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CD/DVD DisksNo. 304

#2256『謝明諺&スガダイロー a new little one/Our Waning Love』

Text by Akira Saito 齊藤聡

Feeling Good Music Co. 好有感覺音樂事業有限公司

Minyen Hsieh 謝明諺 (soprano sax (2,4,6), tenor sax (1,3,5,7))
Suga Dairo スガダイロー (piano)
Tokutaro Hosoi 細井徳太郎 (guitar)
Shu Akimoto 秋元修 (drums)

1. Our Waning Love
2. Tide
3. Switch It
4. Chamakana
5. Ann
6. A Little Rag…For You
7. This Thing

All Composed by Minyen Hsieh 謝明諺, except #6 by Suga Dairo スガダイロー

Producer : Minyen Hsieh 謝明諺
Recording, Mixing & Mastering : Howard Tay 鄭皓文
Photograph : Huang Jun Tuan 黃俊團
Art Design : Joe Fang 方序中, Pei- Cen Guo 郭姵岑, JOEFANG Studio 究方社
Release Date : July 5th, 2023
℗&© 2023 Hsieh Min-Yen. All rights reserved.

当たり前のことだが「よくわからない人」はときどき出てくるものであって、筆者にとってフェローン・アクラフはそのようなドラマーだった。ヘンリー・スレッギル(リード)の諸作に活力を打ち込み、また山下洋輔NYトリオの演奏でさまざまなリズムを惜しげもなく繰り出す姿は驚きでもあった。スガダイローのバンド「a little new one」のアルバム『2022』(2022年)におけるNYトリオの変拍子レパートリー<Kurdish Dance>を聴くと、アクラフが同曲を叩いたときとはまるで違うように「よくわからない人」として秋元修をみてしまう。リズムが複数本走るというよりも瞬間ごとの霊感によってリズムが叩き割られ、即収集されて提示され続け、なんだこれはという中毒性をもたらす。

同曲はクルド音楽由来ではなく山下の想像によるものだが(*1)、そのオリジナル変拍子をルーツとして、さらに個人の変拍子が展開されるフェーズなのだった。もちろんスガダイローも山下から大きな影響を受けてきたピアニストだが、もはや両者のプレイを無理やり比較しても結論じみたものは出てこない。オリジナルなのだから仕方がないことだ。

本盤において、「a little new one」の独創性と謝明諺(シェ・ミンイェン)の懐の深さは奇妙にマッチしている。安易な知的遊戯として上と同様にジャズ曲を参照項としてみるなら、ソニー・ロリンズの<Airegin>をもとにリズムのゲームを試みたという<Switch It>では意図的にチープな電子音がともかくも走り、なにかツボを見出したかのように腹を打撃する秋元のリズム、世界を外に発散し続けるスガダイローのピアノがあって、そのうえで謝のテナーが全体を包み込む。この四者の手練れぶりはなかなかに凄い。スタンダード曲<What Is This Thing Called Love?>をもとにした集団即興<This Thing>では皆でくんずほぐれつ。

冒頭のタイトル曲<Our Waning Love>から驚くほどスムーズに雰囲気のある世界に誘い込まれてしまうのだが、これには謝のもつ音色によるところも大きい。謝はインタビューにおいてメロウなサックス奏者のほうを好むと答えており(*2)、アントニオ・カルロス・ジョビンのことを思い描きながらソプラノを吹く<Tide>など、その魅力を存分に発揮したものだ。異物のように入ってくる細井のギターや、フレーズを締める際に「メウコラソン」(ポルトガル語で私の心を意味する)と語るようにしてボサノヴァに敬意を表するスガダイローのピアノにも惹かれる。

もとよりこのメンバーが揃ったのは、かれらのアジア広域の活動のゆえだ。謝が2018年に台湾でダレン・ムーア(ドラムス)と話していたところ、ムーアはスガダイローらとの東南アジアツアーを企画していると言った。謝は協力し、それがきっかけとなり東京でスガダイローとも共演することになったのだ。オーストラリア出身のムーアは東京にも東南アジアにも住む越境の人であり、謝もまたどちらでも演奏を行っている(『上善若水 As Good As Water』のレコ発ライヴはクアラルンプールでもなされており、まさに汎アジア的な傑作だった)。

大友良英(ギター、ターンテーブル)は、自身が案内役を務めるラジオ番組「ジャズ・トゥナイト」(2023年7月15日放送)において本盤の2曲を流し、上記の謝へのインタビューに言及した。かれは、本木良憲(自作楽器)、ポルトガルのカルロス・ジンガロ(ヴァイオリン)、台湾の故・Dino(エレクトロニクス)、豊住芳三郎(ドラムス)といった面々と共演してきた謝の幅広いバックグラウンドに驚きを示すとともに、コロナ禍での休止を経て、アジア内での表現者たちの交流がふたたび活発化することに期待を寄せている。もちろんこのバンドも刺激剤のひとつとなるにちがいない。

(文中敬称略)

(*1)「山下洋輔のクルド音楽紀行・流浪の魂を求めて」(NHK、1998年3月25日放送)
(*2)齊藤聡「サックス奏者謝明諺(シェ・ミンイェン)インタビュー」(『Taiwan Beats』、2022年8月1日)
https://ja.taiwanbeats.tw/archives/11495

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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