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Jazz and Far Beyond

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CD/DVD DisksNo. 308

#2292 『John Butcher / The Very Fabric』

text by Kazue Yokoi  横井一江

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John Butcher (tenor/soprano saxophones, feedback tenor on # 4)

1. Shimmers of Connect i
2. Shimmers of Connect ii
3. Shimmers of Connect iii
4. Sympathetic Magic (concrete)
5. Elusive Sidestep
6. Signs and Symptoms
7. Far Flung
8. Summer Incantation
9. Very Hush-Hush
10. Laval
11. On Springs

Recorded in the Brønshøj Water Tower, Copenhagen, Denmark, June 17, 2022
Engineer: Jesper Hviid
Inside photograph by Thomas Buhl-Wiggers
Design by John Butcher and Cathy Fishman; from the tower’s 1928 architectural drawings


イギリスの即興演奏家ジョン・ブッチャーの最新作はソロ・アルバム。傑出したサックス奏者である彼は、技術的にも創造性においても独自の世界を構築してきた。本作は、コペンハーゲン郊外のブレンスホイ給水塔 (Brønshøj Vandtårn) でのライヴ録音。この約100年前に建てられたコンクリート製の給水塔は、現在文化施設として使われている(→リンク)。幅20メートル、高さ34メートルの円筒形の建物だけに、かなり大きな残響があることは容易に想像がつく。ブッチャーは、これまで大谷石資料館(大谷石地下採掘場跡)(→リンク)のような特殊な空間での演奏を何度も行なった経験を持つ。大谷の時は、演奏前にあちこち場所を変えてサックスを鳴らし、会場の響きを確認していた姿が記憶に残っている。本作のノートには彼自身が「ある音は液体のように浮遊し、ある音は靄がかかったように変化し、ある音はそこに留まっていることを好む」と記していた。彼はこのブレンスホイ給水塔特有の音響をライヴ・エレクトロニクスのように音楽的に取り込みながら演奏している。ただし、ここでの音響はコントロールしきれるものではない。それゆえの面白さも本人は感じていたのではないだろうか。おそらくこの会場に居たら、ブッチャーの発するサウンドに包み込まれ、音の波に洗われて、また異なった印象を得たことだろう。何よりも楽器のコントロール力が凄い。発せられた音は場を共鳴させ、一体化させながら万華鏡的に変化する。特殊奏法を含めた多彩なテクニックを用い、繊細そして緻密にサウンドが構築されているが、聞き手にそれを感じさせず、イマジナティヴな世界に引き込んでいく。浮遊するサウンドはトラックによって表情を変え、どこまでもフレッシュだ。ここまでソロで吹けるサックス奏者を他に知らない。サックスという楽器による表現をとことん追求して到達したひとつの境地、音世界がここにある。

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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