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CD/DVD DisksNo. 303

#2251 『isles (池本茂貴ラージ・アンサンブル) / Oath』


Photo & Text by Tak. Tokiwa 常盤 武彦

JAZZmmBone : JmmB-0001 発売日 : 2023年7月3日(月) 価格 : 3,000円(税抜)

 Oath

  1. Comet
  2. Hidamari
  3. Rhythm Blocks
  4. Oath
  5. Wind at My Back

Composed and arranged by 池本茂貴

isles アイルス

(Ikemoto Shigetaka Large Ensemble)
池本茂貴 (conductor & tb)
David Negrete  (as,fl)
馬場智章 (ts,ss)
陸悠 (ts,fl,ss,cl)
宮木謙介 (bs,fl,b-cl)
広瀬未来 (tp,flh)
佐瀬悠輔 (tp,flh)
和田充弘 (tb)
海堀弘太 (p)
小川晋平 (b)
苗代尚寛 (el-g)
小田桐和寛 (ds)
岡本健太 (perc)

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ニューヨークのジャズ・シーンで、先鋭的なコンテンポラリー・ラージ・ジャズ・アンサンブルが次々と登場し始めたのは2010年代初めごろだったかと記憶している。ジム・マクニーリー(p,arr)が主宰するジャズ・コンポーザーズ・ワークショップの卒業生を中心に、若手の優秀なコンポーザー、アレンジャー、エリカ・セグイン(arr)、挾間美帆(arr)、レミー・ル・ブーフ(as)らが登場した。そこから数年のタイム・ラグで、日本のジャズ・シーンでも、小西遼(as)、中林薫平(b)、広瀬未来(tp)、秩父英里(p)、宮木謙介(bs)、陸悠(as)らが、コロナ・パンデミック後のシーンで、精力的な活動を展開している。その温床として、大西順子(p)が2021年に始動させたオーケストラや、挾間美帆の日本の若手ミュージシャンを集めたラージ・アンサンブルの影響が大きいといえよう。その群雄割拠のシーンの中に、1996年生まれの新鋭、池本茂貴(tb)が登場した。

兵庫県出身の池本は、甲南中学・高校時代ジュニア・ジャズ演奏で著名であり、黒田卓也(tp)、吉本章紘(sax)、西口明宏(ts,ss)、中林薫平(b)らを輩出している甲南ブラスアンサンブルで、トロンボーンを手にし、カウント・ベイシー(p)やバディ・リッチ(ds)のレパートリーをプレイして、ジャズへの道のりを踏み出した。大学進学を機に上京、慶應大に入学。池本は、名門慶應ライト・ミュージック・ソサエティのコンサート・マスターを2年生から3年間務め、ヤマノ・ビッグ・バンド・ジャズ・コンテストの3連覇に導き、学生ビッグ・バンド界に君臨した。コンテンポラリー・ラージ・ジャズ・アンサンブルをレパートリーとする慶應ライト時代に池本は、挾間美帆(conductor,arr)、クリストファー・ズアー(conductor,arr)、ペドロ・ジラウド(b)、加藤真亜沙(p)、レミー・ルブーフ(as)にオリジナルの作編曲を依頼し、その美しくも難解なスコアを解析し、自らの血肉と成した。池本がコンサート・マスターに就任した直後の2016年の3月に、慶應ライトはライアン・ケバリー(tb)の招聘でニューヨークに遠征した。ケバリーが教鞭をとるハンター・カレッジでの演奏と学生交流、マリア・シュナイダー(conductor,arr)、ダニー・マッキャスリン(ts,ss)らのクリニックを受け、ニューヨークの若手の登竜門的ヴェニューである、ジャズ・ギャラリー、シェイプシフター・ラボでギグを行う。筆者もコーディネーションの一部を手伝い、まだ初々しい19歳の池本に初めて出逢った。

大学卒業後、池本はその堅実なプレイと、甲南高校のOB人脈もあり、大西順子オーケストラらジャズ・サーキットから、MISIA(vo)、King Gnuのホーン・セクションなどポップス・フィールドでも活躍を始める。しかしいつかは、挾間美帆やレミー・ルブーフのように、自らのオリジナルとアレンジを世に問いたいと思っていた。2年ほど前に、宮木謙介と陸悠が主宰するビッグバンドのリハーサルに、池本はトローンボーン・プレイヤーとして参加した。宮木らにオリジナルを創るように強く勧められ、3ヶ月かかって完成したのが “Wind at My Back “である。 池本が、音楽家としての人生をセレクトしたことを応援してくれて、2年前に逝去した祖父も、オリジナルを作曲することを強く願っていたという。池本は、演奏活動の中で出逢い魅了されたプレイヤーたちに声をかけ、13人編成のアンサンブルを結成した。そして3ヶ月に1回のリハーサルに次々にオリジナル曲、アレンジを制作し、1年をかけて充実したラインナップを揃え、ギグを行った後に制作したのが本作『Oath」である。池本は、デビュー作の5曲のミニ・アルバムとしているが、40分を超える充実の内容で、フル・アルバムとしても遜色のない作品である。トランペット x  2, サックス x 4、トロンボーンx 2、リズム x 5という編成は、ビッグバンドの音圧感と、コンボのインタープレイの面白さ、また17人編成のビッグバンドでは、セクションごとでプレイするソリを、楽器間のアンサンブルでブレンドするサウンドに代えた構成である。全員が、ソロ・プレイヤーとしても名をなした存在であり、かつ優れたセクション・プレイヤーをも兼ねている。サックス・プレイヤーは、看板ソリストに、アニメ映画『Blue Giants』の吹き替え演奏で今や広く名を知られるようになった馬場智章(ts,ss)を起用した。池本は、黒田卓也のグループで馬場と知り合い親交を重ねてきたという。マリア・シュナイダー・オーケストラにおけるダニー・マッキャスリン(ts)のように、看板プレイヤーはテナー・サックスというイメージを、池本は馬場に重ねた。デヴィット・ネグレテ(as,fl)とは、大西順子オーケストラで出逢った。池本は、ネグレテのサウンドに魅了されてファンになり、ラージ・アンサンブル結成時にすぐに声をかけた。宮木謙介(bs,fl,b-cl)と陸悠(ts,ss,fl,cl)は、池本をジャズの作編曲へ誘った恩人である。陸は池本の甲南高校の2年先輩で、学生時代から池本は、あらゆる楽器に対する陸のテクニックに惚れ込んでいた。ネグレテ、陸、宮木は、サックスだけでなくフルート、クラリネットもプレイして、池本のサウンドに多彩なテクスチャーを加えている。トランペット・セクションには、ニューヨークのビッグバンド・シーンで長年活躍し、甲南高校の先輩にあたる広瀬未来(tp.flh)を、馬場と並ぶメイン・ソリストとしての参加を仰いだ。「広瀬さんは、ソロも素晴らしく、ハイ・ノートも完璧、セクション・プレイもOKの万能プレイヤーで、頼りになる先輩です」と池本は語る。もう一人のトランペットも、卓越したソリストである佐瀬悠輔(tp,flh)を起用し、広瀬とは異なるアプローチのソロで、池本のサウンドにヴァリエーションをもたらしている。トロンボーン・セクションは、グループ最年長の和田充弘(tb)が務める。大西順子オーケストラの同僚である和田の堅実なプレイと人柄に、「和田さんがいてくださるから、安心してソロや、指揮にも専念できる」と、池本は全幅の信頼を寄せている。海堀弘太(p)は、池本がファンでそのプレイを聴きにライヴに通っていたそうだ。宮木謙介のビッグバンドで共演したときのプレイに感銘を受け、自らのラージ・アンサンブルに誘った。苗代尚寛(el-g)と小川晋平(b)は、慶應ライトの先輩でありニューヨーク遠征の同僚だった。苗代はその後、ニューヨークへ、小川はカリフォルニアに留学し、大きな成長を遂げて帰国した。小川のアンサンブルの土台を支える骨太なベース・ラインと、ラージ・アンサンブルにおいてギターのサウンドを効果的に響かせる苗代は、今も池本のプレイを刺激している。小田桐和寛(ds)と岡本健太(perc)の鉄壁のコンビネーションも、このアンサンブルの大きな魅力だ。ラージ・アンサンブルの経験はあまり多くない小田桐だが、池本は小編成で聴かれるようなホーン・プレイヤーとドラムスのインタープレイを期待して小田桐を起用し、小田桐は見事に池本の期待に応えた。池本は、学生時代からビッグバンドにパーカッションを入れて、サウンドに色彩感を加えることを好んだが、毎回、パーカッション・プレイヤーへの指示に悩んでいた。岡本には、ドラム譜を渡すだけで、池本が想像すらしなかった素晴らしいプレイをして、アンサンブルのサウンドを変貌させてくれると、池本は感謝している。5曲のオリジナル曲について、池本自身に語ってもらおう。

  1. Comet
    ソリスト 馬場智章(ts) 広瀬未来(tp)
    初めてのライヴの時に、大編成の迫力と、ソリストのインタープレイの魅力を意識して書いた曲です。メイン・ソリストと、馬場さんと広瀬さんの熱いプレイをフィーチャーしています。。王道のスウィング感と、コンテンポラリー・ジャズのコンビネーションができたかと思います。曲のスピード感が飛び交う彗星をイメージし、Cometとタイトルしました。アルバム、ライヴのオープナーにぴったりの曲です。
  2. Hidamari
    ソリスト 馬場智章(ts)
    日本語のタイトルをつけたかったので、まずタイトルから作りました。トロンボーン2本でキャッチーなメロディを意識して、書いています。この曲でも、馬場さんをフィーチャーしました。
  3. Rhythm Blocks
    ソリスト 海堀弘太(p) 苗代尚寛(el-g) 小田桐和寛(ds) 岡本健太(perc)
    リズム・セクション・フィーチャーで、変拍子のように聴こえて、実は変拍子ではないという曲です。タイトル通り、リズムのブロックを組み合わせています。ピアノのイントロは、ある朝目が覚めたら、聴こえてきたリズム・パターンで、それに基づいて曲を書いています。ピアノ・ソロからギター・ソロへと至る過程で、ホーンが6つの異なるフレーズをプレイしてレイヤーを重ねているところが、聴きどころです。この5人の素晴らしいリズム・セクションを堪能してください。
  4. Oath
    ソリスト 小川晋平(b) 池本茂貴(tb) 海堀弘太(p)
    2年前に亡くなり、私を励ましてくれていた祖父に捧げた曲です。Oats(宣誓)とは、亡くなる前の祖父との約束、誓いのこと。「ひだまり」と並んで、ライヴで演奏するとお客様に評判の良いキャッチーなメロディの曲です。自分の頭に浮かんだメロディを、素直にトロンボーンで吹いたのが、よかったのかと思います。メロディはシンプルですが、リズムやハーモニーの動きはコンテンポラリー・ラージ・アンンサンブルならではの複雑な動きをしています。
  5. Wind at My Back
    ソリスト 佐瀬悠輔(tp) David Negrete(as)
    前述の通り、初めて書いたオリジナル・ラージ・アンサンブル曲です。イントロのトロンボーンは、私は指揮をしているので、和田さんにプレイしてもらっています。佐瀬さんのトランペット・ソロが盛り上がってから、デヴィッドのアルト・ソロに至る過程に悩みに悩み抜いて、やっとなんとかいい形に完成したのではと思っています。

コロナ・パンデミックの出口が見えてきた2022年の夏、池本は甲南高校の先輩の黒田卓也を頼って、ニューヨークに2ヶ月滞在した。ニューヨークの刺激的な環境で、ライヴを聴きに行ったり、ジャム・セッションに参加する中、ニューヨークのプレイヤーたちが、それぞれのアイデンティティと個性を全面に押し出したプレイをして、また観客がストレートにそれを評価して応える姿に感銘を受けた。日本で演奏している時には、自らのアイデンティティを強く意識することはあまりなかったそうだが、帰国後は、「自らのステイトメントを強く意識したプレイをするようになった」と、池本は語る。学生時代に、最先端のラージ・ジャズ・アンサンブルを解析し、ビッグバンドをコンマスとしてリードした経験があるとはいえ、作編曲を初めて2年のデビュー作で、この完成度は特筆すべきだ。池本は、アルバム収録曲以外にも多くの作編曲を手がけ、今や2セットを全て違う曲で構成できるほどのレパートリーが揃った。ポップスのサポートの経験から、歌の持つ説得力にも魅力を覚え、11月には、シンガーのEmaをフィーチャーしたライヴも企画し、ヴォーカル・チューンの作曲とアレンジにも挑戦中。また池本は、挾間美帆が、2014年からニューヨークのジャズ・ギャラリーで主宰している、一つのビッグバンドを数人のコンポーザーでシェアして、作品を競う”Jazz Composer’s Showcase”に刺激を受け、東京でも同様の企画を立ち上げる。12月に、秩父英里、中林薫平と一つのビッグバンドをシェアするライヴを開催する予定である。東京発のコンテンポラリー・ラージ・ジャズ・アンサンブル。池本茂貴の、さらなる躍進が大いに期待される。

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。2017年4月、29年のニューヨーク生活を終えて帰国。翌年2010年以降の目撃してきたニューヨーク・ジャズ・シーンの変遷をまとめた『New York Jazz Update』(小学館、2018)を上梓。現在横浜在住。デトロイト・ジャズ・フェスティヴァルと日本のジャズ・フェスティヴァルの交流プロジェクトに携わり、オフィシャル・フォトグラファーとして毎年8月下旬から9月初旬にかけて渡米し、最新のアメリカのジャズ・シーンを引き続き追っている。Official Website : https://tokiwaphoto.com/

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