#2136 『田中鮎美/スベイクエアス・サイレンス −水響く−』
『Ayumi Tanaka Trio / Subaqueous Silence』

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PV日本語版/Universal Music Japan (ECM Records PV英語版はこちら)

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

『田中鮎美/スベイクエアス・サイレンス −水響く−』
『Ayumi Tanaka Trio / Subaqueous Silence』

ECM2675 2021年10月29日リリース
ユニバーサル・ミュージック UCCE-1188

田中鮎美 Ayumi Tanaka: Piano
Christian Meaas Svendsen: Double Bass
Per Oddvar Johansen: Drums

1.夢の跡 / Ruins (Tanaka)
2.黒い雨 / Black Rain (Tanaka)
3.夢の跡 Ⅱ / Ruins II (Tanaka)
4.一 / Ichi (Tanaka, Svendsen, Johansen)
5.やわらかな風 / Zephyr (Tanaka, Johansen)
6.海へ / Towards the Sea (Tanaka, Svendsen, Johansen)
7.水中の静寂 / Subaqueous Silence (Tanaka)

Recorded June 2019 at Nasjonal Jazzscene Victoria, Oslo
Engineers: Daniel Wold, Ingar Hunskaar (mix)
Liner photo: Pernille Sandberg
Cover photo: Thomas Wunsch
Design: Sascha Kleis
Mastering: Stefano Amerio
Album produced by Manfred Eicher


© Pernille Sandberg / ECM Records

ノルウェー・オスロを拠点に活躍するピアニスト、田中鮎美のECM初リーダーアルバム。マンフレート・アイヒャーとの交流は、田中の『Lucus / Thomas Strønen / Time is a Blind Guide』(ECM2576, 2018)、『Thomas Strønen, Marthe Lea, Ayumi Tanaka / Bayou』(ECM2633, 2021)への参加に始まっている。「1969年以降、ジャズや現代音楽の発展において多大な貢献をしてきたECM。私もその音楽に影響を受けた一人です。設立者でありプロデューサーのマンフレート・アイヒャーとの数年の交流の中で彼が私の音楽を信じ、このアルバムを世に送り出せることを大変嬉しく思います。」

田中鮎美は、和歌山市出身、3歳からヤマハ音楽教室でエレクトーンを学び、15歳でジュニアエレクトーン・コンクール優勝。海外でのコンサートの機会などを得て音楽を通じて世界で交流できる喜びを体感する。その後、ピアノに転向して、北欧の音楽に出会って強く惹かれ、2011年にノルウェーに渡る。2011年8月よりオスロのノルウェー国立音楽院(Norges musikkhøgskole)のジャズ・即興音楽科で学び、学士号と修士号を取得。故ミシャ・アルぺリンに師事。田中は「Jazz Tokyo」に連載エッセイ「オスロに学ぶ」を不定期連載していて、ノルウェーに移住して学び音楽を創っていく経緯が詳細に記されており、今後、続編も期待したいところだ。本記事末にバックナンバーへのリンクをまとめたのでご参照いただきたい。

2013年にクリスティアン・メオス・スヴェンセン(b)とペール・オッドヴァール・ヨハンセン(ds)に出会い田中鮎美トリオを結成、2016年にアルバム『Memento』(細田成嗣によるレヴュー)でデビュー、3月に来日ツアーも行った。。ピアノ3台での『Tanaka/Lindvall/Wallumrød – 3 pianos』(細田成嗣によるレヴュー)をリリース。

Ayumi Tanaka Trio – ‘Ichi’ (teaser)

夢の跡 Ⅱ / Ruins II 2021年10月1日先行配信

ピアノトリオのフォーマットを用いながらも、室内楽アンサンブルのように捉えることで、独自の音作りを目指し、「静寂と一音の持つ力」への意識が、自身の音楽表現の中で大切にしていることの一つにあり、「日本の伝統音楽が自然と密接に結びついてきたように、自然にある音と調和できるような音楽を作ることを願っている」と言う。

全7曲中4曲は2017年に田中が書き下したオリジナルで 2年間熟成してきたもの。それに加えて3曲のインプロヴィゼーションを収録している。ジャズクラブ「ヴィクトリア」で録音されているが、ライヴの記録ではないようだ。ECMとしてマンフレートの下で録音されたものではなく、録音された音源を持ち込んだ上で、プロデュースされたと推定される。

何よりも、田中のピアノをはじめとして、3人の音色と響きが美しい。深い沈黙の中から、シンクロするというよりも、自然の持つ揺らぎやランダムさを伴って、音が並ぶ。曲として全体を捉えるよりもその瞬間、瞬間に美を見ることができる。いたずらに前衛的でストレスを感じさせるわけでもなく、各自の身体のサイクルや宇宙のサイクルにも従うように、穏やかで優しい。掴みどころがないようでもありながら、時間を超越してずっと聴いていたい。いわゆる”環境音楽”にも繋がるが自分の日常空間に穏やかに流れているのも嬉しい。

ただ、この音楽は即興で生まれてくるだけではなくて、田中の緻密で自由なデザインが秘められた楽曲となっているところが凄い。メンバーを念頭に構想され、それぞれが自由に解釈できる余白を設けながらも、音楽が向かうべき方向を強く示すことを念頭に作られた。実際に演奏する際はそれぞれの瞬間に互いの音に集中しながら、共に一つの音楽を作り上げていくことを大事にしていると言う。

田中の楽曲、そしてこの三者から音楽が生まれる瞬間をぜひ体感してみたい。COVID-19が落ち着いたらぜひ来日ツアーを期待したい。

Tanaka/Lindvall/Wallumrød – 3 pianos

Tanaka / Lea / Thomas Strønen | Bergen Jazzforum

Ayumi Tanaka Trio -Jazzhouse 2015
Ayumi Tanaka (p), Christian Meaas Svendsen (b), Per Oddvar Johansen (ds)

【田中鮎美 連載エッセイ「オスロに学ぶ」 】
「JAZZ TOKYO」に不定期連載されている田中鮎美のエッセイ「オスロに学ぶ」。以下のリンクからバックナンバーをご覧いただくことができる。
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神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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