#2204 『カール・ストーン / We Jazz Reworks Vol. 2』

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Text by Akira Saito 齊藤聡

We Jazz Records
https://wejazzrecords.bandcamp.com/album/we-jazz-reworks-vol-2

Carl Stone (computer)

1. Umi
2. Sasagin
3. Coraloense
4. Hippo
5. Omar
6. Cut

Based on WJLP11 – WJLP20 (2019–2020)
Reworked and produced by Carl Stone
Recorded and mixed by Carl Stone
Mastered by Juho Luukkainen
Executive Producer: Matti Nives
Vinyl cut by JSA at Timmion Cutting, Helsinki
Album sleeve rework design: Tuomo Parikka
Additional design and liner notes: Matti Nives
Co-published with Electro-Acoustic Music/ASCAP

カール・ストーンはコンピュータ・ミュージックの先駆者であり、この数十年間にリリースされたアルバムを少し追いかけてみるだけでも、活動初期から独自の音世界を創出しており、さらに現在に至るまで歩みを止めていないことがわかる。いまやジャンル名がカール・ストーンだと言ってよい。

かれの独自の視点のなかには「アジア」がある。二十代の頃に作られた初期の傑作『Woo Lae Oak(又来屋)』(1983年)では空き瓶に悠然と息を吹き込んでおり、いつまでも続くトレモロに身をゆだねていると陶然とさせられる。又来屋とは韓国の冷麺店であり、ここには手法として取り込まれたアジアを見出すことができる。浅草の名店をタイトルにした『Kamiya Bar』(1995年)は日本のテレビからの音声をサンプリングして巧みに編集した作品であり、日本語特有のリズムを執拗に積み重ね、グルーヴとして昇華せしめる手腕はさすがだ。このアジア世界追求は近作『Himalaya』(2019年)で特異な面ではなく普遍的なものとしてかなりの高みに到達しており、殊更に「アジア」と言うことは空疎になる。

断片音源の収集やコンピュータ操作はオペレータとしての作業にとどまらず、演奏の場や他者の表現にも開かれている。そして他者とは同時共演者だけを意味しない。たとえばストーンと大友良英との共作『Monogatari: Amino Argot』(1994年)はサウンド送付とそれをもとにした作業を相互に繰り返した遠距離コミュニケーションの記録だ。この関係を前提にするならば、大友率いるグラウンド・ゼロの傑作『革命京劇』(1995年)において執拗に使われるアジアのことばのありようには、同盤がベースとした『Frankfurt – Peking』(1984年)のゲッベルス=ハルトだけでなく、ストーンの活動も影響していたのではないかと思えてしまう。

もはやストーンにとってアジアは味付けの要素ではなく、ストーンの一部であり、全体である。すなわち、上の文章から「アジア」という言葉につきまとってきたもろもろの意味を奪い去ったところで、ストーンの音楽性には影響はない。本盤『We Jazz Reworks Vol.2』は「アジア」的な作品ではないが、それがあろうとなかろうと、他の近作について別様に言えるように、ストーンの現断面の成熟を感じ取ることができるわけである。

本盤のコンセプトは一風変わっており、フィンランドのレーベル・We Jazz Recordsのリリースしたアルバム10枚を音源として自由に使ってよいというルールに基づいている(シリーズ第2弾がストーンに依頼されたわけだ)。たとえばdj sniffがダウトミュージックの音源を使って別の姿に変貌させたことがある(『dj sniff、ダウトミュージックを斬る。』、2014年)。コンピレーションとはまったく異なる、レーベル内の宝さがしの試みだと言うことができる。その意味でストーンにとっても新たな刺激発見の過程だったのではないか。掘り出された個々の要素がストーンの音楽の中で新たに手足を伸ばしてゆく可能性だってないとは言えないのだ。「アジア」がそうであったように。

たとえば<Omar>は「バリトンサックス」発見かもしれないし、ストレージ内の「他者」発見かもしれない。ジョナー・パーツェン=ジョンソンはゾンゴ・ジャンクション(ブルックリンのアフロビートのバンド)のメンバーでもあるバリトンサックス奏者だ。鼓膜をびりびりと震わせる低音とともに民俗的なものから音響的なものまで振れ幅が広く、それがストーンの策動によってさらに拡張され、複数のグルーヴが並走する刺激的なサウンドとなっている。

狂った楽園的な<Hippo>、音と音とのずれが快感を生む<Sasagin>など他の曲にも驚かされる。掉尾を飾る<Cut>のめまぐるしさは、ストーンの音楽が次の世界に向けて開かれていることを示すものでもあるだろう。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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