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CD/DVD DisksNo. 306

#2271『マティルド・フェブレール/バイオリン、それは私〜トリビュート・トゥ・ステファン・グラッペリ〜』
『Mathilde Febrer / “Un violon pour tout bagage -Hommage a Stephane Grappelli-“』

text by Tomoyuki Kubo 久保智之

リスペクトレコード

Mathilde Febrer (Violin)
Alain Jean-Marie (Piano)
Yves Torchinsky (Bass)
Julien Charlet (Drums)
Jean-Marie Ecay (Guitar)
Samy Daussat (Guitar)
Christophe Lampidecchia (Accordion)

1. I’ll Remember April  四月の思い出 (Gene De Paul)
2. Japan Feeling  ジャパン・フィーリング (Mathilde Febrer)
3. Douce France  優しきフランス (Charles Trenet and Léo Chauliac)
4. Milou En Mai  ミルのテーマ (Stéphane Grappelli)
5. Blues For Stéphane ブルース・フォー・ステファン (Mathilde Febrer)
6. Ballade De l’Espérance  希望のバラード (Mathilde Febrer)
7. Si Tu Savais  知っていたなら (George Ulmer)
8. Double From No.1 Partita For Violin 無伴奏パルティータのためのパルティータ第一番からドゥーブル  (Jean Sebastien BACH)
9. Valse Du Grand Paris  グラン・パリのワルツ (Mathilde Febrer)
10. Daphné ダフネ  (Django Reinhardt)
11. The Jitterbug Waltz  ザ・ジターバッグ・ワルツ (Thomas”Fats”Waller)
12. Les Valseuses バルスーズのテーマ (Stéphane Grappelli)

Produced by Kenichi Takahashi
Directed by Mathilde Febrer
Recording and mixing : Mohammad Sadeghin
Assistant Engineer : Thomas Bonnin
Recorded at STUDIO DE LA SEINE
Mixed at KFH STUDIO
Mastering Engineer : Mitsukazu Tanaka
Assistant Engineer : Moe Kazama
Mastered at studio Chatri, Tokyo, Japan


ステファン・グラッペリ直系のバイオリン奏者、マティルド・フェブレール渾身のグラッペリ・トリビュート・アルバム。マティルドの奏でる繊細かつきらびやかな質感、さまざまな経験に裏打ちされた豊かな表現力が、ステファン・グラッペリの素晴らしさ、そしてバイオリンとジャズの魅力を存分に伝えてくれる、とても素敵な作品だ。

マティルド・フェブレールはパリ近郊に生まれ、幼い頃からバイオリンに親しみ、クラシック・バイオリニストとしてのキャリアをスタートした。20歳代前半に即興演奏のできるジャズに興味を持ち、ジャズ・バイオリニストのディディエ・ロックウッドやピエール・ブランシャールに指導を仰いだ。以降、ジャズを中心に様々な奏法を身に着け、現在は様々なジャンルのアーティストから共演依頼のある売れっ子バイオリニストだ。

このアルバムには、ステファン・グラッペリの楽曲をはじめとして、ジャズ・スタンダード、シャンソン、バッハの楽曲、そしてグラッペリに捧げたマティルドのオリジナル4曲と、たいへん幅広いジャンル曲が収録されている。多種多様な楽曲であるが、すべてがグラッペリゆかりの曲群となっている。グラッペリは様々なスタイルの演奏を行い多くの音源を残しているが、マティルドは本アルバムの制作にあたり、一年かけてグラッペリの700曲もの全音源を丹念に振り返ったそうだ。そして彼の楽曲と演奏、そして自己の魅力が最大限伝わるよう、アルバム全体の構想を練り上げていったとのこと。本アルバムからは、そうしたマティルドのただならぬ情熱もひしひしと伝わってくる。

共演者もとても豪華だ。ピアニストのアラン・ジャン=マリは、チェット・ベイカー(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)等、多くのミュージシャンと共演歴のあるベテラン。寄り添うような温かなタッチがとても印象的だ。エレクトリック・ギターのジャン=マリ・エカイは、ジャン・リュック・ポンティ(vn)、ラリー・カールトン(g)、ロベン・フォード(g)などとも共演歴のある、特にジャズ・フュージョン界で引っ張りだこのギタリスト。フル・アコースティック・ギターでのジャジーなソロからクランチ系のサウンドまで、アルバム全体に様々な彩りを添えている。もう一人のギタリスト、サミー・ドーサはマヌーシュ・ジャズ界のトップ・ギタリスト。アコースティック・ギターでのシャープでグルーヴィーなカッティングや、速いパッセージのソロがとても心地良い。クリストフ・ランピデキアは、1999年度アコーディオン・コンテストで世界チャンピオンとなった凄腕アコーディオン奏者。語りかけるように歌い上げるフレーズが、サウンド全体にとても豊かな色合いを与えている。(ジャン=マリ・エカイ(g)とクリストフ・ランピデキア(accordion)の共演動画を本記事の下部に添付したので、参考までにぜひご覧いただきたい) コントラバスのイヴ・トルシャンスキーは、コントラバス合奏団の「オルケストラ・ド・コントラバス」の一員でもある技巧派ベーシスト。しなやかなトーンでバンド全体を支えている。ジュリアン・シャルレは、ジャン・ミッシェル・デイヴィス(vib)やダニエル・ジマーマン(tb)などとも共演しているドラマーで、コンテンポラリー・ジャズやポップスなど幅広いジャンルで活躍している。本アルバムの多彩な曲調を表現するうえで欠かせなかったアーティストのひとりといえるのではないか。

このような多才なメンバーと共に、マティルドは実にバラエティに富んだ演奏を魅せてくれている。クラシックで身につけた高度なテクニックをベースに、ジャズ・スタンダードでは華やかなトーンとフレーズ、マヌーシュ系の楽曲では滑らかで軽やかなニュアンス、バッハ曲では驚くようなスウィンギーな演奏、そして時にはピチカートでの爽やかなプレイ… 多様な演奏スタイルで八面六臂の大活躍だ。作品全体としてはあくまでも一つのトーンが維持されているのだが、その中で次々と新しい表現が展開されていく。「次はどんな演奏を聴くことができるのだろう…?」と、カラフルなマティルド・ワールドにグイグイと引き込まれてしまう。

本作品の原題は「Un violon pour tout bagage」。これは「カバンの中にはヴァイオリンが一挺だけ」つまり、「ヴァイオリンが私の人生のすべて」ということだそうだ。マティルドが、人生のすべてを注ぎこんでつくりあげた、隅々まで多くのアイディアと強い情熱が詰まった作品。そのパッションをしっかりと受け止めながら味わいたい。

<本アルバムの動画>
Mathilde Febrer “Milou en mai”

<参考動画>
本作品とは直接関係はないが、本作品に参加しているジャン=マリ・エカイ(g)とクリストフ・ランピデキア(accordion)の素晴らしい演奏。参考までにぜひご覧いただきたい
French Colors

久保智之

久保智之(Tomoyuki Kubo) 東京生まれ 早大卒 patweek (Pat Metheny Fanpage) 主宰  記事執筆実績等:ジャズライフ, ジャズ・ギター・マガジン, ヤング・ギター, ADLIB, ブルーノート・ジャパン(イベント), 慶應義塾大学アート・センター , ライナーノーツ(Pat Metheny)等

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