#2209 『ピーター・エヴァンス / Murmurs』

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Text by Akira Saito 齊藤聡

More is More Records

Erin Lesser (piccolo flute)
Tim Munro (flute)
Peter Evans (MIDI piano performance/programming)

1. Message From the Stars
2. Changes (for James Newton)
3. From Beyond
4. Current Affairs

Message from the Stars
Recorded and mixed June 2022 in Appleton Wisconsin by Brent T. Hauer
Changes (for James Newton)
Recorded and mixed August 2021 in Chicago Illinois by Mat Mehlan
From Beyond & Current Affairs
Recorded January – March 2022 in Brooklyn NYC
Mastering by Mike Pride
Cover photo by Ranjit Mulgaonkar

https://peterevansmusic.bandcamp.com/album/murmurs

またしてもピーター・エヴァンスが異色作を発表した。トランペットは一切吹いていない。クラシックのフルート奏者ふたりによるソロが1曲ずつ、エヴァンスのMIDIピアノソロを編集したものが2曲である。これまでの越境も刮目すべきものではあったが、それはあくまでジャズ領域内。ここまで探索を行っているのかと驚かされる作品だ。もっとも、フルート奏者ふたりとは長い付き合いであり、もとよりエヴァンスの中に蓄えられていた表現要素なのだろう。

<Message From the Stars>ではエリン・レッサーがピッコロ・フルートを吹く。甲高く高い分離性があるためまるでデジタルサウンドだ。<Changes (for James Newton)>はティム・マンローのフルートソロであり、タイトル通り、ジャズフルート奏者のジェイムス・ニュートンに捧げられた演奏である。たとえばニュートンのフルートソロ盤『AXIOM』(ECM、1982年)などを聴くと、跳躍するフレージング、ヴォイスとのミックス、幽玄なヴィブラートなど実に多彩な表現に魅せられてしまう。もとよりニュートンは楽器の可能性追求やクラシックとのコラボレーションなどジャズの枠にはまらない人であった。ここでマンローは入念に思慮深く音の様態を拡張しており、たしかに、クラシックからニュートンへの返答と言えるのかもしれない。

そしてエヴァンスのソロ<From Beyond>に移行すると周囲で星々が高速で明滅するような驚嘆のサウンド。やがて執拗な繰り返しとともに抒情的で美しい流れがあらわれるが、ふたたびアブストラクトな星々が音風景を埋め尽くす。エヴァンスによれば、なるべくゆっくりと電子ピアノを弾いて録音し、それをもとに編集を行ったものだ。かれのように絶えざる訓練により(トランペットの)超絶技巧を実現した人が、肉体に頼らずこのような手法を導入することはおもしろいことだ。

<Current Affairs>のアプローチはまた異なっている。録音した音を素材として40秒ほどの「エピソード」をいくつも作り、それを層状に積み重ねたものである。聴いていると層の組み合わせが次々に変わり、層と層とがずれてゆき、やはり生演奏では得られない感覚に興奮させられる。

エヴァンスは、フルートとピアノとの組み合わせがおもしろいと思ったんだと平然と言ってのける。この途方もないポテンシャルは次にどのような形をとってあらわれるのか、想像などできようはずがない。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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