#2146 『高木元輝/Love Dance~Live at Galerie de Café 伝 1987/1997』
text by Takeo Suetomi 末冨健夫
Nadja21/King International KKJ9014-18 ¥10,000 (税込)
KKJ9014
CD1 「Love Dance 1」 1987.5.27
1ストーン・ブルース 23.42
2 アリラン〜悲しき願い 12.53
3 Love Dance 1987.5.27 P2M1 10.18
4 小さな花 8.17
5 家路 7.20
6 バラ色の人生(ラ・ヴィ・アン・ローズ)5.38
7 小雨降る径 5.24
高木元輝 (ss, except TR.1&7:ts)
KKJ9015
CD2「Love Dance 2」1987.9.02
1 Love Dance 1987.9.02 P1M1* 30.10
2エピストロフィー 5.42
3 Love Dance 1987.9.02 P2M1* 25.18
4 家路 8.44
高木元輝 (ts:TR.1&2, ss:TR.3&4)
KKJ9016
CD3「Love Dance 3」1989.5.10
1 ストーン・ブルース 19.56
2 Love Dance 1989.5.10 P1M2* 11.49
3 Love Dance 1989.5.10 P1M3* 11.15
4アリラン 15.55
5 Love Dance 1989.5.10 P2M2* 5.25
6 家路 9.36
高木元輝 (ts:TR1,2,&3, ss:TR4,5,&6)
KKJ9017
CD4 「Love Dance 4」1989.9.06
1 Love Dance 1989.9.06 P1M1 44.26
2 Love Dance 1989.9.06 P2M1 14.17
高木元輝 (ts)
KKJ9018
CD5 「Love Dance 5」1997.4.08
1 MC (桑原敏郎) 1.17
2 Goodbye Pork Pie Hat 16.46
3 ストーン・ブルース 7.04
4 Love Dance 1989.4.08 M3. 16.21
5 Love Dance 1989.4.08 M4 8.35
6 不屈の民 5.56
高木元輝 (ts except Tr4:ss)
杉本 拓 (g, Tr4)
Concerts produced by Toshio Kuwabara 桑原敏郎
Recorded & mastered by Tsutomu Suto 須藤 力
A&R: Satoshi Hirano 平野聡
Album produced by Kenny Inaoka & Toshio Kuwabara for Nadja21
近頃、高木元輝さんの再評価の機運が高まっていると聞く。この度、キング・インターナショナルから高木さんのソロ5枚組のCDが発売になった。「機運の高まり」の象徴とも言えるCDのリリースだ。以降、高木さんと小杉武久さんとのデュオ3枚組CDと、高木さんと吉沢元治さんのデュオ3枚組CDのリリースも控えている。合計11枚の高木さんのCDがリリースされるなんて誰が想像しようか。それもキング・インターナショナルというメジャーから!
世田谷区の経堂(ちなみに私も経堂に1年間住んでいたことがある)に、「Galerie de Café 伝」というギャラリー喫茶があった。その「ギャラリー・カフェ 伝」で、1987年~1999年までの間に、高木さんの定期演奏会が写真家 桑原敏郎氏の主催によって通算11回行われていた。そのライヴの中から、音源が残されているものを全部CD化するのが、このシリーズだ。これはもう快挙というしか他に言葉が見つからない。当初のライヴはソロを中心に行う予定だったが、2回目にはすでに吉沢元治さんとのデュオになり、4回と5回は小杉武久さんとのデュオになった。ライヴの詳しい経緯はCDを買ってブックレットを読んでいただくとするが、桑原敏郎氏、杉田誠一氏、金剛督氏のライナーに加えて、1969年のJazz誌創刊号に掲載された杉田氏による高木さん(高木さんの兄も!)のインタヴューが転載されているのが何より嬉しい。桑原敏郎氏撮影による高木さんの写真も数多くブックレットに掲載されており、これもファンにはたまらない。因みに、ちゃぷちゃぷレコードのジャケットにたくさん使用されている写真の撮影者の松本晃弘氏によれば、「桑原さんこそは日本屈指の写真家です!」との事でした。
さて、その松本さんがある日「ギャラリー・カフェ 伝」の共同オーナーの一人秋川伸子さんを同行して、私がアルバイトをしている防府市のオーディオショップ「サウンドテック」に突然現れたのだった。秋川さんは防府市の隣の山口市の出身で、その時帰省されていたようでした。店内で、秋川さんにカセットテープをたくさん手渡されたのだが、その中に今回リリースされることになった高木さんの演奏が入ったカセットテープがたくさん混っていたのだった。
この時は、この録音の経緯を知る由もなく、カセットテープからコピーしたCD-Rでこれらの演奏を長らく聴いて楽しんでいた。
後に、このテープはダビングされたものと判明し、ライヴの主催者は桑原敏郎氏で録音は須藤力氏と判明。間章氏と70年代の日本のフリージャズを強力にサポートして来た伝説の両人と言っていいだろう。
その後は、Nadja 21の稲岡邦彌氏と桑原敏郎氏が強力タッグを組んで、CD化の準備が行われ今こうして形になったのだった。
このCDに収録されている高木さんの演奏は、70年代の『パリ日本館コンサート』や『モスラ・フレイト』までしか知らないリスナーには、どう映るのだろう。巷で言われる「スティーヴ・レイシーの影響云々」だろうか? どうもこのフレーズが独り歩きをして80年代以降の高木さんの音楽を色眼鏡で眺めたり、ステレオタイプ化してしまって、正当な評価を得ないでいるとしか思えない。この時期の高木さんには「歌・メロディーへの回帰」が見られ、このCDでも「アリラン」、「小さな花」、「家路」、「不屈の民」、「バラ色の人生」(この曲は吉沢さんや小杉さんのプライヴェート録音の中でも時々聴ける。)等々が聴ける。もちろんストレートにメロディーを吹くだけではなくて、断片だったり破片?だったりがくっついたり離れたりと自由に変化して行くのだが。先を読みながら一音一音を大事に紡いで行く演奏は、レイシーの影響かもしれない。だが、70年代までの激烈な演奏の中でもそのような音はいくらでも耳を澄ませば聞こえて来るではないか。これこそが高木さんの大きな特徴の一つだと思うのだが。高木さんのサックスの音は、凄くピュアーな音色を持っている。それがこのCDでは特によく分かる演奏になっている。その後の高木さんの演奏は、世界中のどこを探しても類例のない唯一無二の存在だ。金大煥さんがよく言っていた「高木は深いねー。」が一番よく高木さんを表している言葉だと思う。
『Love Dance』と同月には、ちゃぷちゃぷレコードからも1枚の高木さんのCDがリリースされます。1985年に行われた高知市の薫的神社で行われた高木さんと小杉さんのデュオ・コンサートから収録されています。小杉さんの強烈なエレクトロニクスの音に切り込んで行く高木さんのサックスの演奏は、「スティーヴ・レイシー云々」なんて吹っ飛んでしまうだろう。この当時は、高知の即興シーンが凄く熱かった季節だったようで、毎年のように高木さんや小杉さん、近藤等則さん、土取利行さんらが演奏を繰り広げていたようだ。
現在あまり振り返られることが少ない1980年代という時期の日本の即興演奏の姿を公開できることは、今回の「ギャラリー・カフェ 伝」のCDシリーズの大きな特徴でもあるし、高木元輝という稀代の名演奏家の再評価につながるものだ。