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CD/DVD DisksNo. 298

#2229『Stephan Micus / Thunder』
『ステファン・ミクス/雷神』

text by Maki Nakano 仲野麻紀

ECM 2757  Release date: 20.01.2023

Stephan Micus: Frame Drum, Dung Chen, Burmese Temple Bells, Himalayan Horse Bells, Ki un Ki, Bass Zither, Bowed Sinding, Kyeezee, Shakuhachi, Sarangi, Nyckelharpa, Kaukas, Sapeh, Voice, Nohkan

1 A Song for Thor
2 A Song for Raijin
3 A Song for Armazi
4 A Song for Shango
5 A Song for Vajrapani
6 A Song for Leigong
7 A Song for Zeus
8 A Song for Ihskur
9 A Song for Perun
All music by Stephan Micus

Recorded 2020 – 2022 at MCM Studios
Cover Art: Eduard Micus
Design – Sascha Kleis
Liner Notes [English] – S.M.*
Photography By Michael Martin & René Dalpra


ステファン・ミクス -70歳への祝い、そして世界の雷神へ捧げられた祈り。

着氷のまま時がたち、冷たさの中でそれでも生き存えてきた人類の心と捉えてみよう。
ミクスの身体温が、生きた音を生み、吐き出され、音の粒が放たれ、やがて解凍される音の記憶、震え、音の多言語。

地響きだと思った。
敢えてECMサイトでの作品概要は読まず、生のままミクスの最新作に聴き入った。
始源の世界への誘い。
自己との対峙ではない。放ち、放す、ひたすらに手放していく音。

Stephan Micus、ECMでの25枚目のソロアルバム、タイトルは「Thunder」9曲からなる他言語で表される「雷神」。

彼がどのようなミュージシャンであるかは説明するまでもない。
しかし敢えて今、彼のミクロな世界と、宇宙というマクロな空間の呼応は、彼自身が一人で、スペインのある島での生活と、外へ立ち向く衝動の中で、紡がれてきた音の創造をする人間である、と記してみよう。

音による治癒というものを長らく考えてきた。実際にわたし自身はその効果を他者に示す演奏ができているとは思わない。 しかし、自己行為として、はっきりといえる。演奏者は音を奏でることで治癒をしている。放たれる音は、当事者の命の振動から発せられている。
友人のギタリストは群発頭痛という目下難病を患っている。脳の中で起こっていることなど人間わたしたちには到底理解できない。脳科学の進歩の中にいながら、同時に群発頭痛のあの悲惨な痛みが、酸素を15分間吸引することで和らぐというのだからなおさらだ。そんな彼が目下奏でている楽器は、Hand Activated Percussion Instrumentsの略「Hapi」という鉄製のスリットドラム。そして、ドン・チェリーに倣ってか、ポケットトランペット。遂にはシェルドレイクの仮説による植物の意識の伝達法の実践として、Music of the plantsという機器を入手し、葉から電磁電波、波動をキャッチし独自の音列回路のバリエーションで音の採取を始めた。
脳というミクロな空間そして細胞が構成し、生きるための無限の生成ループへの意識。世間的な「食う、食える、食っていかなければ」という括りで音楽を奏でる人種とは次元を異にし、彼は「命」と向かい合った時、「細胞は何をしたいのか、何を聞きたいのか」極にあることを実践しているのだ。
音楽家のタイプの話しではない。生きる実践は音楽そのものでもある。

Stephan Micus 、25枚のソロアルバム。
彼の最新作を聴き終わり、音の余韻の中で立ち現れた言葉は、TAOだった。
「タオ -道-」ライフワークとしての指標。
なき道を彼は歩み、道はすぐに消え、しかしまた道を拓く。
作り続けること、奏で続けること、この世界に本当は聞こえているはずなのに人間の耳には聞こえない気配に耳を傾けること。
Stephan Micus、彼の身体性と精神性そのすべてが依り代である。
孤高とは、彼が纏うことができる言葉だ。

 

仲野麻紀

サックス奏者。文筆家。2002年渡仏。パリ市立音楽院ジャズ科修了。フランス在住。演奏活動の傍ら2009年から音楽レーベル、コンサートの企画・招聘を手がけるopenmusic を主宰。さらに、アソシエーションArt et Cultures Symbiose(芸術・文化の共生)をフランスで設立、日本文化の紹介に従事。自ら構成、DJを務めるインターネット・ラジオ openradioは200回を超える。ふらんす俳句会友。著書に『旅する音楽』(2016年 せりか書房。第4回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞)。CDに『Open Radio』(Nadja21)。他多数。最新作は『渋谷毅&仲野麻紀/アマドコロ摘んだ春』(Nadja21)。

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