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CD/DVD DisksNo. 304

#2258 『MARGINAL CONSORT 06 06 16 (St. Elisabeth Kirche, Berlin)』

text by Kazue Yokoi  横井一江

901 Editions, 9ED026
Boxset (3CD + 28page Booklet)
Release date: June 16, 2023

MARGINAL CONSORT マージナル・コンソート
Kazuo Imai 今井和雄、Tomonao Koshikawa 越川友尚、Kei Shii 椎啓、Masami Tada 多田正美

duration: 3h 2s

Recorded at St. Elisabeth Kirche, Berlin, June 06, 2016
Recorded by Adam Asnan
Project coordination by Keiko Higuchi
Artwork and layout by Mote Studio
Photography (booklet) by Andre Wunstorf and Fabio Perletta
Essay by Lawrence English


Clockwise from top-left:
Kazuo Imai, Masami Tada, Tomonao Koshikawa, Kei Shii

マージナル・コンソート (Marginal Consort) が2016年にベルリン、セント・エリザベス教会で行った3時間に亘る公演がCD化された。

即興プロジェクト、マージナル・コンソートは1997年に今井和雄が小杉武久教場の同期生に声をかけたことから始まり、コロナ禍で一時中断はあったもののほぼ一年に一度のペースで公演を続けている他、海外公演も数多く行ってきた。現在のメンバーは今井和雄、越川友尚、椎啓、多田正美。楽器やエレクトロニクス、自作のオブジェや日用雑貨や材木などを用い、サウンド・インプロヴィゼーションを繰り広げるが、各々が活動している分野が異なるように、用いる音具もサウンドに対するアプローチもそれぞれだ。会場内の離れた場所に位置した4人のパフォーマーが個々に発するサウンドが融合することによって、ひとつの音空間が創られる。だが、そこで得られるサウンド体験は時空間を共有しているにも関わらずパフォーマーを含めたその場に居る者全て異なる。位置する場所によって聞こえてくる音が違うことはもちろんだが、観客がどういう聴き方をするのかによっても変わってくる。例えば特定の音/パフォーマーに意識を向けるのか、会場に漂うサウンドをどこかにフォーカスすることもなくぼんやりと聞くのか、あるいは動き回ることも出入りすることも自由な会場で歩き回りながら変化する環境の中で聴くのか、といった具合だ。

それゆえ、私はマージナル・コンソートは体験してなんぼのものと思っていたので、公演には足を運ぶが、録音にはさほど関心を払ってこなかった。移動しながら、耳のフォーカスを無意識のうちに変化させつつ、潮の満ち引きのように押し寄せては引くサウンドに包まれてながら、音の中に沈みこむように、また時々特定の音に引き寄せられて、サウンドを体感できるのはライヴ空間だけだからだ。しかし、こうして録音を聞くと、これはこれで興味深く、不思議と自然体でそれに浸っている私がいた。同じ時間を共有するパフォーマー同士の関係の持ち方は、気構えたフリージャズとも所謂インプロとも違う。4人の個性は明確でそれぞれが異なる特徴的な音を出すモノを用い、個々にサウンドの探究をしているにも関わらず、それらが重層的に交わることによって流動的な音空間が出現し、それが変化していく。録音では、その様がライヴ以上に明確にわかるから不思議だ。エレクトロニクスの効果もより感じる。おそらく数本のマイクで収録し、マスタリングという手順を経ているので、残響を含むサウンドのバランスを含めて、CDとして作品化されているからだろう。ただ、誰が何を用いてどのような音を出しているのかは、例えば冒頭のパーンという音は今井の紙鉄砲だろう、これは多田が竹を使って出している音だろうか、といった具合にライヴを観ているだけにある程度は想像がつくものの、会場の残響も含む混在する音の中に溶け込んでいるためによくわからないところもあったが、それはそれでいいのだろう。ライヴではパフォーマーの動きという視覚的な要素につられて、自身の関心が音以外にも向かっていたこともあらためて自覚する。音空間の内部ではなく、外部からひとつのサウンド・パフォーマンスとして聴くことは 全く異なった体験だった。録音では誰もが(環境により多少の違いがあるにせよ)同質のサウンドを耳にすることが出来る。ゆえに、とりわけこのようなサウンド・インプロヴィゼーションやサウンド・アートの録音を聴くこととライヴを体験することの違いを改めて考えさせられたことも確かだ。それはともかく、本作は音と音楽の狭間で集団即興を行う特異なプロジェクト、マージナル・コンソートのライヴを捉えた作品性の高いドキュメントであることは間違いない。

Bandcamp: https://901editions.bandcamp.com/album/06-06-16-st-elisabeth-kirche-berlin

901 Editions: https://901editions.com/

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Reflection of Music Vol. 82 マージナル・コンソート
https://jazztokyo.org/column/reflection-of-music/post-72996/

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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