#2184 『KYOTO JAZZ SEXTET feat. 森山威男/SUCCESSION』

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text by Eisuke Sato 佐藤英輔

Blue Note(Universal Music)  UCCJ-2206 ¥3300(税込)

KYOTO JAZZ SEXTET:
類家心平 trumpet
栗原 健 tenor saxophone
平戸祐介 piano
小泉P克人 bass
沖野修也(vision, sound effect on 渡良瀬)
featuring
森山威男 drums

1. フォレスト・モード
2. 風
3. ファーザー・フォレスト
4. ノー・モア・アップル
5. サンライズ
6. 渡良瀬
7. 見上げてごらん夜の星を

Produced by 沖野修也 (Kyoto Jazz Massive)
Recorded, Mixed and Mastered by 吉川昭仁 (STUDIO Dedé), November 2021 & January 2022


かたや、クラブ・ミュージック時代がもたらすフレキシビリティを知る働き世代の奏者たち。こなた、山下洋輔トリオ在籍後、竹を割ったような日本のリアル・ジャズをまっすぐに送り出している1945年生まれの大家ドラマー。世代も世界観も受容してきた文化も異なる、親と子のような年齢の隔たりがある、そんなミュージシャンたちの邂逅ががっつりとなされるとは。そして、それは明らかに興味深くも、好ましい相乗を生み出した。
そう思わせるアルバムが、KYOTO JAZZ SEXTET feat. 森山威男という名義による、『SUCCESSION』だ。
KYOTO JAZZ SEXTETは、インターナショナルな名声を誇るDJ/ミュージック・インフルエンサーである沖野修也が率いる、ストレート・アヘッドなジャズ・コンボだ。その構成員はピアノの平戸祐介(元quasimode)、ベースの小泉P克人(ジャズ界のスタートは鈴木勲“OMASOUND”か)、テナー・サックスの栗原健(JazztronikやMountain Mocha Kilimanjaroを経る。正式メンバーにはなっていないものの、ずっとSOIL&”PIMP”SESSIONSの二菅の一角も担っている)、トランペットの類家心平(近年最大級の日本人売れっ子トランペッターだ)、ドラムの天倉正敬(鈴木勲やKANNKAWAから丈青やシンガーのサポートまで様々)。彼らはポップ・ミュージックやブラジル音楽など非英米音楽にもしなやかに対処してきている奏者と言えるだろう。
様々なプロジェクトで出会っていいなと思えたミュージシャンたちを、沖野がピック・アップした。その核にあったのは、クラブ・ミュージック的な発想を直截なコンボ表現に昇華させん、DJ活動で蓄積された沖野が抱えるジャズ観を、アコースティックかつ骨太に出したいということか。
ゆえに普段は電気ピアノを弾くことが多い平戸はピアノを弾き、同様にエレクトリック・ベースを弾くことが多い小泉もKYOTO JAZZ SEXTETではダブル・ベースを悠然と扱う。なお、森山が全面的に叩くために、天倉は今回お休みとなった。蛇足だが、沖野はDJ的機微をより今様ポップに、華やかに送り出すKYOTO JAZZ MASSIVEというユニットも持っている。
過去2作品を出しているKYOTO JAZZ SEXTETと森山威男の共演のきっかけは、沖野がオーガナイズするイヴェント“Tokyo Crossover/Jazz Festival 2021”〜会場は都内きっての大バコだった新木場にあったAgeha〜の開催。海外のジャズ・ファンも羨むような同フェスの目玉企画として、ヘッドライナーとして森山威男に登場してもらえたらというアイデアがそこから出てきた。
旬のDJたちがたくさん出る若者を対象とするイヴェントに、何ゆえ非DJミュージック時代の生演奏の権化のような大御所に白羽の矢が立てられたのか。それこそは、DJの価値観や海外からの日本のジャズを見る現在の眼が働いたものだった。往年の日本のジャズのアルバムは英国をはじめとするDJたちから掘り起こされ、森山もまたその際たる存在となる。近年もロンドンのBBEから『イースト・プランツ』(1983年)が再発されるなど、彼は再評価の一途を辿っているという。そして、類家心平が森山威男のバンドでも吹いていることが、KYOTO JAZZ SEXTETと森山の共演の具現を後押しした。
コロナ禍に入り森山は演奏活動を休止していたものの、その申し出を彼は意気と共に受けとめた。両者のタッグは昨年月11月20日に開催されたTokyo Crossover/Jazz Festival 2021のトリを飾ったが、『SUCCESSION』はそのライヴの前にリハーサルを兼ねた2日間のスタジオでのやりとりを押さえたものが中心となっている。
素材は、森山威男の長いキャリアにおける代表曲。沖野も普段回し、他のDJも愛好している楽曲を選んでいる。ただし、クラブ向きの踊れる曲だけでなく、「渡良瀬」(作曲は板橋文夫)のような静謐な楽曲も選ばれた。それは活力漲る部分は当然のこと森山の静的なドラミングにも沖野は多大な魅力を感じており、そういう巨匠の一面を若い聞き手に紹介したいという意図とともに、<DJが提案するリスニング・ミュージックとしてのジャズ>の提案を彼が求めたからだった。
スタジオでのレコーディングやライヴについて、沖野は以下のように語っている。発言は2022年4月4日に、英エディンバラに滞在中の沖野にzoomで取ったものだ。
「本当に感無量でした。森山さんがリハーサルから一貫して言っておられたのは、ジャズに予定調和は禁物ということ。だから、僕もサプライズということを意識しましたし、メンバーも森山さんに挑んでいくなかで森山さんを驚かせるし、僕たちは森山さんから驚かされる。そういう想定外のこと、意外性を一番感じましたね」
さらに、明けて1月にも再度両者はスタジオに入り、ライヴのアンコールで披露し好評を得た森山が大好きな曲である坂本九の「見上げてごらん夜の星を」と、沖野が書いた「ファーザー・フォレスト」が録音された。その森山讃歌曲はスピリチュアルでエスニックなテイストを持ち、新たなコラボレイターを得た現在の森山威男の胆力がくっきりと印された。
かような『SUCCESSION』を聞いて痛感せずにはいられないのは、出だしの音から迸る森山のドラミングの存在感だ。これぞ、長年日本のジャズを牽引してきたという内実を語る表情豊かで情が強いアクセントや揺れがこれでもかとアピールされている。それに鼓舞され、純ジャズ以外の表現も知るKYOTO JAZZ SEXTETの面々の襟を正した演奏がストレートに繰り出される。それも、また聞き物。そして、若い世代の忌憚のない演奏を心底受け止め、2020年代の森山威男という大きな像が仁王立ちしているところが、本作の肝となる。旧曲にある訴求力も、それらの作業は再確認されよう。
「僕はいろいろやってきて、日本のジャズとクラブ・シーンの接点にもなってきたと思いますし、今回の森山さんの曲も単純にカヴァーしたということではないと思っています。やっぱりメンバーの平戸祐介、小泉P 克人、類家心平、栗原健、それぞれが別のプロジェクトで活動していて、今の音楽を体感していると思うんですよね。そして、そのエッセンスをこのレコーディングに持ち込み、もちろん森山さんの能力は高いんですけど、その森山さんの潜在能力をさらに引き出すというトライでもあったと思います。この作品が持っている意味というのは、僕が関わっているということ以上に、このメンバーと森山さんが今何を表現するかという部分においてすごく重要な意味を持っていると思います」
結果、KYOTO JAZZ SEXTET feat. 森山威男の『SUCCESSION』の総体は、ジャズという即興音楽の太い生命感や朽ちぬ価値を伝えるとともに、そのアルバム・タイトルではないが、それらは無理なく臨機応変に継承されるものであることを教える。彼らは、7月30日にフジ・ロック・フェスティヴァルに出演する。もともとライヴ命の森山は、大多数の若者を前にするそれに多大な意欲を持っているという。
書き遅れたが、本作はアナログ・レコーディングでなされた。それは、アナログ・リリースも先に見据えた沖野のDJとしてのこだわりがもたらした。当然のことながら、せえので演奏され、一切部分的なやり直しはなしの一発勝負でレコーディング。「音質的なクオリティの高さはもちろんのこと、やり直しできないからこそ一回に命をかけるという、その緊張感はアナログ録音にしかないものです」(沖野)。そう、これこそはジャズ。そんなところにも、DJ文化の機知と昔気質のジャズ哲学がメビウスの輪のようにつながっているようにも感じてしまう。

佐藤英輔

Eisuke Sato 1958年生まれ。音楽評論家。編集者を経て、1986年からフリーランスで文章を書いている。ジャズ以外の音楽も大好きでよく聞くが、それでも今のジャズは興味深い。いや、不滅のジャズ回路や衝動とつながった音楽は面白いと感じている。それが、ジャズと呼ばれないものであったとしても。ライヴのことを中心に書くブログは、https://eisukesato.exblog.jp。昔のほうも生きていますが、4月から移転しました。月別ではnoteでも読めます。

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