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CD/DVD DisksNo. 308

#2284 『Lee Ritenour / On The Line』
『リー・リトナー/オン・ザ・ライン』

text by Tomoyuki Kubo 久保智之

ビクターエンターテイメント
NCS-77005

Lee Ritenour (g)
Harvey Mason (ds)
Dave Grusin (key)
Don Grusin (key) <Tracks:1-4>
Greg Mathieson (key) <Tracks:5-8>
Anthony Jackson (b) <Tracks:1-4>
Nathan East (b, synthesizer bass) <Tracks:5-8>
Ernie Watts (sax, synthesizer Sax)
Steve Forman (perc) <Tracks:1-4>
Lennie Castro (perc) <Tracks:5-8>

1. The Rit Variations
2. Starbright
3. On The Line
4. Tush
5. California Roll
6. Heavenly Bodies
7. Pedestrian
8. Dolphin Dreams

Produced by Lee Ritenour and Almost Music (Los Angeles)

リー・リトナーが1977年〜1983年にリリースしてきたダイレクト・レコーディング・シリーズ5枚が、このたび最新リマスタリング/UHQCD化されて再リリースされた。そのうちの1枚。


リー・リトナーの「ダイレクト・カッティング」「ダイレクト・トゥ・デジタル」アルバム。「ダイレクト」シリーズの第4弾ということになる。1983年の作品だ。
1983年という年代は、デジタル楽器が出てきた頃で、FM音源のデジタル・シンセサイザーなどが出てきた頃でもある。このアルバムでは積極的にそれらのデジタル楽器を活用しながら、ダイレクトなレコーディングを行うことを目指していたようだ。

ライナーノーツ上には「シンセサイザー・サックス」「シンセサイザー・ベース」という電子楽器のクレジットもある。音色としても〈On The Line〉ではシモンズ・ドラムの音が聴かれたり、〈Tush〉ではおそらくヤマハのGS-1と思われるFM音源のようなエレクトリック・ピアノの音色も聴かれる。〈The Rit Variations〉のブラス系の音色なども一部はFM音源のように聴こえるが、こうした新しい音色をアンサンブルに積極的に取り入れて、新しいサウンドを生み出そうとしていたのだろう。

アルバムの録音技術としては、各楽器からの100あまりの信号をミキサーに入力して2chにミックスし、リアルタイムに4か所の媒体へと音源を記録していたようだ。2つはアナログレコードのカッティングマシン2台へ、1つはデジタルレコーダー(DAS-90)、残りもう1つは、アナログの2トラックのテープレコーダーのようだ。4か所に分散して記録をしているのはトラブル対応だと思われるが、とにかく100chもの信号の同時録音とは、驚異的なレコーディングシステムだ。一方で今回のアルバムはフェードアウトで終わる曲もいくつかあり、後述するように「ダイレクト・カッティング」という意味では謎もあるが、レコーディング結果からすると、「録音時に2chのミックスダウンを済ませておき、演奏内容はライブで良い音質のまま一気に収録して、後からの編集は一切行わない」というコンセプトであったことは間違い無さそうだ。本作品における「ダイレクト」の主目的は、ライブ演奏の緊張感を高めることだったようだ。

前半の「M1〜M4」と後半の「M5〜M8」で演奏メンバーが異なっており、4曲ずつレコーディングが行われたようだ。
本作品について、とても不思議に思っていることがある。フェードアウト曲があるのだが、ラッカー盤へのダイレクト・カッティングとの関係がどうなっていたのかが謎なのだ(ご存知の方がいらしたらぜひ教えてください)。「ダイレクト・カッティング」をするには、片面分の20数分間をノンストップで演奏することになると思うが、M2はフェードアウトで終わっており、M3に至ってはドラムがM2までの生ドラムから急にシモンズ・ドラムに変わるなどしている。ラッカー盤へのカッティングを途中で止めるわけには行かないだろうと思うのと、演奏の途中でハーヴィー・メイソンが別のドラムセットに座りなおすなどということは、音楽的な部分以外にもいろいろなトラブルが起きそうなためあり得ないように思うのだが… ただ発売当時のリー・リトナーのコメントによると、「録音中にデイヴ・グルーシン、ドン・グルーシン、グレッグ・マティソンがキーボード間を飛び回ったり、シンセの音色を切り替えたり、ハーヴィー・メイソンがドラムを普通のドラムからエレクトリック・ドラムに座り直したりするんだ! 彼らには感謝しか無いよ!」とのことなので、録音はやはりまとめて行われていたのかもしれない。

「ダイレクト・カッティング」でライブ感のある演奏を追求してきたリー・リトナーが、楽器や録音機器のデジタル技術による大きな進化をとらえてそれらを活用し、新しい形でライブ感を表現した一枚と言えるだろう。

 


今回の「リー・リトナー ビクター・イヤーズ」(ダイレクト・レコーディング・シリーズ)の各作品は次のとおり。

久保智之

久保智之(Tomoyuki Kubo) 東京生まれ 早大卒 patweek (Pat Metheny Fanpage) 主宰  記事執筆実績等:ジャズライフ, ジャズ・ギター・マガジン, ヤング・ギター, ADLIB, ブルーノート・ジャパン(イベント), 慶應義塾大学アート・センター , ライナーノーツ(Pat Metheny)等

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