#2145 『MALSTROM / Klaus-Dieter』
『マルストローム / クラウス=ディーター』

閲覧回数 6,187 回

text by 剛田武 Takeshi Goda

Berthold Records

MALSTROM:
Florian Walter – Saxophone
Axel Zajac – Guitar
Jo Beyer – Drums

1. Flerminger
2. Tinder: Zu Vino sag ich nie no. Achso und übrigens: Ich reise gerne.
3. Klaus Dieter ist verwirrt
4. Schnee im Sommer. Oder: Musik ist auch immer Ausdruck meines Konsumverhaltens.
5. Die Maskenpflicht-Verweigerer-Inzidenz-Befürworter-Lockdown-AHA-Glauben-Zweifel-Strategie
6. Matthiasbrücke
7. Somnambulismus ist die neue Work-Life-Balance
8. Pumpen mit Klumpen
9. Klaus Dieter geht baden
10. Smurfbrett

recorded at Fattoria Musica Osnabrück
by Steffen Lütke in May & June 2021

mixed and mastered at Fattoria Musica Osnabrück
by Steffen Lütke in August 2021

produced by Malstrom

Malstrom Official Site

No Destruction, No Creation. 破壊から生まれた創造的パワージャズ。 

2010年代初めにドイツで結成された、サックス、ギター、ドラムのトリオ、マルストローム(Malstrom)の最新アルバム。オリジナル・メンバーはアクセル・ザジャック(g)、ジョー・バイエル(ds)、サリム・ジャヴァイド Salim Javaid (sax)。ケルン、エッセン、ブレーメン地域の前衛音楽/即興ジャズ・シーンで活動し、これまで4枚のアルバムをリリース、2016,2017,2018年ドイツのジャズ・コンペティションで優勝したという。

彼らのことを知ったのは、2019年8月。3度目の来日公演を行ったドイツの前衛サックス奏者フローリアン・ヴァルターから「もうすぐこのバンドに加入するかもしれない」と渡されたCDがマルストロームの2ndアルバム『Phantom Architect』(2016)だった。即興パートも多々あるが、基本的に綿密に作曲・構成された楽曲をベースにしたスタイルは、これまで聴いてきたインプロヴァイザーとしてのヴァルターとは異なる印象があった。また、実験的ビッグバンドThe Dorfをはじめ、様々な流動的プロジェクトで活動するヴァルターが、メンバーが固定した“バンド”に参加することにも興味が引かれた。日本ツアーを終えて帰国したヴァルターは2019年末にサリム・ジャヴァイドに代わるサックス奏者としてマルストロームに加入した。翌2020年にコロナ禍が起こりライヴ活動が制限されることとなったが、その分丹念にスタジオ・リハーサルを行い新生マルストローム・サウンドを練り上げて、緊急事態宣言が明けた2021年初夏に満を持して制作されたのが本作である。

MALSTROM(L to R): Florian Walter(as), Jo Beyer(ds), Axel Zajac(g)
Photo by Nico Herzog

タイトルの『クラウス=ディーター』とは、昔のドイツでポピュラーだった男性名。しかし今では完全に時代遅れになり、ヴァルターの知る限り過去20年間にクラウス=ディーターと名付けられた新生児は極めて少ないとのこと。日本で言えば太郎君とか花子さんといったところだろうか。ジャケットを飾るユーモラスなモンスターの名前でもあるが、そう考えるとギョロ目で頭でっかちな姿が、時代に乗り損ね、過去の栄光に縋る哀れな旧権力者を象徴しているように見えてくる。アルバム自体はストーリー仕立てになっている訳ではないが、冗談とも本気ともつかない破天荒な楽曲タイトル(翻訳参照)はもちろん、演奏の背景にクラウス=ディーターというモンスターの滑稽さと悲哀が感じられる。

M1.「フレミンガー(酔っ払いが言うフラミンゴ)」:流麗な変拍子ギターに導かれて炸裂するドラムと8弦ギターのベース音の硬質なビートの波状攻撃、その波間を切り刻みながらサーフィンする軽妙なサックス。自粛呆けの頭にドリルで穴をあけて、エナジードリンクを直接大脳皮質に注入するような覚醒感。

M2.「Tinder(ドイツのデートアプリ): お酒の誘いは絶対に断りません。 あ、それからついでに、旅行も好きです」:アヴァンギャルドでありながら、抒情的な物語を紡ぎ出すシンフォニックな展開の中で縦横無尽に暴れまわるサックスを堪能。

M3.「クラウス=ディーターは混乱する」:アブストラクトなリズムを軸に三者がくんずほぐれつする乱調の美。

M4.「夏の雪。また、音楽は常に私の消費行動の表現である」:日本の能に通じる“間”を感じる。ピーンと張った綱の上を歩く緊張感がスーッと解れてゆったりした美メロに転じ、最後に再び綱渡りに回帰する循環曲。

M5.「仮面の義務-拒否者-発生率-推進派-ロックダウン-アルファヒドロキシン酸-信頼・疑念戦略」:イレギュラー・ビートの上でギターとサックスのコール&レスポンスがフォックストロットを踏む円舞曲。随所で聴けるギターの超絶プレイに痺れる。

M6.「マティアス橋」:発狂するエクストリーム・メタリック・チューン。

M7.「夢遊病は新しいワークライフバランスである」:ヘヴィなリズムだがコード進行は抒情的。狂ったサックスも次第に同調していく。

M8.「のろまなポンプ」:短歌のような超絶即興曲。

M.9「クラウス=ディーター泳ぎに行く」:センチメンタルな一面を堪能できるスローモ・ナンバー。ノスタルジアの海に漂う夢の浮舟。

M10.「スマーフボード」:ギターのミニマルなフレーズの反復が心地よいエモーショナル・チューン。中間部の痙攣サックスはフローリアン・ヴァルターの真骨頂。後半の爆裂ギターもエクスタシーへ一直線。しかしながら刺激の連続の果てにミニマル・パターンに戻ってあっさりエンディングを迎える。あとに禍根を残さぬ潔さ。

目まぐるしい展開に脳内シナプスが活性化する40分のリスニング・ジャーニー。フリージャズ、ヘヴィメタル、プログレッシヴ・ロック、ポスト・ロック、ミニマル・ミュージックといった言葉が頭の中をよぎるが、ありとあらゆる情報がデジタル環境で交錯する現代に、殊更クロスオーヴァーとかミクスチャーといった言葉を持ち出すのは、それこそ時代遅れの頭でっかちの所業であろう。「大渦潮」を意味するバンド名通り、ありとあらゆる要素を巻き込んでぶち壊してから新たな音楽を生み出すマルストロームの方法論こそ、<破壊なくして創造なし>という真理を音楽の最前衛で実践する新世代パワートリオの証である。(2021年12月2日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。