#2236 『Copenhagen Clarinet Choir / Organism』
『コペンハーゲン・クラリネット合唱団 / 生命体』

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text by 剛田武 Takeshi Goda

LP/DL : År Og Dag – AD10

Copenhagen Clarinet Choir:
Anders Banke (clarinet)
Francesco Bigoni (clarinet)
Maria Dybbroe (clarinet)
Jonas Engel (clarinet)
Carolyn Goodwin (clarinet)
Henriette Groth (clarinet)

1. Organism
2. Flocking Part 1
3. Flocking Part 2
4. Hive Mind
5. Three Movements- Mvt.1
6. Three Movements- Mvt.2
7. Three Movements- Mvt.3
8. Water Piece
9. An Old Song, Resung (The Salley Gardens)

Tracks 1,2,3,4 and 8 composed by Carolyn Goodwin
Tracks 5,6,7 composed by Banke, Bigoni, Dybbroe, Goodwin and Groth
Track 9 features an Irish traditional melody that has been set to text by William Butler Yeats, and is also known by the title Down by the Salley Gardens
Arranged and performed by Copenhagen Clarinet Choir.

Recorded by Sebastian Vinther Olsen at the Royal Danish Academy of Music, Copenhagen
Produced by: Carolyn Goodwin
Mixed by Sebastian Vinther Olsen
Mastered by John Fomsgaard

Cover Photograph: Malthe Ivarsson
Graphic Layout: Michael Mørkholt

With kind support from Koda Kultur and the Danish Arts Foundation

Bandcamp

コンプレックスを吹きとばすクラリネットのオルガ(ニ)ズム。

高校時代にブラスバンド部でサックスを吹いていた。木管楽器とされるサックスは、実は木製ではなく金属の真鍮製。同じく木管仲間のフルートもハンドメイドの高級品以外は白銅や銀または金といった金属製である。ブラバンの中で本当の木管と呼べるのはクラリネットやオーボエとファゴットだけ。オーボエとファゴットは一人しかいないので、数の力で測れば真の「木管の帝王」はクラリネットということになろう。とはいえブラバン木管組の花形はサックスだ、ジャズ・ナンバーでの派手なソロは金管組のエース、トランペットにも負けないぜ、と意地を張っていた。ある時同じリード楽器だから簡単だろうと高をくくってクラリネットを吹いてみたところ、想像以上に難しい。サックスと同じように吹くとピーッキーッというリードミスの音しか出ない。そっと息を吹き込んでもうんともすんとも言わない。四苦八苦してかろうじてブイーッと情けない音は出たが、なんだか敗北感に打ちのめされて、それ以来クラリネット・コンプレックスに陥ってしまった。高校卒業後、ロックや即興音楽へ興味が進むとクラと会うことはあまりなくなった。ジャズ系のサックス奏者が曲によってクラを吹くことも多いが「あくまで持ち替えの仮の楽器、俺の愛器はサックスだぜ」という見えないオーラを感じて優越感に浸っていた。

それから40年近く経ってコンプレックスのことなどすっかり忘れていた1年半前のある日、古道具屋でボロボロのクラリネットを見つけて衝動買いした。安物の合成樹脂製で真の木管ではないのが残念だが、数年前にサックスも手放してしまったので、ブラバン時代を懐かしみながらマウスピースを咥えて息を吹き込んでみた。やはり音が出ない。今や敗北感や悔しさを感じる理由はないし、楽器を一から練習しなおす気合もなく、リードミス交じりにでたらめに吹き散らかすばかりだったが、毎日吹いていると楽器が馴染んで音が出るようになってきた。かつて苦手意識に苛まれたクラリネットに愛着が湧いてきて、クラの音源を漁るうちに出会ったのが『Organism』というタイトルのアルバムである(最初に見たとき『Orgasm』と空目して軽く興奮したことは秘密)。

コペンハーゲン・クラリネット・クワイアーはアイルランド出身で、現在デンマーク・コペンハーゲンで演奏家・作曲家として活動するキャロライン・グッドウィンを中心に2020年に結成されたアンサンブルである。6人のメンバーはそれぞれ北欧の音楽シーンでクラシック、ジャズ、フリー・インプロヴィゼーション、実験音楽など多岐にわたる分野で活動する気鋭のミュージシャンばかり。もちろん演奏楽器もクラリネットだけではなく、各種サックスも吹きこなすマルチ・リード奏者であり、鍵盤や弦楽器、電子楽器や自作楽器で独自の音楽を創造している者もいる。多種多様な創造性にあふれるミュージシャン6人が集まり、クラリネット、しかも同じB♭管(もっとも標準的なクラリネット)でアンサンブルを作り出す。クワイアー(合唱団)を名乗ることわかるように、個々のメンバーのスタンドプレイではなく、6人の楽器が均質なサウンドで重なり合い、一つの生命体となって脈打つ音を生み出すことを意図している。その意味では、6つのクラリネットが一台のパイプオルガンに化身したとイメージすればよい。しかしながら6つのパイプは一本一本が別個の生命体であり、ハーモニーだけでなく不協和音やノイズで騒がせることもあれば、それぞれ異なる和声で歌い出す混沌もしばしば発生する。それでいて逸脱、攪乱、騒乱、喧噪、裏切、謀反は発生しない。品行方正がクラリネットの特徴なのかどうかはわからないが、作曲と即興の交差点/自然と音楽の接点に位置する自制のとれた作品として成り立っている。

「Flocking(群生)」「Hive Mind(ハチの巣)」「Water Piece(水の欠片)」といった生物や自然の音にヒントを得た曲、3つのパートに分かれた組曲「Three Movements(三つの楽章)」、そしてイエーツの詩によるアイルランド民謡「Down by the Salley Gardens(思い出のサリー・ガーデン)」まで、優しくて気品のある「木管の帝王」クラリネットの魅力にあふれた作品である。(2023年2月2日記)

 

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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