#2215 『Aubrey Johnson & Randy Ingram / Play Favorites 』
『オーブリー・ジョンソン&ランディ・イングラム/プレイ・ファイヴァリッツ』

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Text by Tomoyuki Kubo 久保智之

Sunnyside Records SSC1683

Aubrey Johnson (vo)
Randy Ingram (p)

  1. My Future 
  2. If Ever I Would Leave You 
  3. Prelude 
  4. If I Should Lose You
  5. Conversation
  6. Olha Maria
  7. Didn’t We
  8. Chovendo Na Roseira
  9. Quem E Voce
  10. I’ll Remember April
  11. Born To Be Blue
  12. Bons Amigos
  13. My Ideal

Produced by Randy Ingram and Aubrey Johnson
Arrangements by Randy Ingram and Aubrey Johnson, “Chovendo Na Roseira” arrangement inspired by Luciana Souza

Executive Producer François Zalacain
Recorded May 27, 28 and June 10, 2022 at Big Orange Sheep, Brooklyn, NY
Engineered by Michael Perez Cisneros, assistant engineer Kevin Thomas
Mixed and Mastered by Rich Breen


ヴォーカリストのオーブリー・ジョンソン、ピアニストのランディ・イングラムによるデュオ・アルバム。

オーブリー・ジョンソンは、幼い頃からジャズやブラジル音楽を聴いて育ってきており、大学時代はオペラも学んできた。その経験などを活かしながら、ポップスからジャズ、ブラジル音楽、オペラなど、様々な歌のスタイルを自由自在に操るスキルを磨いてきた。複雑なメロディやハーモニーを扱うことや、超高速かつ正確なスキャットも得意としており、デビューアルバム『Unraveled』でもその能力を活かしたパフォーマンスを披露している。ランディ・イングラムは、大学院卒業後にボーカリストとの仕事をする経験を多く積み、伴奏や歌に対するアレンジのスキルを磨いてきた。

2人は、2015年にジャズ・キャンプで講師陣のペアとして組んだ際に意気投合し、ペアでの活動を開始した。2人とも多くの歌に触れてきていたこともあり、2人のレパートリーはとても幅広く、その豊かな経験は、ユニークなアレンジが生み出される土台にもなっている。

<各曲について>

〈My Future〉は、ビリー・アイリッシュの2020年の曲。幅広い選曲の中で、この曲だけ現代の曲となっている。オーブリーがバークリー音大の学生から教えてもらいお気に入りとなった曲だそうだが、ジャズ風のアレンジとなり、原曲とはまた違う深みのある曲に仕上がっている。〈If Ever I Would Leave You〉はアップテンポなアレンジ。ランディのハッピーなピアノに乗って、オーブリーの伸び伸びとしたインプロとスキャットがとても楽しげだ。

〈Prelude」は、このアルバムでの唯一のオリジナル曲。次の曲として控える〈If I Should Lose You〉の長いイントロとなるような形となっている。〈If I Should Lose You〉はとてもしっとりとした艶っぽいアレンジとハーモニーになっているが、この〈Prelude〉によってその世界観が一気に作られ、〈If I Should Lose You〉へと滑らかに導いてくれている。

一転して、陽が当たり辺りが一気に明るくなったかのようなランディのピアノのイントロから、ジョニ・ミッチェルの〈Conversation〉が続く。オーブリーの語りかけるような歌い方からは、ふとジョニ・ミッチェルの姿が想起される。原曲の要素とジャズの要素とのコンビネーションが絶妙だ。

〈Olha Maria〉はアントニオ・カルロス・ジョビンとシコ・ブアルキの曲。そして〈Didn’t We〉はジミー・ウェッブの曲と続く。〈Olha Maria〉と〈Didn’t We〉は、いずれもうまくいかない恋愛について描かれた曲だが、音楽の成り立ちとしてはこの2つの曲にはほとんど関連はないと言って良いだろう。しかしその2曲をつなぎ、両者の組み合わせから新たな世界感を生み出そうとするセンスが見事だ。2曲をつなぐ2分間ほど続くランディのピアノ・ソロには、この2曲へのメッセージが込められているのであろう。実に美しい。〈Chovendo Na Roseira」もアントニオ・カルロス・ジョビンの曲で、ここであらためてブラジル音楽が続く。こちらはアップテンポのリズムが心地よく、ピアノと歌の掛け合いも楽しい。リズムに乗って、二人とも伸びやかに歌い上げていく。

〈Quem E Voce〉はパット・メセニー・グループのピアニストであったライル・メイズの名曲〈Close to Home〉のボーカル・バージョンである。ライル・メイズ・ファン感涙の一曲だ。オーブリー・ジョンソンは、ライル・メイズの姪にあたるが、ここではミルトン・ナシメントがカバーしたバージョンの歌詞を使いながら、曲を再構築している。原曲はインストゥルメンタルであり音域も広く、新たな表現は困難な曲であると思われるが、ボーカルとピアノのデュオというフォーマットの中で、ダイナミクス豊かに美しい世界をつくり出している。

〈I’ll Remember April / April〉では、オーブリーの得意とする超高速かつ緻密な、驚愕のスキャットを聴くことができる。ピッタリと寄り添うランディのピアノも素晴らしい。来日公演でもこの〈April〉は披露されたが、ふたりとも楽しげに軽々と演奏していたのは驚きであった。〈Born To Be Blue〉は、ムーディーかつブルージーな一曲。ヘレン・メリルなどともまた異なる現代的なアレンジも素晴らしい。アルバムの終盤においても、まだ次から次へと新しい表現が繰り出される二人のパフォーマンス。この二人のアイディアの豊富さには本当に驚く。〈Bons Amigos〉は、ブラジルのギタリスト、トニーニョ・オルタの曲。この曲も難曲だと思われるが、次々と展開していくメロディを、ランディのピアノのガイドに乗って、軽やかに表現している。〈My Ideal〉は、中盤からワルツとしてアレンジされ、ラストにふさわしい展開となっている。エンディングのオーブリーの伸びやかな声とランディのピアノとの一体感も素晴らしく、聴いていると「この曲でこのアルバムは終わってしまうのか…」と別れがたいような気持ちが湧き上がってくる。

<全体について>

本作品は、全13曲という多くの曲で構成されているが、選曲の幅はとても広く各曲にも特徴があり、それぞれのアレンジもとてもユニークだ。ピアノのスタイルもボーカルのスタイルや声質などにも曲ごとに細かな変化があり。アルバム全体の各曲のつながりにも、緻密にデザインされた意図があるようだ。アルバム全体の流れにも大きな魅力を感じる作品だ。近年は、曲単位で曲を楽しむことが多くなってきているが、このアルバムは、ぜひ一度全体を通しで聴いてみることもお薦めしたい。

<参考>

本デュオアルバムに直接関係がないが、オーブリーが、ファーストアルバムのタイトル曲である〈Unraveled〉という曲に、自身でコーラスを加えた作品がYoutubeで公開されている。オーブリーの素晴らしさの一部がわかる内容だ。

久保智之

久保智之(Tomoyuki Kubo) 東京生まれ patweek (Pat Metheny Fanpage) 主宰  記事執筆実績等:ジャズライフ, ジャズ・ギター・マガジン, ヤング・ギター, ADLIB, ブルーノート・ジャパン(イベント), 慶應義塾大学アート・センター 等

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