#2124 『上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット/シルヴァー・ライニング・スイート』
『Hiromi The Piano Quintet / Silver Lining Suite』

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11:49PM / Hiromi The Piano Quintet at Blue Note Tokyo

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

『上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット/シルヴァー・ライニング・スイート』
『Hiromi The Piano Quintet / Silver Lining Suite』

TELARC / ユニバーサル ミュージック
2021年9月8日 日本先行発売 10月8日 世界発売

上原ひろみ Hiromi Uehara: piano
西江辰郎 Tatsuro Nishie: 1st violin
ビルマン聡平 Sohei Birmann: 2nd violin
中 恵菜 Meguna Naka: viola
向井 航 Wataru Mukai:cello

1. Silver Lining Suite: Isolation
2. Silver Lining Suite: The Unknown
3. Silver Lining Suite: Drifters
4. Silver Lining Suite: Fortitude
5. Uncertainty
6. Someday
7. Jumpstart
8. 11:49PM
9. Ribera Del Duero

All composed by Hiromi
Recorded at Studio Tanta, Tokyo on April 28-30, 2021
Recorded by Mick Sawaguchi 沢口真生 (Mick Sound Lab)
Mixed & Mastered by Robert Friedrich (Five/Four Productions)
Piano Technician: Yuji Yonezawa 米澤裕而
Produced by Hiromi 上原ひろみ
Executive Producer: Michael Bishop

ユニバーサル ミュージック 詳細はこちら
初回限定盤(SHM-CD 2枚組):UCCO-8042/3 ¥3,630 (税込)
※2020年9月のブルーノート東京でのソロ・ピアノ・ライヴ「Ballads」を収録したボーナスCD付の2枚組
通常盤(SHM-CD):UCCO-1231 ¥2,860 (税込)
SA-CD~SHM仕様:UCGO-9056 ¥4,400 (税込)
jazz.lnk.to/HiromiUehara_SLS

“Every cloud has a SILVER LINING.”
どんな厚い雲にも”銀の裏地”があり、雲の輪郭に明るく見える部分があって、つまり雲の向こうには必ず光がある。転じて、どんな厳しい状況でも必ず希望や良いことがある。日本では馴染みが薄い英語表現だが、とても勇気づけられる素敵な言葉だ。そんな想いで創られた組曲<Silver Lining Suite>は、「SAVE LIVE MUSIC」シリーズのひとつとして「ザ・ピアノ・クインテット」により2020年12月28日〜2021年1月4日にブルーノート東京で披露された。

上原ひろみは、アンソニー・ジャクソンとサイモン・フィリップスとの「Hiromi The Trio Project」でのツアー、ピアノソロツアーをはじめ、この10年以上に渡って、年間100日以上、150公演以上と世界を駆け巡る旅の生活を続けて来ていて、ひろみの「冒険」そのものであったから、COVID-19感染拡大によって最も大きな変化に直面したミュージシャンの一人となった。ひろみの日常から旅とコンサートのすべてが一瞬で消える喪失感と不安は想像を絶するものがある。

Interview on Silver Lining Suite – Album Trailer

その喪失感の中から、ひろみは今できることに動き出す。ジャズクラブでのライヴを守っていくために、特にブルーノート東京は来日ミュージシャンの招聘で構成されていたため危機的状況となり、ハコとそのスタッフたちを守るために、2020年8月よりブルーノート東京「SAVE LIVE MUSIC」シリーズを開始。8月25日〜9月16日の16日間32公演で4つのテーマでピアノソロ公演を行う。定員5,012人の東京国際フォーラム ホールAを3日間をすぐに完売にするひろみだが、32公演でようやく東京国際フォーラムの1回分に匹敵する。ライヴ配信も行われたので、実際には世界中のより多くのファンが視聴することができた。「SAVE LIVE MUSIC RETURNS」として2020年12月28日〜1月4日の8日間16公演での「ザ・ピアノ・クインテット」などが企画されたが、1月6日以降分の「上原ひろみ~デュオ~with 熊谷和徳」とピアノソロはCOVID-19感染拡大により全て3月に延期となったから、ザ・ピアノ・クインテットはぎりぎり間に合ったプロジェクトだった。「SAVE LIVE MUSIC III」では、矢野顕子とのデュオ、ピアノソロ「Ballad 2」が行われた。

「SAVE LIVE MUSIC」シリーズの中でも「上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット」は最も野心的な新プロジェクトだった。年末のブルーノート東京公演を考えて、もともと弦楽器のサウンドが好きで、バークリー音楽大学でも弦楽の作編曲も学び、実際にオーケストラ作品も書いてきていたので、ピアノ+弦楽四重奏のアイデアが浮かぶ。2015年にひろみが新日本フィルハーモニー交響楽団と共演した際に、そのコンサート・マスターであった西江辰郎に連絡を取り、スケジュールを確認し、チェロがピチカートを多用する点などプロジェクトに合うメンバーを人選し、作曲を行ない、リハーサルを重ねた。

<Silver Lining Suite>の各曲は、<Isolation>、<The Unknown>、<Drifter>、<Fortitude>と題され、できれば英語のニュアンスをそのまま感じていただくとして、孤立、未知のもの、彷徨い、不屈の精神。2021年ではなく、2020年の状況を思い出してみて欲しい。序曲的に意外に明るめで一定のテンポを刻みながら増して行く違和感とともに日常が進行する<Isolation>、SF映画のエイリアンやウイルスの恐怖と現実が交錯するような<The Unknown>、どこかもの悲しくも美しい<Drifter>から、COVID-19に打ち克ち前進する闘志を剥き出しにする<Fortitude>へ。

もともと、ひろみの曲の数々はトリオやソロであってもオーケストラを感じさせる色彩感と構成美を豊かに持っていて、全く新規に拡張したというよりも、本来の持ち味が分担されサウンドがリアルに広がるイメージだ。音色の色彩感の広がりはもちろん、ピアノの減衰音と弦の持続音の違いもあり、アルコに加えてピチカートも多用する点でも表現に幅を出ている。そして多くを弦楽四重奏に託して専念するピアノの音は、いつもよりシンプルでありかえってパワーを増して心に届く。ときにコンチェルトのピアニストのようであり、ときにいわゆるジャズピアノらしい音が聴こえてくる。ハーモニーや構成をいたずらに複雑にし過ぎたり、あまりに未知のサウンドに飛躍するよりも、聴く者の記憶と直感に訴え、誰も置いてきぼりにすることがない。しかし、わかりやすいピアノの上にこそ、複雑な弦のフレーズの絡み合いとハーモニーを載せて来たりするところは見事だ。弦楽四重奏という必要十分な編成を手に入れて、絶妙な響き合いとリズム感を巧みにスコア上に構築し、これまでにない美しい響きと躍動感を創り出した素晴らしい作品となった。見かけの聴き易さ、心地良さに比べてとてつもなく高度な内容であり、相当な技量を必要とする。そして生み出される音の総体は、ひろみならではの緻密でパワフルな音楽に他ならない。

<Silver Lining Suite>の後は、ピアノソロによる、不安感を描きながらも優しく美しい新曲<Uncertainty>を間に挟み、少しクールダウンさせる。

続いて、COVID-19禍にあって、いままでインスピレーションを与えてくれたミュージシャンのために、ひろみが1分間の曲を書き下ろし、リモートで共演した映像を公開するという期間限定SNSプロジェクト「One Minute Portrait」で発表された3曲、<Someday>、<Jumpstart>、<Ribera Del Duero>を収めている。それぞれ、アヴィシャイ・コーエン(b)、ステファノ・ボラーニ(p)、エドマール・カスタネーダ(harp)に捧げた曲からが生まれた。1分間に限った明確な曲想である分、ストレートでグルーヴが心に届く。また、 2012年のザ・トリオ・プロジェクトの『MOVE』、1日を描いたアルバムの最終曲である<11:49PM>を収めた。後半の4曲も熱く想いのこもった演奏を繰り広げ、聴く者の気持ちをどこまでも高揚させて行く。

ひろみのコンサートに行くと、ジャズファンに限らず年齢層も異なる幅広いファンが集まり、ひろみからパワーを受け取って笑顔で帰って行くのが印象的だ。<Silver Lining Suite>はまさに聴き手にパワーを送りながら、ひろみ自らを奮い立たせていく。まだ先が見えないとはいえ、ニューヨークのエンターテイメントが本格再開して間もない今、ブルーノート・ニューヨーク主催で、2021年10月7日〜8日(4公演)、ニューヨークのソニー・ホールで早くもアメリカ初演されることは、まさにひろみの立ち止まらない前進と闘志の象徴にも思える。

国内ではこの夏、2021年8月22日に「フジ・ロック・フェスティバル」(苗場)で演奏され、観客に熱狂で迎えられた(JAZZ TOKYOライヴレポート参照)。そして11月からは全国ツアーが始まる。コンサートホールでのひろみと仲間たちの響き合いを楽しみながら、2022年を希望の光とともに迎えたい。

●題名のない音楽会
「上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテットの音楽会」

2021年10月30日(土) 10:00〜30 テレビ朝日
2021年10月31日(日) 08:00〜30 BS朝日
「題名のない音楽会」ウェブサイト
各放送局の放送時間はこちら

●上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット
JAPAN TOUR 2021 “SILVER LINING SUITE”

11月11日(木)松本 まつもと市民芸術館
11月12日(金)名古屋 愛知県芸術劇場 コンサートホール
11月14日(日)大阪 ザ・シンフォニーホール
11月23日(火・祝)広島国際会議場 フェニックスホール
12月4日(土)札幌 カナモトホール(札幌市民ホール)
12月7日(火)大阪 ザ・シンフォニーホール
12月8日(水)福岡 福岡国際会議場 メインホール
12月9日(木)東京 Bunkamura オーチャードホール
12月12日(日)静岡 アクトシティ浜松 大ホール
12月24日(金)宮城 日立システムズホール仙台 コンサートホール
12月27日(月)東京 Bunkamura オーチャードホール
12月28日(火)東京 Bunkamura オーチャードホール
詳細は、上原ひろみ公式ウェブサイト

【報道ステーション】上原ひろみ <Jumpstart>生演奏  (2021年9月10日放送)

One Minute Portrait “Avishai Cohen” <Someday>の原曲

One Minute Portrait “Stefano Bollani” <Jumpstart>の原曲

One Minute Portrait “Edmar Castaneda” <Ribera Del Duero>の原曲

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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