#2206 『Peter Brötzmann / Keiji Haino Duo / The intellect given birth to here (existence) is too young』
『ペーター・ブロッツマン、灰野敬二デュオ / ここ(存在)に生み落とされる知性は 若過ぎる』

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text by 剛田武 Takeshi Goda

Black Editions 4LP:BE-1005/PT006

Peter Brötzmann – B-flat Clarinet, Tárogató, Tenor Saxophone
Keiji Haino – Electric Guitar, Drum Kit, Percussion, Voice

LP 1
Begging your pardon, Master Sokushinbutsu
You have sacrificed your body for us
But things continue to worsen

すいません 即身仏様
あなた方が 身を捧げてくださっているのに
どんどん悪くなっています

LP 2
The beginning or the end
which will be the first to admit its opponent?
A landscape never glimpsed before
is on the verge of manifestation

はじまりと終わり
どっちが先に相手を受け入れられるか?
まだ見たことのない風景が
現れそうだ

LP 3
The intellect given birth to here (existence)
is too young

ここ(存在)に生み落とされる知性は
若過ぎる

​LP 4
The wound that lapses into this world
can sometimes be bigger
than the wound that was dropped here

生み堕とされた傷のほうが
生み堕とした傷よりも
大きくなることがある

 

LP 1 & 2 recorded August 4, 2018 (Zebulon, Los Angeles, CA.)
LP 3 & 4 recorded August 8, 2018 (The Chapel, San Francisco, CA)
Recorded and mixed by Toshi Kasai (LP 1 & 2) and Eric Bauer (LP 3 & 4)
Mastering by Elysian Masters, Los Angeles, CA
Design by Takuya Kitamura
Translation by Alan Cummings
Executive Producer – Peter Kolovos

​Performances produced by Michael Ehlers and Peter Kolovos

Black Eidtions official site

毎回新しい旅が始まる至福のコラボレーション。

​2018年3月30日~4月7日ペーター・ブロッツマンと灰野敬二はスチールギターのヘザー・レイを加えたトリオでヨーロッパ・ツアー(5公演)を行い、4月27日には六本木SuperDeluxeで共演。その3か月後の8月3日〜8日にはアメリカ西海岸で3回デュオ公演を行った。さらに翌2019年5月17日にはカナダ、ケベック州ヴィクトリアヴィルのFestival International de Musique Actuelle Victoriaville (FIMAV) にレイを含むトリオで出演した。2020年に新型コロナウィルス感染が世界中で猛威を振るう前のこととはいえ、14か月の間に日独を代表する極端音楽家二人が10回におよぶ濃厚なコラボレーションを行ったことは特筆に値するだろう。そのハイライトともいえる2018年8月のロサンゼルスのゼブロン公演(二日目)と、サンフランシスコのザ・チャペル公演に於けるブロッツマン・灰野デュオのフル・ライヴ音源が、4枚組LPボックスセットとしてリリースされた。両者はこれまで、灰野の不失者、ブロッツマンのFull Blastそれぞれでのコラボや、他のミュージシャンを加えた共演での作品を何枚かリリースしているが、デュオとしての作品は1997年(1996年録音)の『進化してゆく恥じらい 或いは加速する原罪 Evolving Blush Or Driving Original Sin』(1997)以来25年ぶりとなる。

艶消しブラックの厚紙にエンボス加工された美麗な装丁のボックスに、LP4枚と曲名&クレジット記載インナーカードに加えて、ブロッツマンと灰野それぞれが描いたアート作品プリントが各4枚、計8枚封入されている。ブロッツマンのモノトーンを基調としたイラストは彼のレコード・ジャケットでお馴染みだが、漆黒のイメージが強い灰野の色彩豊かなドローイングに驚く人も多いに違いない。実際にブロッツマンと灰野の共演ライヴを体験すれば分かると思うが、彼らのコラボレーションは“サックスのヘラクレス”や“容赦ない爆音演奏”という二人のパブリックイメージとは異なり、繊細な感性と感性の交わりが、起伏に富んだ色彩と風景を描き出す、何が起こるか分からない行先不明の旅に他ならない。灰野はギター、ヴォイスの他にドラムやパーカッションを様々な奏法でプレイして、ブロッツマンのリード楽器に多彩な色彩を加える。鳥の囀りと風の咽び泣き、得体の知れない騒めき、地鳴りと雷鳴の衝突、眩い光の放射、突風の通過、別方向への逃走、再会の喜び、静寂の眠り・・・。ブロッツマンと灰野という二人の音楽家の長い人生の旅路の交差地点が4枚のレコードに集約されているように感じられる。

灰野によると、ブロッツマンとの共演は「毎回新しい会話を始める感じ」だという。何度も共演する理由を尋ねると「ブロッツマンさんが大好きだから。それ以上の理由はない」との答え。その気持ちはリスナーである我々も同じだろう。“好き”に理由はない。手元には針を落とすたびに新しい旅が始まるレコードが4枚(8面)もある。それこそ音楽愛好家にとって最大の至福に他ならない。

なお、本作は、灰野敬二が1995年に4枚組CD『魂の純愛』を自主リリースした時のレーベル名を引き継いで、Black Editionsが灰野の監修のもとに復活させたレーベルPurple Trapからの第2弾リリースである(第1弾は2019年ロサンゼルス、ゼブロンでのハーディガーディ・ソロ公演を収録した2枚組LP『My Lord Music, I Most Humbly Beg Your Indulgence In The Hope That You Will Do Me The Honour Of Permitting This Seed Called Keiji Haino To Be Planted Within You(親愛なる音楽様 申し訳ないけど あなたの中に 灰野敬二という種子を植えつけさせていただきます)』)。今後Purple Trapは、灰野の作品を過去のアーカイヴと新録音の両方で制作し、アナログレコードとデジタルでリリースするというから楽しみは尽きない。(2022年9月30日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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