#2194 『精魂(セイコ)=灰野敬二&沖縄電子少女彩 / 愉楽』
『Seiko = Keiji Haino & Okinawa Electric Girl Saya / Yuraku』

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text by 剛田武 Takeshi Goda
photos by 船木和倖 Kazuyuki Funaki(2022年7月29日小岩オルフェウス)

CD : infogarage IGST-013  (税込)2,750円

灰野敬二 Keiji Haino:Vocal, Voice, Percussions, Ethnic Flute, Hurdy Gurdy
沖縄電子少女彩 Okinawa Electric Girl Saya:Vocal, Voice, Syhth, Singing Bowl

1 : 吐息
2 : 眼
3 : 心

Produce : Keiji Haino & Okinawa Electric Girl Saya
Executive producer : Hisashi Ikeda
Direction : Hajime Nakamura
Mixing : 根岸和貴
Mastering engineer : 根岸和貴

灰野と彩、二人の精魂による清浄な世界への導き

1971年にロックバンド「ロスト・アラーフ」で日本の音楽シーンに登場して以来、50年以上に亘って一切妥協のない独自のスタイルを貫き日本の非メジャー音楽シーンの代表として世界的に活躍する灰野敬二。2016年にローカル・アイドルとしてデビューし、アイドル・ポップ、沖縄民謡、エレクトロニクス、ノイズと活動範囲を広げてきた沖縄電子少女彩。年齢も経歴も異なる二人が結成したユニットが精魂(セイコ)である。二人の出会いは、2018年3月にドラびでおこと一楽儀光が主催したイベント「GIGANOISE 5」。その後2019年8月の彩の生誕イベントに灰野がゲスト出演した。同年リリースした2ndアルバム『黒の天使』でドラびでお、ASTRO、T.MIKAWA、河端一、森田潤などアヴァンギャルド系アーティストとコラボし、2020年にノイズバンド非常階段とのバンド彩階段のアルバム『沖縄階段〜彩の夢は夜ひらく〜』をリリースした彩サイドでは、いつか灰野とコラボレーションしたいという夢を持っていたという。こうしたコラボレーションは、決してベテランの力を借りて名を売る策略などではなく、ひとつのジャンルやスタイルでは収まり切れない彩の才能を開拓し、可能性を広げるための<修行>に近い。

灰野とのコラボレーションが具体化したのは2021年秋のことだった。翌年リリース予定の彩のソロ・アルバムの収録曲のひとつとしてコラボレーションが提案され、一緒にスタジオに入ったところ、二人の創造性が驚くほどかみ合って、魂と魂が滲み合うような深遠な世界が生まれた。両者ともに気に入って、ソロではなく独立したデュオ作品として発表することになり、2022年春に再度スタジオ入りして制作されたのが本作。さらに灰野は、何が飛び出すか分からない彩の可能性を高く評価し、一過的なセッションで終わらせるのではなく、パーマネントに活動するユニットとして「精魂(セイコ)」と命名した。灰野が自らバンドやユニット名を名づけることはあまり多くない。筆者の記憶では、ここ10年間ではStephen O’MallyとOren Ambarchiとの「Nazoranai」と、カヴァーバンド「Hardy Soul」と「The Hardy Rocks」くらいしかない。それだけに灰野が彩とのコラボレーションを如何に気に入り重要視しているかが分かる。

『愉楽』というアルバム・タイトルと楽曲タイトルは彩の発案。シンプルな言葉であるが故に想像力が刺激される。3曲とも20分前後の長尺の即興演奏。彩がシンセサイザーを使っている以外は、各種パーカッション、エスニック・フルート、ハーディガーディ、シンギング・ボウルといったエキゾチックなアコースティック楽器が使われている。注目すべきはふたりとも「Vocal」「 Voice」とクレジットされ、メロディーのある「歌」と、音としての「声」が並列して表記されている点である。灰野も彩も、言葉や旋律のないヴォイス・パフォーマンスを得意としているからこそ、「歌」だけでなく「声」によるコラボレーションこそが精魂の個性となり得るのである。

M1「吐息」は森の中で鳴きあう鳥の囀りを思わせる笛の音で始まる。何語か分からない言葉の呟きが醸し出す静寂が、天候が変化するようにエレクトロニクスとパーカッションの嵐に変わる。嵐が収まると沖縄メロディの歌が始まり、灰野の低音のヴォイスが古老の昔話を語る。未知の国のフォークロアと呼びたくなる幻想の世界である。

M2「眼」は、小銭が落ちるように微細な金属音とフレームドラムの重い響きの対比でスタート。灰野の力強い叫びにシンセが呼応して、緊張感を高めながら、彩のスクリームが加わり「声」のせめぎ合いとなる。<新たなる目をもうひとつ、もうふたつ、もうみっつ、三つの目を開け>という歌詞が意味するものを想像しよう。

M3「心」はハーディガーディと彩の歌による荘厳な演奏。これまで音源化された灰野のハーディガーディはソロ演奏がほとんどだったので、コラボレーションが聴けるだけでも貴重だが、これほど崇光な音楽が生まれるとは想像を遥かに超えていた。以前から灰野が愛聴している中世音楽に通じる、未知の国の聖歌である。

容赦ない爆音演奏という灰野のパブリック・イメージや、エレクトロニクス&ノイズ中心のこれまでの彩のコラボレーションとは大きく異なる、『愉楽』の牧歌的で静謐なサウンドは、二人のファンならずとも、新たな音楽世界への導きとして、新鮮な驚きを覚えるに違いない。しかしながら二人が「精魂」として作り出す世界は、このアルバムだけでは到底収まり切れない。7月29日に開催された「精魂アルバムリリース記念ライブ」では、灰野がエレキギターやエレクトリックルドラヴィーナ、エアシンセやドラムマシーン、フルートやハープやサズといった多種多様な楽器を操り、彩が3台のエレクトロニクス機器とヴォイスとボディ・パフォーマンスを披露して、アルバムとは全く異なる動的な演奏を繰り広げた。今後「精魂」が生み出すであろう音楽の無限の可能性に大いに期待したい。(2022年8月5日記)

灰野敬二&沖縄電子少女彩『精魂アルバムリリース記念ライブ』プレミア配信購入リンク*視聴期限: 2022年8月12日(金) 23:59 まで
https://twitcasting.tv/c:flowentertainment/shopcart/172994

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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