幻想的なシンセサイザーの音はJames Franciesによるものだ。Side-EyeプロジェクトでのサウンドはJames Franciesの左手のシンセベースが特徴的だが、この曲でのベースパートはシーケンサーによるもののようだ。James Franciesの熱いピアノソロに続いてPat Methenyの渾身のギターソロが続く。アルバムのオープニング曲として「さぁ、これがSide-Eye V1.IVだ!」といった、イントロダクションのような内容となっている。
  • Better Days Ahead
    1989年リリース「Letter From Home / Pat Metheny Group」収録曲。オリジナルはブラジリアンテイストで多くのパーカッションとともに賑やかに流れていく曲だが、本作品ではスローテンポでしっとりと演奏されている。クレジットを見ると、「arranged by Pat Metheny and James Francies」と書かれており、このユニット向けの特別なアレンジであることがわかる。Pat Methenyのソロ部分での2:13あたりのハーモニーや、James Franciesのキーボード・ソロは3:08あたりでベースラインもメロディに加わってくるところなど、このテンポだからこそ味わえるような楽しさが満載で、この曲の持つ深い魅力が伝わってくる。
  • Timeline
    1999年リリース「Time Is Of The Essence / Michael Brecker」収録のブルース曲。オリジナルもベースレスでLarry Goldingsのオルガンが映える曲だったが、James Franciesもこの曲はオルガンで参戦。Patの冴えまくりの7回転のソロからのカッ飛びのオルガンソロ、そして三位一体となったエンディング。この一体感、そして高揚感。まるでこのユニットのために書き下ろされた曲のようだ。
  • Bright Size Life
    1976年リリースの「Bright Size Life / Pat Metheny」収録曲。オリジナル曲ではJaco Pastriousのベースに惹き寄せられるが、本作ではJames Franciesのシンセベースに釘付けだ。Marcus Gilmoreの細かなシンバルワークやリムショットも相まって、なんという疾走感!  2〜4曲めは旧作品の演奏だが、いずれも異なる演奏スタイルで表現しつつ、それぞれがオリジナルとは違う魅力に溢れている。このユニットには、いったいどれだけの奥行きがあるのだろうか…
  • Lodger
    2019年1月のブルーノート東京でのSide-Eye公演(ドラムはNate Smith)でも新曲として披露されたディストーションギターによる楽曲。Pat MethenyのアイドルであるAdam Rogers (Guitar) にちなんだ曲とのことだが、こうした曲調はPat Methenyとしては珍しいのではないだろうか。
    ところで、そういえばAdam Rogersのトリオフォーマットのグループ「Dice」のドラマーはNate Smithだったのではないか?!  ということは、「Side-Eye V1.III」のドラマーがNate Smithだったのは、もしかすると「Dice」の影響もあったのだろうか…?
  • Sirabhorn
    この曲もBright Size Life と同様、1976年リリースの「Bright Size Life / Pat Metheny」収録曲。ギターのイントロに続き、Marcus GilmoreのシンバルとJames Franciesのベースが静かに伴走する。ギターソロの進行に従い、シンバル類が次第に広がりを見せ、ベースの動きも増していく。オリジナルでは12弦ギターによるハーモニーが爽やかな独特の空間を生み出しているが、本作ではアコースティックピアノによるサウンドがオリジナルとはまたひと味違った美しい世界を生み出している。
  • Turnaround
    1980年リリースの「80/81 / Pat Metheny」に収録されているOrnette Colemanの曲。Pat Methenyがしばしばライブで演奏をするブルース曲だ。ギター・ソロ前半はMarcus Gilmoreとのデュオ状態でまずPatがフリーな状態で伸びやかにソロを繰り広げる。6回転めからJames Franciesのピアノが加わり、グイグイとこのトリオらしいサウンドに音が重ねられていく。この曲ではベースパートもアコースティックピアノによるものだ。アコースティックピアノとナチュラルトーンのギター、そしてドラムというナチュラルな音の組み合わせで、それぞれがぶつかり合うことなく丁寧に空間を埋めていくような、とても豊かなサウンドだ。
  • Zenith Blue
    一曲目の「It Starts When We Disappear」と同様に、本ユニットのために書き下ろされた曲。リードをとるのはGRギターのPat Methenyおなじみのシンセサウンド。組曲のように様々に形を変えていく12分近い、アルバムのラストにふさわしいとてもドラマチックな作品だ。

余談だがNHK BSプレミアムでの放映時は、この曲は「When It’s Now」というタイトルだったが、正式な名称は「Zenith Blue」となったようだ。「Zenith Blue」というタイトルとなった経緯は不明だが、この名称を調べたところ、「薄い少し紫がかった水色」のことを言うようだ(ゼニス・ブルー 色見本)。その色を見てみると、なんとなくこのSide-Eyeのライブ演奏時に着ていたPatのボーダーシャツの色のように思えてくる。もしかすると…?(参考:この下の写真のボーダーシャツ)

  • The Bat (日本盤bonus track)
    1980年リリースの「80/81 / Pat Metheny」に収録されているバラード。日本盤のみのボーナス・トラックだが、この曲もソニーホールでのライブ時に収録された演奏である。前半はドラム、ベースとのギタートリオのように静かに始まり、ソロの途中からJames Franciesのアコースティックピアノが大きな空間をつくりあげていく。Marcus Gilmoreのシンバルワークもとても美しい。Pat Methenyのソロ・ギターを二人が寄り添いながら静かに支えているような演奏だ。Zenith Blueまでの熱いライブ演奏を聴いた後の気持ちをそのままに、心地よく静かにクールダウンさせてくれるような、とても素敵なボーナストラックだ。

<↓ 2019/9/4 Detroit Jazz FestivalでのPat Metheny, James Francies, Marcus Gilmore Patはこのユニットではいつもこのボーダーシャツですね…>


★Pat MethenyとJames Franciesとの出会いから本アルバムのリリースまでの軌跡

Side-Eyeプロジェクトは、現時点ではPat MethenyとJames Franciesのプロジェクトのような活動となっている。この二人の出会いから本アルバムリリースまでを追ってみる。

・2016年9月

Pat MethenyとJames Franciesとの出会いは、2016年9月のMonterey Jazz Festivalにさかのぼる。

Pat MethenyはこのMonterey Jazz Festivalには、Gwilym Simcock (Piano), Linda May Han Oh (Bass), Antonio Sanchez (Drums)とのカルテットで出演しており、James FranciesはJeremy Dutton (Drums),  Zach Ostroff (Bass)とのトリオで出演していた。ライブ会場での2人の直接の出会いは無かったようだが、PatとJamesは帰りの飛行機が一緒で、Patを見かけたJamesが「あなたの大ファンなんです」と声をかけたそうだ。PatもJames FranciesがHSPVA(*)の高校生だった頃から活躍について噂を聞いていたようで「来週うちに来るか?」という話になったようだ。Jamesの高校時代の活躍については、同じくHSPVA出身のベテランドラマーEric Harland (Drums)から聞いていたそうで、このPat, James, Ericの3人でのセッションの場が生まれたのだと思われる。この頃「Side-Eye」というユニット名はまだ無かっただろうが、おそらくこのセッションが「Side-Eye V1.I」なのだろう。

※HSPVA: High School for the Performing and Visual Arts in Houston

<↓ 2016/10/7のPat Metheny, James Francies, Eric Harlandのセッション時と思われる写真>

 


・2017年8月

PatがJamesと始めたユニットは、最初からベースレスの形式に決めていたわけでもなさそうだ。2017年8月にPatは、James Francies, Vicente Archer (Bass), Bill Stewart (Drums)のカルテットでのライブを3日ほど行っている。

<↓ 2017/8/13 Pat Metheny, James Francies, Vicente Archer, Bill Stewartとのカルテット演奏時の写真>

 


・2018年2月

2018年2月には、James Francies, Anwar Marshall (Drums)とのライブが数日あったようだ。これが「Side-Eye V1.II」なのだろう。こうしてカルテットやトリオでの演奏の感触を踏まえて、少しずつスタイルが固まっていったと思われる。

<↓ Pat Metheny, James Francies, Anwar Marshall でのライブ時と思われる写真>


・2019年1月

2019年1月は、Pat, James, Nate SmithとのSide-Eye日本公演があった。「Side-Eye」というプロジェクト名もこのユニットで正式に発表された。Side-Eyeのバージョンとしては、このユニットは「V1.III」となるようだ。

<↓ 2019/1 BN東京 でのPat Metheny, James Francies, Nate Smithとのライブ時の写真>

 

<↓ 2019/1 BN東京 でのPat Metheny, James Francies, Nate Smithとのライブ時の写真>

 


・Side-Eyeプロジェクトの年代ごとのまとめと今後の活動

Side-Eyeの活動を年代ごとにまとめると次のようになる。

  • V1.I (2016): Pat Metheny, James Francies, Eric Harland
  • V1.II (2018): Pat Metheny, James Francies, Anwar Marshall
  • V1.III (2019): Pat Metheny, James Francies, Nate Smith
  • V1.IV (2019): Pat Metheny, James Francies, Marcus Gilmore
  • V1.V (2021): Pat Metheny, James Francies, Joe Dyson

ドラマーには6名の候補者がいると言われているが、2021/9現在、ドラマーはJoe Dysonとなり、本アルバムからもうひとつバージョンの上がった「V1.V」という新たなユニットでライブ・ツアーが開始されている。この「V1.V」向けにも新曲が書き下ろされたようであり、ツアー後にスタジオ録音をするような話も上がっているようだ。

Pat Methenyの「Side-Eyeプロジェクト」… 今後まだまだ大きな進化を遂げていくのだろう。この先の活動もとても楽しみだ。

久保智之

久保智之(Tomoyuki Kubo) 東京生まれ patweek (Pat Metheny Fanpage) 主宰  学生時代にPat Metheny GroupのアルバムOfframpに衝撃を受け、以降Pat Methenyの活動及び周辺の音楽を探究中。趣味はビリヤニ・南インドカレーづくり。週末ギタリスト。 https://twitter.com/patweek

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