# 2261『ダフニス・プリエト/カンター』
『Dafnis Prieto / Cantar』
text by Keiichi Konishi 小西啓一
Dafnison Music
Dafnis Prieto (Drums, Percussion, Vocals, Music Director)
Luciana Souza (Vocals, Percussion)
Peter Apfelbaum (Woodwinds, Melodica, Percussion, Keys)
Martin Bejerano (Piano)
Matt Brewer (Acoustic & Electric Bass)
1. Guajira en Sol
2. When I Miss You
3. Houve Um Tempo
4. Sueño de Amor
5. To the Concert
6. Brisa
7. Amanhecer Contigo
8. Unknown Man
9. The Muse
10. Guajira en Lu
Produced by Larry Klein & Eric Oberstein
『Cantar(=スペイン語で歌うの意)』と題されたアルバムが、ラテン・ジャズ・シーンを牽引する最有力のひとりにして逸材(ドラマーでありプロデューサー&コンポーザー等々)のダフニス・プリエトから提供されるとは、少しばかり意外な感もあった。1999年に故郷のキューバから渡米、NYを本拠に活動を展開して20数年。今やシーンの中心人物にまで成長し、ついには自身のレーベル「ダフニソン・ミュージック」も創設、そこからコンボやフルバンドなどさまざまなフォーマットで意欲的な作品を送り続けているダフニス。今まで唄のバックなどの作品はあまり聞かれなかったはず(もし違っていたらお許しを...)なので、その新作が “歌う=Canar”ことにスポットを当てたのには少なからず驚かされたものだが、その相手役として彼が選んだ歌い手、それがグレッチェン・パーラトなどと並んで最も意欲的にして刺激的でもある女流シンガー、ブラジルのサンパウロ出身でバークリー音楽院&ニュー・イングランド音楽院の双方で学んだ経歴の、優雅な色香と鮮やかな先進性を併せ持つ才媛=ルチアナ・スザーナだという。これでこのアルバムは一転、興味津々のものとなった。さらに、この作品が食指をそそられるのは、そのプロデューサーがダフニスの良き相方とも言えるエリック・オーバーステインに加え、あの大物ラリー・クライン(ジョニー・ミッチェル、ボブ・ディランなどを担当)も共同参加だということ。ダフニスとルチアナ、そしてラリー...と来れば、この新作はもうお墨付きが出たようなものとも言えそうだが...。
さて、その新作アルバム、これもダフニス自身のレーベルからのもので収録は全10曲。そのすべてをダフニス自身が作曲・作詞を担当したのだという。もともと彼が作・編曲に優れた才を誇ることは、これまでのリーダー・アルバムからも良く知られていたが、詞作りにも秀でていることを今回見事に証明したのは、さすがの才能。ここではダフニスが叩き出す鋭利にして繊細、<グァヒーラ>などニュアンスに富んだカリブ&南米のさまざまなリズム・パターンをバックに、ルチアナは英語(アメリカ)・西語(キューバ)そして葡語(ブラジル)という、ふたりの出自に関係する言語で全曲を魅力的に歌い綴る。それぞれが卓抜なテクニシャン同士のこの共演は、優しく柔和にまた激しく拮抗しつつ、時に親しげなボーカル・デュオなども織り込み、じつに小気味よく展開される。その親和性は抜群だし、ユニットとしての統一感もグッド、聴くものを深い寛ぎと安らぎへと誘う。ここにはある意味 “パン・アメリカン” とも言えそうな規模での、嫋(たお)やかにして蠱惑的な歌世界が現出されている。
また、このふたりをサポートするペーター・アクヘルバウム(sax他)やマーチン・ベシャラノ(p)そしてお馴染みのマット・ブリューアー(b)といった面々のプレイもなかなかにアトラクティブで、なかでも若手のマーティンには要注目。いずれにせよ今年(23年)上半期のボーカル関連としては、リッキー・リー・ジョーンズのスタンダード集『ピーシズ・オブ・トレジャー』と並んで、最も印象深い作品...と聴いた。