#2139 『仲野麻紀/openradio』
『Maki Nakano / openradio』
text by Yoshiaki Onnyk Kinno 金野Onnyk吉晃
openmusic opjp-cd-1014
仲野麻紀 Maki NAKANO
instruments : Alto Sax, Metal-Clarinet, Alto-Clarinet, Voice, Reface DX, Taârija, Shekere, Hamon, Baccarat crystal glass, Udu, Kalimba, Balafon, Piano, Field Recording
01 Trilce -vers Fontainebleau- (César Vallejo) (1:21) トリルセ-フォンテーヌブローへ- (セサル・バジェッホ)
02 The cost of living (Arundhati Roy) (1:29) わたしの愛したインド (アルンダティ・ロイ)
03 L’arbre des voyageurs (Tristan Tzara) (2:58) 旅人たちの樹(トリスタン・ツァラ)
04 Duhont’ar ar mane (4:32) (ブルターニュ伝統曲)
05 L’étoile et la fête / Hoshi to Matsuri (Yasushi Inoue) (0:22) 星と祭 (井上靖)
06 Impressions d’Afrique (Raymond Roussel) (2:35) アフリカの印象 (レーモン・ルーセル)
07 À cor et à cri (Michel Leiris) (3:20) 角笛と叫び(ミシェル・レリス)
08 The doors of perception (Aldous Huxley) (2:53) 知覚の扉(オルダス・ハスクレー)
09 Larme qui ne voit pas / Mienai Namida (Eisuke Wakamatsu) (2:44) 見えない涙(若松英輔)
10 La voix du vent (Fujiko Otani) (4:24) 風の声(大谷藤子)
11 Peau noire, masques blancs (Frantz Fanon) (1:47) 黒い肌、白い仮面(フランツ・ファノン)
12 Onmyoji (Baku Yumemakura) (3:16) 陰陽師(夢枕獏)
13 La Mer aux arbres morts / Karekinada (Kenji Nakagami) (2:14) 枯木灘(中上健次)
14 Analogique Maladroit (3:23) 不器用なアナログ
15 Trilce -vers Susukawa- (César Vallejo) (0:44) トリルセ-煤川へ-(セサル・バジェホ)
16 ボーナストラック
Recording : 2020-2021 in France
Recording+Mix : Pippostar (Novisa studiomobile)
Masterling : Tom Van Den Heuvel (VDH recordings), 2021
Production & Copyright : openmusic
Distribution : Nadja 21/キングインターナショナル
<Bon appetite!>
在仏のサクソフォン奏者仲野麻紀の多重録音ソロアルバム。
幾つか音源を聴いたが、アンサンブルで演奏するよりソロ多重録音のほうが、このミュージシャンの資質を良く映し出していると感じる。実に柔らかな薄膜の層。其の向こうに存在が透けて見える。
確かにサックスは木管楽器だ。しかしまた彼女の使うメタルクラリネットというのも金属の木管楽器。木管と金管のトランスジェンダー。
いや、私はミソジニストでもフィロジニストでもないのだが、オンナだてらにバリバリとブロウする女性サックス奏者、とは正反対のイメージを素直に感じた。
基本的にミニマルで、一曲内でのサックスのフレーズがポリリズミックに重なってくるのが波紋のように美しい。ただ、それ故に似た印象の曲が並ぶ怖れもある。
それを回避するのがシンセ、ピアノ、フィールドレコーティング(野外での環境音)、声、民族楽器の併用。決して破天荒な使い方ではない。
2017年から自身がはじめたネットラジオ openradio のアイデアをそのままアルバムに、ということで語りも差し挟まれる。
インスピレーションを受けた書籍名をタイトルに使用というが、かなりの読書家と見た。私などは足許にも及ばない。レーモン・ルーセル、フランツ・ファノン、オルダス・ハスクレー、夢枕獏、中上健次くらいしか知らない。
その傾向は、本人の裡では共鳴し合うのだろうが、想像を超えている。いや、カクテルに映画の名前をつけるようなお洒落趣味とも見えなくも無い。
そういえば、この人は料理も好きらしい。いや、料理というのは実は音楽を作るのに良く似ていると私も感じる。素材の味尊重か、調理法に凝るか、スパイス、ハーブを巧く使うか。はたまた意外な組み合わせに妙味を発見するか。どんな機会に作り、どんな食器に盛り、そして誰と一緒に食べるのだろうか。
調性のある料理、そしてまた無調の、テーマの無い料理、煮込んでしまって何が何だか分からない料理。エスニックだか無国籍の料理、ただただ辛いだけの食い物…。世の中色々である(無意味な言葉だが、それが世界だからしょうがない)。
このアルバムの料理群は安心してお召し上がりいただけることは請け合いだ。