#2135 『Strictly Missionary / Heisse Scheisse』
『ストリクトリー・ミッショナリー / ハイセ・シャイセ』

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text by 剛田武 Takeshi Goda

LP/MC/DL : Astral Spirits Records

Chris Pitsiokos: alto saxophone, voice, electronics, recorder, whistle, harmonica, drum samples on Noise Disco
Wendy Eisenberg: electric guitar
Richard Lenz: electric bass
Kevin Murray: drums, percussion, electronic drums on the Shy Song
Nick Neuburg: percussion

1. The Shy Song
2. Lenz’s Law
3. Lapsarian
4. Noise Disco
5. Battle of Petty Hill
6. New Guy

Lapsarian written by Chris Pitsiokos (BMI)
New Guy written by Chris Pitsiokos, Wendy Eisenberg, Richard Lenz, Kevin Murray and Nick Neuburg
All other music written by Chris Pitsiokos, Wendy Eisenberg, Richard Lenz, and Kevin Murray
Words on the Shy Song by Chris Pitsiokos

Recorded by Jason Lafarge at Seizures Palace in Brooklyn, NY in February 2021 and by Chris Pitsiokos in February and March of 2021, in Brooklyn, NY.
Produced and Mixed by Chris Pitsiokos
Mastered by Ryan Power

Cover artwork by Keegan Monaghan
Layout & Design by Dylan Marcus McConnell / Tiny Little Hammers

https://strictlymissionary.bandcamp.com/album/heisse-scheisse

 

異形の即興ファンクを提示するクリス・ピッツィオコスの新グループ。

NY即興シーンを象徴するアルト・サックス奏者クリス・ピッツィオコスのニュー・グループ、ストリクトリー・ミッショナリー(厳格なる宣教師)のデビュー・アルバム。アルバム・タイトル『Heisse Scheisse』は英訳すれば「Hot Shit」、スラングで「超イケてる奴」といった意味。

このニュー・グループが我々の前に姿を現したのは、2021年3月27日に撮影されたブルックリンのレッド・フック地区の波止場でのライヴ動画だった。ピッツィオコスならではの複雑なアンサンブルを、夜のレンガ倉庫をバックに5人のミュージシャンが野外に楽器を並べて演奏する様子は、コロナ禍の続くニューヨークの地下で育まれた異形の表現者の姿を強く印象付けた。2020年3月から始まった緊急事態宣言下でライブ会場が閉鎖・休業する中で、活動の場を求めたニューヨーク中の即興ミュージシャンが港に近いこの地域に集まり、2020年夏ころから野外ライヴが盛んにおこなわれるようになった。そこではミュージシャン同士の新たな出会いがあり、新たな交流が生まれたに違いない。あくまで筆者の想像に過ぎないが、ストリクトリー・ミッショナリーもこの場所での出会いをきっかけにして生まれたのではないだろうか。

ギタリストのウェンディ・アイゼンバーグは透明感のある声でちょっとストレンジなメロディを歌うシンガーソングライターと、ギターとバンジョーを使ったインプロヴァイザーの二つの顔を持つ、NYのインディ・ミュージック・シーンの注目株。ベースのリチャード・レンツは、コロンビア大学在学中にピッツィオコスと共に即興トリオBob Crusoeで活動し、2015年にスポークン・ワードのサマンサ・ライオットと共にノイズロックバンドRodenticideを結成、ピッツィオコスがドラムで参加していた。ケヴィン・マレイは2000年生まれの若手ドラマーで、ピッツィオコスとはジョー・モリス(g)やJavier Areal Vélez(g)とのトリオでアルバムを発表している。ニック・ニューバーグはフロリダ生まれのパーカッション/ピアノ奏者で、ウェンディ・アイゼンバーグの2020年のアルバム『Auto』に参加している。

この5人からなるストリクトリー・ミッショナリーは、ピッツィオコスがCP Unitで追及してきたハイブリッドな即興音楽を、より鋭角的なジャズロック/ファンクに深化させたサウンドを展開する。特筆すべきは二人の打楽器奏者を中心としたリズムの探求である。複雑なファンク・ビートを叩くドラムの上を縦横無尽に飛び回るパーカッション。M-4「Noise Disco(雑音ディスコ)」ではピッツィオコスによるドラム・サンプリングが加わる。ベースもリズミックなパターンの繰り返しやノイズ演奏に注力する。その結果生まれるアナーキーなリズムのカオスが、ピッツィオコスが作る奇天烈なメロディーとまぐわって、ここにしか生まれない最高のコスモス(調和)を創造する。サックスの難解なフレーズをいとも簡単にユニゾンするアイゼンバーグの卓越したギター・テクニックも随所で光る。

ピッツィオコスは2021年4月に発表したソロ・アルバム『Carny Cant』(⇒アルバム・レビュー)で見せたように、サックス以外にもヴォイス、エレクトロニクス、笛やハーモニカなど多才ぶりを発揮。また、ソロ・アルバムに収録されていた自作曲「Lapsarian」をバンド演奏で収録している(M3)。自分の内面を見つめ直しながら制作したサウンドを、バンド・アンサンブルで進化させることで、自らも次のステージへ進もうとする意欲を感じさせる。あたかもM1「The Shy Song」で聴けるピッツィオコスの自嘲気味の呟きがバンド内で昇華され、自我が解放されていく過程を描いているようだ。そう考えるとM6「New Guy」とは生まれ変わったピッツィオコス自身を指すのかもしれない。浮遊するサックス・ソロが終わった後、淡々としたバンド演奏がリピートしながら消えていく、ちょっと寂しいエンディングは“To Be Continued(次に続く)”というエンドロールのように感じられる。

レコーディングは2021年2月。その3か月後のメールス・フェスティバルでの演奏は、自由を謳歌するような解放感に溢れていた。即興音楽はライヴで成長するものだが、10月に予定されていたストリクトリー・ミッショナリーのヨーロッパ公演は、コロナ事情により急遽ピッツィオコスのソロに変更されてしまった。今後もしばらくは閉塞感が世界を覆い続けることだろう。しかし、世界中には異形の音楽表現を求めてやまない多数の音楽信奉者が待っている。この”超イケてる”アルバムを聴きながら、この厳格な音楽宣教師が使命を全うする日を待ち望むしかないだろう。(2021年11月5日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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