#2151 『渡邉浩一郎 / マルコはかなしい ー 渡邉浩一郎のアンチ・クライマックス音群』

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text by 剛田武 Takeshi Goda

CD: SUPER FUJI DISCS FJSP448

渡邉浩一郎:vln, electronics, ds, vo, etc.

堀田吉範:g, etc.
中塚 “”野性の驚異”” 敬子:vo
市口章:key
GESO:g
須山公美子:vo
BIDE:key, syn, etc.
山本タロー:g

CD-1「まだのアンチ・クライマックス音群+4」
1. やんやややん
2. 北国の二人
3. ソドムの市
4. 構内アナウンス
5. 不明
6. 不明
7. 不明
8. 不明
9. 不明
10. IT’S A RAINY DAY, SUNSHlNE GIRL (涙のラーメン•カルテット高円寺支部)
11. ひまごまだ (涙のラーメン・カルテット高円寺支部)
12. やんやややん (ひまご)
13. ヒポポタマス (まさこ・ほった・マルコ)

CD-2「ガレージセッション1977」
1. 無題
2. 無題
3. 無題
4. 無題
5. 無題
6. 無題
7. 無題
8. 無題
9. やんやややん
10. やんやややん
11. やんやややん
12. やんやややん
13. やんやややん
14. やんやややん

M1-8:ガレージセッション1977
M9-14:やんやややんのいろいろ 1980-81

https://diskunion.net/jp/ct/detail/1008382737

地下音楽にこだわる者の特権

渡邉浩一郎は1959年生まれ、70年代後半からヴァイオリンや自作シンセサイザー、ドラム、ユーフォニウムなどを使って、「ウルトラ・ビデ」「まだ」「マヘル・シャラル・ハシュ・バズ」など数多くのバンドやセッション、さらに自宅録音で活動し、1990年8月に31歳で自死した夭逝の音楽家である。死後に友人たちの手で未発表音源を集めたアルバムが編集され、1991年にCD『まとめてアバヨを云わせてもらうぜ』としてリリースされた(筆者はずっとPSFレコードからのリリースだと思い込んでいたが、実際は有志による自主リリースだったことを最近知った)。工藤冬里、JOJO広重、大里俊晴、竹田賢一など地下音楽シーンの有名ミュージシャンの名前がクレジットされ、渡邉をキーとした70年代末~80年代の日本のアンダーグラウンド・シーンの貴重なドキュメントと言える作品集だが、当時の現在進行形の地下音楽シーンに夢中だった筆者にとっては、遺作集のような過去のアーカイヴには興味が引かれなかった。

久しく存在自体を忘れていたこのアルバムが2013年にSuper Fuji Discsから再発された時には、驚くと同時にブログなどで自分が過去に体験した地下音楽のことを振り返っていたこともありタイミングの良さに感謝もした。初めて聴いた渡邉浩一郎の音楽は、即興/宅録/ノイズ/パンク/プログレ/カラオケなど玉石混合のカオスな世界で、地下音楽の魅力の神髄である「わけのわからなさ」に満ちていた。それとともに参加ミュージシャンの顔触れや、第五列のGESO(藤本和男)による詳細すぎる解説を読んで、渡邉が多くの人たちから愛されていたことを感じた。

本作は渡邉浩一郎が残した2本のカセットテープを収録した未発表音源集第2弾。CD1は『まだのアンチ・クライマックス音群.(笑)その1.』と題されたカセットで、渡邉と堀田吉範(g.他)によるユニット「まだ」を中心に、周辺メンバーが参加した1980年頃の音源。歌謡曲のカバーや即興ライヴを含む雑多な録音は、自由気ままに演奏活動を楽しむことが許された時代の記録として興味深く、自分が学生の頃にやっていたバンドの忘れていた録音を聴くような既視感を覚えた。CD2は『ガレージセッション1977 incl〔やんやややん〕のいろいろ』と題されたカセットで、1977年のセッションライヴ音源を素材にしたサウンドコラージュ。再生速度の変更やカットアップなどテープ操作を駆使した奇怪なサウンドは、渡邉が好きだったというフランク・ザッパの『アンクル・ミート』や、ドイツの前衛バンド、ファウストの諸作を思わせて、純粋に音楽として面白い。今回も解説を執筆したGESOが参加していた第五列テープや、80年代日本地下音楽の幻の自主カセットレーベルDD.Recordsに通じる匿名性の高いサウンドである。7~80年代に世界各地に存在したD.I.Y電子音楽の一例としても貴重だろう。

それにしても、アンダーグラウンドな音楽のマニアが国内外に多数存在していた90年代ならともかく、ネットの進歩と文化のグローバル化により、メジャーとマイナーの境界がなくなり、アンダーグラウンドが消滅したと言われる現代に、地下音楽の重箱の隅の隅をつついたような作品がフィジカルな形で世に出ることを歓迎していいのか、性懲りもないと苦笑していいのか分からない。だが、アンビバレンスな感情はひとまず置いておいて、CDとして所有して好きな時に何度でも聴けることに感謝したい。

このアルバムがジョン・コルトレーンの未発表音源に匹敵する、などと言うつもりはないが、どこでも聴けるコルトレーンよりも、誰も知らない異能ミュージシャンの未知の音楽との出会いに喜びを見出す音楽ファンも少なくないに違いない。このCDを楽しめるのは、異端・マイナーなどと呼ばれても、自ら信じる地下音楽にこだわって生き続ける者の特権かもしれない。(2021年12月31日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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