#2166 『モモコ アイダ / モモコ アイダ』
『Momoko Aida / Momoko Aida』

閲覧回数 6,321 回

text by Yoshihiro Narita 成田佳洋

B.J.L / SPACE SHOWER MUSIC
DDCB-13052/13053 (2CD) ¥3,400(税込)

クアトロシエントス(Cuatrocientos):
会田桃子 (violin, viola, vocal)
北村聡 (bandoneon)
林正樹 (piano)
西嶋徹 (bass)

藤本一馬 (guitar)
徳澤青弦 (cello)
岡部洋一 (percussion)

[CD1]DDCB-13052
1.クアンド・エスクーチョ・トュ・ボス
2.ワイニョ・オリエンタル
3.シャドーズ・オブ・エコーズ
4.ヴァルス・デ・ス・ヴィーダ
5.ルイード・ソル
6.茜色の鈴 アカネイロノスズ
7.アレーナ・アマリージャ(黄色い砂)
8.スエニョ・デ・フベントゥ(青春の夢)
9.デスデ・ラ・イオノスフェーラ(電離層から)
10.ウタカタビト

[CD2] DDCB-13053
1.エル・ディア・ケ・メ・キエラス
2.エル・ウルティモ・カフェ(最後のコーヒー)
3.ソレダー
4.ナーダ
5.ポル・ラ・ブエルタ
6.ア・リトル・ライト
7.アルフォンシーナ・イ・エル・マール(アルフォンシーナと海)
8.夏の幻 ナツノマボロシ

Recorded at aLIVE RECORDING STUDIO, September 15,21,24 & 30, 2021
Mixed at STUDIO KK, October 1~26, 2021
Recording & Mixing Engineer: Kentaroh Kikuchi
Assistant Engineer: HayatoTakashima (aLIVE RECORDING STUDIO)
Mastered at AUBRITE MASTERING STUDIO, October 30~November 5, 2021
Mastering Engineer: Yoei Hashimoto
A&R: Kenji Seki
Produced by Momoko Aida & Takashi Tannaka


演奏家たちが互いの楽曲を持ち寄り、できるかぎりスピーカーを介さずに、楽器の実音を響かせ合い、それぞれの楽曲やライブを発展させていく。そんな演奏家でもあり作曲家でもあるミュージシャンたちのシーン、ゆるやかな集合体のようにも見える動きが、近年の東京で活発化してきた。
「東京の新しい室内楽」。そうした一群の音楽家たちのことを、便宜的にそのように紹介するようになり10年と少しが経つ。聞く人が聞けば多いに誤解を招きそうな表現ではあるが、様々なメディアで紹介記事を書いてきた。サロンを飛び出し、現代の東京で鳴り響くチェンバー・ミュージックというイメージ。

本作のリーダー会田桃子、そして参加ミュージシャンの藤本一馬、林正樹、徳澤青弦、北村聡、西嶋徹、岡部洋一は、いずれもその中核にある名手たちで、彼らはいずれも今昔のジャズを、そして広くブラジル音楽や、タンゴを含むアルゼンチンのモダン・フォルクローレを、いわば共通言語のように内在化している。そのうえでジャズであるともそうでないとも言えるような、たとえばタンゴを感じさせながらもその型からはみ出すようなサウンドを奏で続けている。その音楽には、コスモポリタン的な感性が生み出す自由さ、そして音楽的ルーツが希薄な都市に生活する人ゆえの彷徨う感覚を嗅ぎ取ることができる(そもそもコスモポリタンなんていう言葉が、この21世紀に意味を成すかどうかわからないけれど……)。

たとえば、アルバムの冒頭曲。リーダー会田桃子のバイオリンによるメインテーマの後に、ギター、ピアノ、ベースによるソロパートが展開されるジャズ的進行。そこからプログレッシブな転調パートを経て、バイオリン、そして藤本一馬のエレクトリックギターによるデュオで締めくくる、意表をつくエンディング。バイオリンはややかすれたような音色を表現に取り入れ、そしてエフェクティブなペダル使いのエレキギターは、かなり音響的なアプローチ。このサウンドをごく東京的だと感じるのはなぜだろう。
続く2曲目、前曲のカルテットに岡部洋一のパーカッション、北村聡のバンドネオンが加わり、テーマと各パートのソロが展開されてゆく。フォルクローレのリズム「ワイニョ(ワイノ)」をベースとした、アーシーで訛りのあるリズムが特徴的な曲。けれどサウンドはハイファイで、やはり都会的だ。そして続く「Shadows and Echoes」は、藤本一馬作曲による静謐な、そしてルバートを多用した独特なタイム感の名曲で……サウンドとしてはナチュラルだけれど、20世紀現代音楽(こちらもおかしな表現だが)の発想も落とし込まれているのかもしれない。

そのように一つ一つが多彩な楽曲揃いで、聴きどころの多い本作だが、2枚組のディスクそれぞれの構成についても触れておくべきだろう。
まず「CD1」が器楽曲集で、6曲が会田桃子自身による作曲。メンバーの藤本一馬、西嶋徹、林正樹の作曲がそれぞれ一曲ずつ、そしてタンゴの作詞作曲家エンリケ・サントス・ディセポロのカヴァーを収録。
一方の「CD2」は歌曲集となっていて、シンガーとしての会田桃子に焦点が当てられている。6曲がスペイン語のカヴァー曲、日本語と英語のオリジナル曲が一つずつ。情報量が多く、アンサンブルありきの楽曲により構成されたCD1とは趣ががらっと変わって、歌と伴奏楽器一つで十分に成立する音楽がベースになっている。伴奏の音楽性は高いが、歌のヒエラルキーは最上位にあって揺るぎがない。この2枚は明確にコンセプトが違うけれど、「会田桃子」を表すひとつの作品として、このような構成にする必要性があったかもしれない。
最後に蛇足になるけれど、本作を聴き終えて思うこと。もしシンガーの会田桃子と、バイオリン/ヴィオラ奏者でありコンポーザーの会田桃子という二つの音楽的キャラクターが、一つのグループとアルバムを構成したらどんな音楽になるだろうかということ……。ただでさえとてつもなくハイブラウな本作の先に、インスト曲と歌曲を越境する音楽がもし現れたとしたら。そのときこそは、東京のインディペンデントな音楽シーンが次の段階に足を踏み入れるときかもしれない。アルバムの最後を飾る日本語詞のオリジナル曲「夏の幻」に、そんな萌芽も見えた気がした。


成田佳洋 Yoshihiro Narita
レーベルNRT代表、ときどき文章。国際ピアノ音楽祭<THE PIANO ERA>、コミュニティ<sense of quiet MUSIC LAB> 主催
https://community.camp-fire.jp/projects/view/268145
JFAサッカー4級審判員

 




コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。