#2210 『ノエル・アクショテ / J.(B.)B. (For Jaimie)』

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Text by Akira Saito 齊藤聡

Noël Akchoté (Acoustic Guitar Martin HD-28)

1. Theme Zero Zero One
2. Theme Nothing
3. Love Song
4. Simple Silver Surfer
5. Breezy Bee
6. Twenty-Three n Me, Jupiter Redux

All Compositions © by Jaimie Branch (International Anthem),
except #5 by Noël Akchoté (Noël Akchoté Downloads).
Recorded in Saint Gildas de Rhuys, 1-2 September 2022.
NAJB-001 – Noël Akchoté Downloads (2022).
Dedicated to the late Jaimie ‘Breezy’ Branch (1983-2022)

https://noelakchote.bandcamp.com/album/j-b-b-for-jaimie

2022年8月22日、ジェイミー・ブランチが突然亡くなった。39歳だった。ニューヨークに愛されていただろうことは、音楽好きたちの拠点たるレコード店アザー・ミュージックが閉店することを惜しむパレードの先頭で、ジェイミーが熱くトランペットを吹きながら歩いている様子からもうかがえる(*1)。

彼女のプレイをいちどだけ観たことがある。2017年、ニューヨークにおけるマタナ・ロバーツ(サックス)のステージであり、ジェイミーは同じトランぺッターのピーター・エヴァンスの隣で吹いていた。彼女が飛翔せんとする音の勢いは、エヴァンスのそれを遥かに凌駕していたことが強く記憶に残っている。蛮勇などではなかった。圧倒的なフィジカルの力で鳴らしきるという金管楽器の快感、加えてああジェイミーのものだとわかる覚えやすい旋律。音楽のよろこびそのものが方法論として成り立っており、それが鮮烈であったのだ。

パリ出身のノエル・アクショテは、もとより時空間が歪んだサウンドで特異な評価を受けるギタリストだった。アルバムをbandcampなどの媒体でデジタル配信しはじめるようになり、その変態性に拍車がかかった。カヴァー集も多く、たとえばソニー・ロリンズの名盤『A Night at the Village Vanguard』のソロギター集、シェーンベルグやメシアンやヴェーベルンなど現代音楽の作品集、中世の音楽、ルイ・アームストロングやシドニー・ベシェといったアーリー・ジャズ、フリージャズの巨人・高柳昌行の作品集など、膨大なアルバム群のタイトルを追っていくだけで眩暈がする。

そしてかれはジェイミーの死の直後に本盤を発表した。ジェイミーと共演したことはなかったものの、彼女の立ち居振る舞いはよく見ていた。それは共演したのと同じことだよとアクショテは話す。たしかに音を聴くと、悪ノリではないし軽くふざけたものでもないことはすぐにわかる。ジェイミーの『Fly or Die』連作を聴いていれば耳に残るいくつものメロディが、アクショテの歪んだ時空間の中で立ち現れ、そうだ、この生命力の奔流がジェイミーの音楽だったのだと、あらためて気付かされる。もう彼女の新しい音を聴くことはできないが、再発見を続けることはできる。

――― 若いミュージシャンが現在ジャズを演る意味はなんだろう。ジェイミーは私にとってその具現化だった。彼女は過去の歴史をよく知っているが、間違いなく現代において、自分自身の影響力、欲望、存在、疑問とともに演奏する人だった。信じがたいほど素晴らしい現代プレイヤーだったことは間違いない。彼女は独自の方法と独自の技術をもって、現在地点において演奏していた。サウンドが彼女自身なのであり、またトランペットのヴァーチュオーゾでもあり、自由即興のコアに足を踏み入れつつもさまざまな形式やバンドで演奏することができた。もしこんなに突然歩みを止めることがなければ、彼女が将来さらに先に進んだだろうことは誰でもわかることだよ。演奏でも、書くものでも、人生でも。私はドン・チェリーのありようを思い出してしまうのだけれど、彼女のすべては彼女自身のやり方によるもので、誰かをコピーしたものなんかではなかった。強い個性をもっていた。(ノエル・アクショテ)(*2)

(文中敬称略)

(*1)プロマ・バスー、ロブ・ハッチ=ミラー『アザー・ミュージック』(映画、2019年)
(*2)筆者によるノエル・アクショテへのインタビュー(2022年10月23日)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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