#2207 映画『LOVE LIFE』深田晃司監督 木村文乃主演
『矢野顕子/LOVE LIFE』アナログ盤リリース

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Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo from the movie: ©2022 映画「LOVE LIFE」製作委員会 & COMME DES CINEMAS

矢野顕子「LOVE LIFE」から生まれた映画が描き出す、さまざまな”愛”のかたち

映画『LOVE LIFE』
出演:木村文乃、永山絢斗、砂田アトム、山崎紘菜、嶋田鉄太、三戸なつめ、神野三鈴、田口トモロヲ
監督・脚本・編集:深田晃司
主題歌:矢野顕子『LOVE LIFE』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
配給:エレファントハウス
公開日:2022年9月9日
映画『LOVE LIFE』公式ウェブサイト

矢野顕子が1991年にニューヨークで録音したアルバム『LOVE LIFE』。1989年にチャーリー・ヘイデン、ピーター・アースキン、パット・メセニー、アンソニー・ジャクソンらが参加して作られた『Welcome Back』(MIDI*)の次にあたり、矢野が家族でニューヨーク州に移住した直後で、エピック・レコード移籍第1作。ジェフ・ボヴァがエレクトロニックサウンドデザインの点で大きく拡張しながら(その後継者が現在のヒロ飯田)、パット・メセニー、ウィル・リー、スティーヴ・フェローンなども参加する一方、糸井重里、宮沢和史とのコラボレーションも深まって、矢野が可能性をさらに開花した一作だ。タイトル曲の<LOVE LIFE>は矢野顕子、パット・メセニーにクラリネットの秋山かえでが加わっている。この頃の録音風景、六本木ピットインでのライヴなど矢野のドキュメンタリーがNHK総合テレビ「音楽達人倶楽部」に記録されている。

位置関係としては、次作が、録音風景が映画にもなった『Super Folk Song』、ニューヨーク録音としては『LOVE IS HERE』、『Elephant Hotel』、『Oui Oui』へと続く。矢野の『Pat Metheny / Secret Story』への参加が1992年となっている。

深田晃司監督が20歳の頃に『LOVE LIFE』に出逢い、ストーリーを着想し映画にすることを望んで来て、映画『LOVE LIFE』をついに完成させた。深田監督は次のように語っている。

「『なんて美しい歌、美しい歌詞なんだろう』と心震える思いで、矢野顕子さんの多くの歌がそうであるように、言葉のひとつひとつが重層的な意味を持ち、さまざまな解釈を許してくれました。『LOVE LIFE』を何度も聴くうちに自然と一本のシナリオが浮かびました。ある夫婦の話でした。。。」

矢野顕子はこの映画に次のメッセージを寄せている。

「ひとつとして、同じ形をした愛は無い。
そのことを丁寧にうつし取って映像にして見せてくれる、それが「LOVE LIFE」です。
音楽の“LOVE LIFE”にこんな大きな風景を見せてくださって、ありがとうございました。」

<ストーリー>
妙子(木村文乃)が暮らす部屋からは、集合住宅の中央にある広場が⼀望できる。向かいの棟には、再婚した夫・⼆郎(永山絢斗)の両親が住んでいる。小さな問題を抱えつつも、愛する夫と愛する息子・敬太とのかけがえのない幸せな日々。しかし、結婚して1年が経とうとするある日、夫婦を悲しい出来事が襲う。哀しみに打ち沈む妙⼦の前に⼀⼈の男が現れる。失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパク(砂田アトム)だった。再会を機に、ろう者であるパクの身の周りの世話をするようになる妙子。 一方、⼆郎は以前付き合っていた山崎(山崎紘菜)と会っていた。哀しみの先で、妙⼦はどんな「愛」を選択するのか、どんな「人生」を選択するのか……。

それぞれの形もベクトルも違う”愛”が交錯し、とてつもない不安に駆られたり、心が暖まるかと思えば、がっかりもしながら、結末は未来に委ねられる。冒頭の衝撃の展開に始まり、これは大変なものを見てしまったのでは、、という重たい感覚で席を立ちながら、やがてじわじわと、心が浄化され愛おしい気持ちと希望が湧いてくる。まさに矢野がメッセージを寄せているように、映画を見た後で”愛”の捉え方が変わってくる。”愛”にはいろいろな形があって、ひとつひとつが大切ということに改めて気付かせてくれる映画だった。

ネタバレになるが、映画の中で、タイトル曲<LOVE LIFE>が印象的なシーンに使われているが、アルバムの曲が散りばめられているわけではない。代わりにアルバムに収められた各曲の情景がオマージュとして随所に埋め込まれている。観る前にアルバム『LOVE LIFE』を聴いて、曲のタイトルを眺めてみることをお薦めしたい。それも含めて深田晃司監督が脚本に仕込んだ重層的な流れとユーモアと緩急が観るものを巻き込む。木村文乃、永山絢斗、神野三鈴、田口トモロヲらの迫真の演技でシリアスに推移していく中、周囲を混乱させるパクを演じる砂田アトムが救いとなり、その演技が光る。

●アルバム『LOVE LIFE』初のアナログ盤リリース
映画『LOVE LIFE』の2022年9月9日公開に合わせて、9月7日にアルバム『LOVE LIFE』の初のアナログ盤がリリースされた。アナログ盤特設ウェブサイトはこちら。矢野の2022年12月のコンサートとライヴについては矢野顕子オフィシャルウェブサイトをご覧いただきたい。

『矢野顕子/LOVE LIFE』
【完全生産限定/アナログ盤】

(オリジナルリリース 1991年10月25日)
ソニー・ミュージック MHJL-224 ¥4,070(税込)

1.BAKABON
2.釣りに行こう(WHY DON’T WE GO FISHING) (作詞・作曲:宮沢和史)
3.THE LETTER (作詞・作曲:WAYNE CASON THOMPSON)
4.ANGLER’S SUMMER
5.スナオになりたい。(I WANT TO BE SUNAO) (作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子)

1.湖のふもとでねこと暮らしている (DOWN BY THE LAKE, LIVING WITH MY CAT) (作詞:矢野顕子/宮沢和史 作曲:矢野顕子)
2.SAYONARA〜CHEROKEE (作詞・作曲:HASEGAWA/YOSHIDA/FREDDY MORGAN (作詞・作曲:RAY NOBLE)
3.いいこ いいこ (GOOD GIRL)
4.愛はたくさん (LOTS OF LOVE)
5.LOVE LIFE

※特に表記のない曲は、矢野顕子作詞・作曲
Recorded at the Power Station, New York (現 Power Station at Berklee NYC), Victor Aoyama Studio and Folio Sound.
Mastering & Cutting: Bernie Grundman at Bernie Grundman Mastering Hollywood

映画『LOVE LIFE』矢野顕子・木村文乃・深田晃司監督スペシャル鼎談映像

矢野顕子 featuring 小原礼・佐橋佳幸・林立夫『音楽はおくりもの』リリース記念ライブ at Blue Note TOKYO 2021年8月31日

矢野顕子 – 「さとがえるコンサート2020」ダイジェスト

*MIDIは、1984年8月21日に大蔵 博と宮田茂樹によって設立された。宮田は社長も務めた後、1991年に退社したが、2022年7月29日に急性心筋梗塞のため72歳で亡くなられたことをこの場を借りてお伝えし、ご冥福をお祈りしたい。

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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