#2192 『ショーン・ロヴァート/Microcosms』

閲覧回数 6,373 回

Text by Akira Saito 齊藤聡

ears&eyes Records
shawnlovato.bandcamp.com

Shawn Lovato (bass/composition)
Patti Kilroy (violin)
Michaël Attias (alto sax)
Hannis Brown (guitar)
Santiago Leibson (piano)
Vinnie Sperrazza (drums)
Colin Hinton (percussion)

1. Microcosms (opening)
2. Modular Ascension (for alto saxophone)
3. Serenity Amid Absurdity (for violin and guitar)
4. Splitting Hairs Part I (for drums)
5. Splitting Hairs Part II (for piano and percussion)
6. Splitting Atoms Part I (for ensemble)
7. Splitting Atoms Part II (for bass)
8. Microcosms (closing)

Recorded January 2020 at Big Orange Sheep in Brooklyn NY, USA
Mixed and mastered by Eivind Opsvik in Brooklyn, NY USA
Album design and original art by Warren Croce

小編成でのフリー・インプロヴィゼーションでもなく、またアンサンブル重視の室内楽でもない。まずは1曲目から想定外の世界に驚かされるが、総体で混沌としたサウンドを希求しているわけでもなさそうだ。聴き込むうちに解ってくるのは、これは確かにインプロヴァイザーの演じる領域を用意したコンポジションであり、あるいは逆にコンポジションにインプロヴァイザーが自身の表現のために介入したものでもある。結果としての折衷ではなく、両者せめぎ合いの過程が音の緊張感となって刻み込まれている。だから、1960年代以降に自由即興と集団即興をいきなり共存せしめたヨーロッパのフリー・ジャズとも、あるいは最近のニューヨークの音と比べるとしても、集団沸騰サウンドを実現したドレ・ホチェヴァーの『Transcendental Within the Sphere of Indivisible Remainder』(2016年)とも、ヴィジョンを異にしている。

かつてニューヨークでマイケル・アティアスのプレイを目の当たりにしたとき、なにか違和感のようなものがあった。ジャズではソロパートとして一応のまとまりを担保したうえでグループに貢献することを是とすべきかもしれないが、かれのソロは空中に浮遊したまま去っていった。2曲目の<Modular Ascension (for alto saxophone)>を聴くと、やすやすと着地点を見つけてなるものかというかれのアイデンティティが、他メンバーとの交流の中でさらに力を与えられていることに気づかされる。

弦ふたりが焦燥するように音の紙きれの層を積み重ねた3曲目があってこそ、続く曲においてコリン・ヒントンのドラミングによりサウンドの領域に大きな風穴が開けられる。ショーン・ロヴァートのベーシストとしての力量に聴き惚れてしまうのは<Splitting Hairs Part II (for piano and percussion)>だ。総体を震わせる時間を経て、ふたたびピアノとドラムスが戻ってくるところなどびりびりとした刺激がある。

そして7曲目の複層的なコントラバスソロは、それまでの統制と自由との相克、拡張と収縮のダイナミクスを思い出させる効果をもっている。音の有機的なつながりは個々の演奏の中だけではないのだ。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。