#2133 『ASAF SIRKIS/Solar Flash』
『アサフ・シルキス/ソーラー・フラッシュ』

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text:岡崎 凛 Ring Okazaki

MoonJune Records  MJR117(2021年7月15日リリース)

ASAF SIRKIS – drums, compositions, arrangements アサフ・シルキス
GARY HUSBAND – acoustic piano, keyboards ゲイリー・ハズバンド
KEVIN GLASGOW – 6 string electric bass guitar ケヴィン・グラスゴー
with special guests:
SYLWIA BIALAS – vocals (1, 3, 4) シルヴィア・ビアラス
MARK WINGFIELD – electric guitar (3, 5, 8) マーク・ウィングフィールド

1.Kinship 06:35
2. Under The Ice 05:44
3. Aquila 05:20
4. Polish Suite – Part 1 04:06
5. Polish Suite – Part 2 07:56
6. For Eric 09:00
7. Solar Flash 06:06
8. Polish Suite – Part 3 04:57

Recorded at La Casamurada studio, Banyeres del Penedes, Catalunya, Spain, by Jesus Rovira.
Mixed by Christoph Reiss. Mastered by Alex Klebl at Marell Music, Germany.
Album artwork by Sylvia Bialas. Photos of the Solar Flash Band by Borislav Kresojevic.
Produced by Asaf Sirkis of Stonebird production in association with Leonardo Pavkovic of MoonJune Records.


MoonJune Recordsより、2021年夏リリースのアルバム『Solar Flash』は、1969年イスラエル生まれ、イギリス在住のドラマー、作曲家であるアサフ・シルキスの新譜。これまで彼と共演を重ねてきたスコットランド出身のケヴィン・グラスゴー(bass)と、英国ロック、ジャズ界のレジェンド的存在であるゲイリー・ハズバンド(piano&keyb)が参加している。ずっしりと分厚いジャズロックが基盤にある一方で、ナチュラルで透明感がある曲、宇宙空間を漂うような感覚を与える曲も登場する。ポーランド人シルヴィア・ビアラス(vo)、米国出身でイギリス拠点のマーク・ウィングフィールド(guitar)という、シルキスと縁の深いゲストを迎えている。

重厚でハードなサウンドに、深い色合いと抒情性、SF映画の音楽を思わせるシンセ音の広がりが加わる作品だが、聴き始めたときは手堅く作られたエンタメ性の強い作品のようにも感じた。ところが次第に内省的な表現が増え始め、アルバムの生命感のようなものがどんどんと膨らんでいく。バンドの狙い通りの音が丁寧に構築されているようであり、全体的にスムーズな流れが感じられる。

<ギタリスト、Allan Holdsworth(アラン・ホールズワース)との接点>
バンドキャンプのアルバム解説では「エリック・サティのような穏やかなバラードから、エネルギッシュなエレクトリック・プログレ・ジャズ即興まで、幅広く取り組む」という表現が使われていた。その言葉に頷きながらも、自分のように1970年代のジャズや1980年ごろのジャズフュージョンに親しんだ者は、シルキスの叩き出す音に、ついトニー・ウィリアムスを重ねてしまう。そして彼のグループ、The New Tony Williams Lifetime のアルバム『Believe It』で聴いたドラムと、アラン・ホールズワースのギターの端々が蘇るような気がして、懐かしい気持ちになった。

とはいうものの、トニー・ウィリアムスの『Believe It』が本作と全体的に似ているわけではない。『Believe It』が出たころ、ジャズとロックが接近し、ジャズフュージョンが勢いづいていた時代の空気を本作で思い出すのだ。もちろん本作は2021年仕様のアルバムではあるが、ここでフィーチャーされるゲイリー・ハズバンドは、名ギタリスト、アラン・ホールズワースの遺志を継ぐ人であり、このホールズワースの即興演奏を引き出した人物が、トニー・ウィリアムスやゲイリー・ハズバンドだったと思う。

<ゲイリー・ハズバンドの魅力を掘り下げる>
シルキスが本作でまず念頭に置いているドラマーは、トニー・ウィリアムスというより、彼が敬愛し、本作で共演するゲイリー・ハズバンドなのだろう。ドラマーとしてアラン・ホールズワースと共演していた頃のゲイリー・ハズバンドには凄まじい迫力があった。その彼は本作ではキーボード全般を担当しているので、話が込み入ってくるのだが、彼はピアニストとしても素晴らしい作品をリリースしており、アラン・ホールズワースの世界観をまるごと引き継ぐようなソロアルバム『The Things I See – Interpretations Of The Music Of Allan Holdsworth』(2004)を吹き込んでいる。もしもこのソロ作品をだけを聴いたら、彼がロック界のドラマーであることが不思議に思えてしまうぐらいに、中身の濃いコンテンポラリージャズ・ピアノ作品だ。彼はジャズピアニストとして、もっと認められてよいはずの人だと思う。

本作は特にアラン・ホールズワースのトリビュート作というわけではないのだけど、シルキスとハズバンドが組むアルバムには、自然にホールズワースへの敬意が込められてしまうらしく、ゲストのマーク・ウィングフィールド(g)のプレイにもそれが反映されていると感じる。

シルキスのリーダー作ではあるが、本作はゲイリー・ハズバンドの個人史に迫ろうとするアルバムではないかと思う。ハズバンドがかつて共演したジョン・マクラフリンやビリー・コブハムの音楽が間近に感じられる瞬間がある。あるインタビューで、シルキスは、彼がゲイリー・ハズバンドをいかにリスペクトしているかを熱く語っていた。本作には彼がプロデュースしたいゲイリー・ハズバンドの世界があるのではないか。本作はそんな思いを巡らせてくれる点でも、限りなく魅力的なアルバムだ。

シルキスは、ネット上のインタビュー動画でゲイリー・ハズバンドについて語るとき、「ゲイリー」ではなく、「ギャリ」に近い発音をしていた。そしてとても嬉しそうな表情で、彼との共演について語っていた。

試聴など:
https://asafsirkis-moonjune.bandcamp.com/album/solar-flash

<Asaf Sirkisのフリーダウンロード・アルバム>
アサフ・シルキスはまだ日本ではよく知られていないドラマーかもしれないが、ヨーロッパでは実績のあるドラマーだ。1990年代にイスラエルで音楽活動をしていた彼は1998年頃からヨーロッパに移り、英国拠点でジャズとワールドミュージックを演奏するようになる。その後は多数のアルバムに参加し、リーダー作も10枚以上を数える。その中でもACTレーベルからリリースされた『Lighthouse』(2012)は、イギリスのピアニスト、グウィリム・シムコックが加わり、注目を集めたアルバム。

こうした彼の足跡をたどるのにぴったりのアルバムが、全26曲を収録する『Full Moon』(2016)であり、現在バンドキャンプでフリーダウンロードができる。アサフ・シルキスの多彩な音楽作品に触れるにはぴったりなこのアルバムも、ぜひ聴いていただきたい。
https://asafsirkis-moonjune.bandcamp.com/album/full-moon-free-download

アルバムジャケット写真
Full Moon

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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