#2224 『JUKE/19』

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text by 剛田武 Takeshi Goda

円盤 LP: 12EB-134

JUKE/19
大竹伸朗 Shinro Ohtake :Bass, Guitar, Synthesizer
野本卓司 Takuji Nomoto : Guitar, Bass, Drums, Voice
遠山俊明 Toshiaki Tohyama : Guitar, Bass, Synthesizer, Organ, Voice
太田陽子 Yoko Ohta : Voice
Gammo : Guitar

A1 General Dynamic F.U.N. 1:39
A2 F-r-e-s-h 0:32
A3 A Walk In The Sun 1:15
A4 Office Party 0:33
A5 Miss Happer 0:39
A6 On The Beach 0:49
A7 Last Summer 0:40
A8 Big-A-Mist 0:26
A9 Fish 0:07
A10 Mirror, Mirror 0:52
A11 Don´t Explain 1:18
A12 Born To Be Blue 1:07
A13 After Work 0:40
A14 Negeria 0:53
A15 Bathers I 0:30
A16 Bathers II 0:06
A17 Bathers III 0:06
A18 Bathers IV 0:05
A19 Jamping Jack Flash 0:47
A20 Second Marriage 0:16
A21 The First Peal Target 0:56
A22 Blues In The Night 0:25
A23 Head And Arm 0:06
A24 Five Dollers 0:16
A25 From The Window 0:22
A26 Still Life 1:37

B1 Angel 1:05
B2 Autumn Fashion 1:03
B3 River 0:26
B4 Spring Has Come 0:11
B5 She Is Leaving Home 1:10
B6 Serch´n 2:48
B7 Body And Soul 0:33
B8 Dust Be My Destiny 0:45
B9 Tap-And-Die 0:09
B10 Downstairs 0:34
B11 Karakas 0:37
B12 Moonstripes Empire News 0:39
B13 The Hustler 0:08
B14 High Way 0:20
B15 Catch Penny Tune 2:10
B16 Under The Moon 1:29
B17 Love Me Tender 1:49
B18 Can´t Stop Myself 2:04
B19 Lust For Lullaby 1:54

all composition, recorded & produced by JUKE/19, between 1978 and 1980
artwork by EINSTEIN

体の内側から湧いてくる、正体のわからない衝動を音像化した80’s地下音楽の秘宝。

2022年11月から東京国立近代美術館で開催されている『大竹伸朗展』が大きな話題になっている。80年代初めに美術界に登場し、ガラクタアートで名を覇し、愛媛県宇和島を拠点にして絵画・絵本・彫刻・オブジェ・建築・映像・音楽・インスタレーションを含む膨大な作品を発表し続け、国内外で現代アートの異端児として評価される大竹の半世紀近くの創作活動の回顧展である。実を言うと筆者はまだ観に行っていないが、16年前の2006年に東京都現代美術館の企画展示室の全フロアを使用するという日本人作家では前代未聞の規模で開催された大回顧展『大竹伸朗 全景 1955-2006』は今でも強烈に印象に残っている。広大な展示場を埋めるゴミとガラクタのオブジェの膨大さに大竹氏の異常なまでのモノへの執着心を実感し、それ以上に彼の創造の中核に音楽への強いこだわりがあることが確認できてうれしい限りであった。そんな大竹伸朗の活動の原点といっても過言ではない80年代地下音楽の異色作がアナログ盤でリイシューされた。

JUKE/19は、大竹が武蔵野美術大学在籍中の1978年に結成し、82年まで活動を続けた音楽ユニットである。山下洋輔トリオの『モントルー・アフターグロウ』(1976)を聴いて「こりゃヤバい」と思った大竹が、そのヤバさを共有する友人でブルース・ギタリストの野本卓司と一緒に音を出す決意をしたのが始まりだった。パンクロック好きな隣人の遠山俊明、野本の知人の太田陽子が加わり、毎週スタジオで即興で音を出し、安物のテープレコーダーと8チャンネルのミキサーで録音し続けた。80年に美大を卒業後渡英した大竹が現地の前衛音楽コンサートを経験したことで「レコードを作ろう」と決心し、帰国後にメンバーとお金を出し合って自主制作したLPが45曲入りの『JUKE/19』(1980.12)だった。

筆者の記憶によれば、当時朝日新聞の夕刊に月1回見開きの音楽ページがあり、かなりマニアックな音楽やアーティストが紹介されていた。覚えているのはマーティン・マルという日本ではほとんど無名のアメリカのコメディアン兼シンガーについての詳細な紹介記事や、中国初のパンク・バンドとして売り出されたドラゴンズというバンド(実際はフランスのジャーナリストによるでっち上げ)の分析記事があった。編集部の上層部に相当の音楽マニアがいたのだろう。JUKE/19を知ったのもそのページだった。マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンを引き合いに絶賛していた。そのほか音楽雑誌では、海外のポストパンクやオルタナティヴ・ミュージック、日本でも盛り上がりつつあった自主制作盤(インディーズという名称はまだなかった)の流れで紹介された。その反響で青色ジャケットの初回プレス200枚がすぐ売り切れて、赤色ジャケットの追加プレス300枚もすぐなくなったという。

表にカバ、裏にチューリップのシンプルでポップなイラストが印刷され、中に2枚のコピー用紙のインサート。PLAY AS LOUD AS YOU CANと書いてあるだけでメンバー名などの記載はない。長くて2分、最短で6秒の45篇の細切れの音響が羅列される。ギターの一音だったり集団即興だったりミニマルの断片だったり、その音世界はそれまで聴いてきた何モノとも違っていた。音楽というより”音”そのもの。擦ったり叩いたりする対象は楽器だが、意図された演奏というより、音であれば何でもいい、というオブジェ志向のストイックさが貫かれている。大竹の書いたライナーノーツによれば、当時彼らが影響を受けた音楽は、ブライアン・イーノ・プロデュースのニューヨーク前衛ロック・コンピレーション『NO NEW YORK』をはじめとするポストパンクやニュー・ウェイヴ、電子音楽系クラウトロック、エリック・サティやミニマルミュージックなど。それらと並んでFMPレーベルのハンス・ライヒェルのシングル、とあるのが興味深い。おそらく1975年の『Old Tune / B Heimkehr Der Holzböcke』だろう。

同時期の短い曲のアルバムとしては、アメリカの覆面バンド、ザ・レジデンツがリリースした40曲入『コマーシャル・アルバム(Commercial Album)』(1980)や、ザ・レジデンツも参加した英国の音楽家モーガン・フィッシャーが編集した前衛ロック52曲入コンピレーション『ミニチュアーズ(Miniatures)』(1980)がある。日米英の地下音楽界で同時期に似たコンセプトの作品が出揃ったのは偶然なのか必然なのかはわからない。しかし『JUKE/19』のジャンクなコラージュ性は、1分間のラジオ・コマーシャルを模した完結した曲を並べた前者とも、音のカタログをコンセプト化した後者とも、根本的に異なる次元にある。それは大竹のガラクタ・アートに繋がる貪欲な収集癖とそれを記録することへの執着心であろう。「メンバーの中にただ漠然とあった・・得体の知れぬ“確信”のようなもの」(ライナーノーツより)をレコード(記録)として残すことへの熱意から生まれたのがJUKE/19の作品群だと考えれば、リリースから40年以上経って、リマスター&特殊パッケージのアナログ盤として再び世に出ることは必然なのではなかろうか。

その後4曲入EP『19』(1981.2)、2nd LP『Ninety Seven Circle』(1981.3)、3rd LP『PIECES』(1981.12)、4th LP『SOUND TRACK』(1982.9)と短期間に計5作の作品を発表してバンドは自然消滅(1987年にマルセル・デュシャンをテーマに再結集してカセットテープ『EZMD』を作成した)。ポストパンクやアヴァンロックに近いサウンドから、ノイズ~ミニマル~アンビエントな作風までサウンド面の印象には違いがあるが、いずれも様々な具体音が発生源から切り離され、単なる音という物体(オブジェ)の重層となり、意味を剥ぎ取られたトーンクラスターの中に脈打つ生身の人間の生命感にあふれている。そして簡潔なアートワークや封入インサートやポスターがアート作品(オブジェ)として成り立っている。

2022年11月に、大竹がボアダムスのヤマンタカアイと96年に結成したPUZZLE PUNKS名義の16年ぶりの新作10インチLP『PUZZPUNN』(ゥズーン)がカルチャー雑誌「Moder—n」の付録としてリリースされた。限定版のため現物は入手できなかったが、2曲抜粋のソノシートを聴く限りでは、サウンド的にかなりデジタル/ヴァーチャル化しているものの、手法的にはJUKE/19時代のジャンクなコラージュ精神に変化はない。大竹の芸術活動の原動力は「体の内側から湧いてくる、正体のわからない衝動」だという。膨大なガラクタとゴミの集合体から得体のしれない衝動と確信を受け取るために、2023年の初詣は東京国立近代美術館へ足を運ぶことにしよう。(2022年12月29日記)

 

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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