#2219 『Lukáš Oravec Quartet with Moravian Philharmonic feat. Andy Middleton and Danny Grissett 』
『ルカシュ・オラヴェツ・カルテット with モラヴィア・フィルハーモニック feat. ダニー・グリセット&アンディ・ミドルトン』

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text: Ring Okazaki 岡崎 凛

Lukáš Oravec Records/2022 年9月

Lukáš Oravec (trumpet,flugelhorn,composer) ルカシュ・オラヴェツ
Andy Middleton (tenor saxphone) アンディ・ミドルトン
Danny Grissett (piano) ダニー・グリセット
Tomáš Baroš(double bass) トマーシュ・バロシュ、
Marián Ševčík(drums) マリアーン・シェフチーク
Moravian Philharmonic Orchestra モラヴィア・フィルハーモニー管弦楽団
Pavel Klimashevsky (conductor, arranger) パヴェル・クリマシェフスキ

1. Mr. Martin
2. Jeanette
3. Moonday
4. Gurun
5. Interwaltz
6. Air
7. Kulosaari
8. Orfa Roots

All compositions by Lukáš Oravec except Air by Johann Sebastian Bach, arr. Miroslav Hloucal
(6はバッハ曲〈Air (通称「G線上のアリア」)〉をMiroslav Hloucalが編曲。これ以外はオラヴェツ作曲)

Recorded at Reduda Concert Hall, Olomouc and The Orli Street Theatre Recording Studio, Brno, June 2021 by Jan Košulič
Front cover photo and design by Adda
Other phots by Richard Köhler
Produced by Lukáš Oravec


<大物プレイヤーと次々と共演:驚くほどアクティヴなトランぺッター/作曲家、ルカシュ・オラヴェツの足跡>

数年前は注目の若手という存在だったルカシュ・オラヴェツ (tp) は、中欧の実力派プレイヤーへと成長を遂げている。デビュー以来、味わい深い曲を書く彼は、今回の「Jazz With Strings」企画でも素晴らしい結果をおさめた。だが彼は、日本ではまだ知る人の少ないトランぺッターなので、まず彼の足跡について触れ、本作が生まれるまでをたどりたい:

スロヴァキアのトランぺッター、ルカシュ・オラヴェツは1988年生まれ。2013年に母国からデビュー盤をリリースすると、すぐに自主レーベルを立ち上げた。彼は公演ツアーでスロヴァキアなどを訪れるジャズ演奏家に積極的に働きかけ、ボブ・ミンツァー、ヴィンセント・ハーリング、ウェイン・エスコフェリー、シーマス・ブレイクなど、名だたるプレイヤーとのコンサートを実現させ、さらに彼のレーベルで共演作をリリースしてきた。

こうした共演者の中には、コネも面識もないのに、いきなり共演を依頼してくる彼に唖然としたと(YouTubeで)語る声もあったが、本人はどこ吹く風という表情をしていた。結果こそ全て、という考え方だろうか。その後も彼の積極的姿勢は全く変わっていない。彼は著名プレイヤーにただ共演を依頼するだけでなく、彼のオリジナル曲を演奏し、さらにレコーディングも、という形で音楽キャリアを築いてきた。

ルカシュ・オラヴェツはポストバップの演奏家/作曲家と言っていいだろう。ジャズ最先端の音楽を目指すタイプではなく、バップ期の名曲を連想するような、風格あるオリジナル曲を書く。彼の吹くトランペットとフリューゲルホーンの音には、いつも温かみがあり、心を和ませる。オラヴェツは、以前ここで紹介したサックス奏者、オンドジェイ・シュトヴェラーチェクとも仲が良く、一緒に「Kaunis Five」というクインテットを結成している。

2020年には彼の率いるビッグバンド、Lukáš Oravec Orchestra のアルバム、『Light Of Blue』をリリース。ここには米国からオーストリアに移住したアンディ・ミドルトンが常駐のテナーサックス奏者として参加している。このビッグバンドには専属のアレンジャー/指揮者を置き、オラヴェツは作曲家/トランぺッターとして加わる。彼のラージ・アンサンブルへの関心はさらに高まり、ストリングス・オーケストラとの共演へと発展していった。そしてここでも、ビッグバンド指揮者であるパヴェル・クリマシェフスキ(Pavel Klimashevsky)が、編曲の腕を振るうことになる。

lukas oravc quartet and guests
Lukas Oravec quartet with guest players and conductor standing before Moravian Phil. Orchestra

<スロヴァキア、チェコの培う音楽文化に触れるジャズ作品>

本作ではアンディ・ミドルトン(sax)とダニー・グリセット(p)をフィーチャーした彼のスペシャル・バンドに、チェコのモラヴィア・フィルが参加する。フィーチャーされる2人はこれまでオラヴェツとの共演を重ねており、3人の連携はとてもスムースだ。彼らのソロが期待以上に味わい深く、クラシックの弦楽とともに聴くジャズの楽しみを押し上げる。こうして、米国由来のジャズの魅力と、中欧の音楽文化の奥深さに出会う。

ジャズとクラシックの境界を行きかうの中で、5人のジャズ・プレイヤーにスポットが当たると、時おりストリングスが優雅に寄り添い、トランペット、サックス、ピアノなどの音と調和していく。基本的に主役はジャズなのだが、クラシカルな弦楽の美しさに何度も息を呑む。アレンジャーのセンスが輝き、ルカシュ・オラヴェツのオリジナル曲がこれまで以上に魅力あるものに仕上がっていく。

このコンサート企画は「Jazz & Strings: Lukáš Oravec Quartet with the MFO(モラヴィア・フィルハーモニー・オーケストラ)」と題され、2021年5月にチェコの Parma Recordings が動画配信を行った。新型コロナウイルス蔓延の影響で企画されたストリーミング・ライヴだったようだ。
現在1曲のみYouTubeで視聴でき、ジャズ・カルテット+サックス+弦楽オーケストラがステージに並ぶ状況が分かる。

参考情報:
<Lukáš Oravec Quartetについて>
ルカシュ・オラヴェツの率いるカルテットには、ゲストのサックス奏者が加わることが多い。Lukáš Oravec Quartet featuring~という書き方で、続きにサックス奏者とピアニストの名前が並ぶことがある。Lukáš Oravec Quartetというのは、言わば彼のプロジェクト名なのだろう。レギュラーメンバーにゲストを加えた編成に、いつもカルテットという言葉を使っている。ベーシストはTomáš Baroš(トマーシュ・バロシュ)、ドラマーはMarián Ševčík(マリアーン・シェフチーク)で、この2人についてはずっと変更がない。

オラヴェツは、2013年にスロヴァキアの Hudobný fond(Music Fund Slovakia)からデビュー盤『Intoroducing Lukáš Oravec Quartet』をリリースして以来、本作を含め5枚のリーダー作を自主レーベルからリリースしている。(2022年11月からアップルミュージックなど定額配信サービス全般でこの5枚が聴けるようになり、アップルミュージックには Lukáš Oravec Quartet として4作、Lukáš Oravec Orchestra として1作が登場した)

<アンディ・ミドルトンについて、本人のサイトより抜粋>
Andy Middleton はペンシルベニア州ハリスバーグ生まれ。
マイアミ大学で作曲の修士号を取得し、ニューヨークのジャズシーンで20年近く活躍した後、2006年にオーストリアのウィーンに移住、ウィーン市立音楽芸術大学でジャズ理論、作曲、サックス演奏の教授を務める。
ラルフ・タウナー、ケニー・ウィーラー、デイヴ・ホランド、マリア・シュナイダーのほか多くの共演歴がある。彼の作る曲は、現代的でメロディックでありながら、ジャズの伝統に根ざしている。

<モラヴィア・フィルハーモニー・オーケストラについて>
モラヴィア・フィルハーモニー管弦楽団は、チェコ共和国で最も歴史ある交響楽団の一つ。モラヴィアの都市オロモウツに本拠を置き、「過去70年間この地域の音楽活動をリードする存在」とされる。
https://www.mfo.cz/en/orchestra/

モラヴィアはチェコ共和国の東部に位置する地方。その中部にあるオロモウツ(Olomouc)はチェコで5番目に大きい都市。首都プラハに次ぐ多数の文化財を保有し、オロモウツの中心部にある聖三位一体柱は、ユネスコ世界遺産に登録されている。

<ルカシュ・オラヴェツというカナ表記について>
Lukáš はルカーシュと書く方が原音に近いが、通販CD店などではほとんどルカシュとなっていたため、この表記にしている。

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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