#2138 『Hermon Mehari&Alessandro Lanzoni / ARC FICTION』
『ハーモン・メハリ&アレッサンドロ・ランゾーニ/アーク・フィクション』

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text by Keiichi Konishi 小西 啓一

Mirr Collective Musiques Créative MIRR4

Hermon Mehari (tp)
Alessandro Lanzoni (p)

1. Savannah
2. End of the Conqueror
3. B/Bb’
4. Dance Cathartic
5. Reprise in Catharsis
6. Volver
7. Peyote
8. Fabric
9. Boston Kreme
10.Donna Lee
11.Peoombra

Produced by Heron Mehari and Alessandro Lanzoni
Record, mixed and mastered by Stefano Bechini
Recorded and Mixed of ENTROPYA RECORDING STUDIO (Perugio, Italy)


今、ジャズが最も沸騰している(らしい)都市…となると、ぼくのイメージではロンドンとなる。そこでは今、最注目のサックス奏者、シャバカ・ハッツティングスをはじめヌエバ・ガルシア等々多士済々の面々が集い、熱く激しくかつ寛ぎも伴った、独自のダイナミズム溢れるジャズが展開されているとも聞く。アフリカ系や中南米・カリブ系等の生きの良いミュージシャン達がメインで、それに中近東系なども加わり、それぞれの要素が混然一体化した熱狂の “パン・アトランティック・ジャズ”。今、ぼくは混血音楽としてのジャズを体現した、この “ロンドン・コーリング” にいたく心動かされているのだが、このロンドンと良く似た状況に在るだろうと推測できるのが、隣国フランスの首都パリなのである。

そしてこの蠱惑・狂乱の都市へと生地のカンサス・シティを飛び出し、ダイレクトにその渦の中に飛び込み、今やその地を拠点に欧州各地やアフリカそしてカリブ各地などにも進出、またジャズ以外の幅広い分野でもその才を発揮しているのが、このアルバムの主役にして注目の気鋭トランぺッター、ハーモン・メハリなのである。その彼の存在は日本のファンには、未だほとんど知られていない様だが、こと本誌 Jazz Tokyo では、結構小まめにその動向や新作をフォローして来ているので、その名前に見覚えある方も少なくない筈。実質のデビュー作『ブリュー』では同郷の先輩、ローガン・リリャードソン(sax)等と共演、気鋭らしい鋭敏で生きの良いプレーを全編で展開。さらに前作『ア・チェンジ・フォー・ザ・ドリームライク』では、地の利も生かしパリ在住のアフリカ系ミュージシャンなども伴い、自身の一族のルーツ~エリトリアなども素材に、アフリカ色やカリブ色などを織り込んだ、悠々として蠱惑的で悲哀をも抱え込んだ、ある種のメハリ流 “楽園音楽” を聴かせてくれていた。

そうした多様な表現でファンを惹き付けて来た彼の新作は、イタリアの次代を担うピアニスト、アレッサンドロ・ランゾーニとのデュオ作『アーク・フィクション』。ランゾーニはイタリアの CAM Jazz などでリーダー作を発表しており、ヨーロッパの主要ジャズ賞である“マーシャル・ソラール賞” などの受賞歴を誇る、クラシックの素養も充分な確固とした技巧を誇る俊才。拠点のパリからイタリアに出向き収録されたこのデュオ作、メハリの新作としては少し意外な感じもあるが、これもまた彼の挑戦心や遊び心等に溢れた、ある種その自然な進化形の表れとも言えそうである。ここでの対話は緊迫感を伴いつつ、時にフリーっぽく脱線する時もあるが、概ね親和性の強い心弾むような会話が交わされる。ある意味で熟達者同士の音遊び…と言った趣きも濃く、聴くものを愉しませ落ち着かせる。彼の故郷カンサス・シティの大先達、バップの創始者バードことチャーリー・パーカーの有名な<ドナ・リ―>~ここではバップ銘品ならではの3分弱と言う簡潔な現代的解釈も光る~を除く、他の10曲は全て2人の手によるもの。それも譜面に書かれたナンバーだけでなく、その幾つかはその場で即興的に作り上げたものだとも想像できる。この2人の当意即妙な真摯にして知的、卓抜な技の掛け合いや音のじゃれ合い、これらは仲々の愉し気な交感でもある。そうした愉しみに主役と一緒に浸る一作では…と、ぼくは感じたのだが…。

いずれにせよこの気鋭のトランぺッターのこれから…、目の離せないものとなりそうだ。

*Mirr公式サイト
https://www.mirr.fr/label/

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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