#2301 『RHYTHMATRIX/BRIGHTNESS』
text by Tomoyuki Kubo 久保智之
JUMP WORLD, a division of superboy Inc.
KATS-1023
- 5 Spot / Written by Gennoshin Yasui
- Brightness / Written by Makoto Kuriya(※NHK 神戸「Live Love ひょうご」オープニング TM)
- Lucky 88 – interlude / Written by Makoto Kuriya / Gennoshin Yasui
- Passando, feat. Marcelo Kimura / Words by Bruno Tasso / Music by Makoto Kuriya
- I Can Recall Spain, feat. KOTETSU / Written by Arthur J. Maren / Al Jarreau / Chick Corea / Joaquin Rodrigo Vidre
- Sunday’s Sun / Written by Makoto Kuriya(※NHK 神戸「Live Love ひょうご」挿入曲)
- Take Off – interlude / Written by Makoto Kuriya / Gennoshin Yasui
- Água de Beber, feat. Monica Salmaso / Words by Vinicius de Moraes / Music by Antonio Carlos Jobim
- Lush Life, feat. KOTETSU / Written by Billy Strayhorn
- JABRA / Written by Gennoshin Yasui
- Lucky 77 – interlude / Written by Makoto Kuriya / Gennoshin Yasui
- Un Homme Et Une Femme (男と女), feat. VieVie, Benjamin Legrand / Words by Pierre Elie Barouh / Music by Francis Albert Lai
- Jive Love / Written by Makoto Kuriya
- Berimbau , feat. Yuka Ueda / Written by Baden Powell De Aquino / Vincius De Moraes / Ray Gilbert
クリヤ・マコト(pf & Rhodes 1~14)
安井源之新(perc 1~14)
上田裕香(vo 1, 14)・マルセロ木村(vo 4)・KOTETSU (vo 5, 9)・Mônica Salmaso(vo 8)・VieVie(vo 12)・Benjamin Legrand(vo 12)納浩一(b 1, 2, 5, 10, 13)・鳥越啓介(b 6)・早川哲也(b 8, 9)・高橋佳輝(b 14)
Daniel Baeder(ds 1, 2, 10)・則竹裕之(ds 5, 6, 13)・大槻”kalta”英宣(ds 8, 9)
マルセロ木村(g 4, 10)・マサ小浜(g 6)
Teco Cardoso(fl 2, 10)・中村恵介(tp & flh 6, 14)・松井秀太郎(flh 13)
クラッシャー木村ストリングス(2, 4, 5, 6, 8, 9, 10, 12, 13)・安部慶子ストリングス(14)
ジャズの枠にとどまらず、ポップス、CM音楽、映画音楽等のさまざまなジャンルで活躍中のピアニスト、クリヤ・マコトと、スティーブ・ガッドやマルコス・スザーノ、フィロ・マシャードなど幅広いジャンルのアーティストの共演、またTV番組等でも活躍中の安井源之新。この二人による強力なユニット「RHYTHMATRIX」のセカンド・アルバムがリリースされた。
様々なジャンルで活躍する二人の作り出すサウンドは、とてもカラフルでバラエティに富んでいる。ジャズ、フュージョンから始まり、ボサ・ノヴァやサンバといった、ブラジルをルーツとするようなサウンドが中心になっているが、簡単にひとことでなにかのジャンルに当てはめるようなことはできない、とても深いリズムやハーモニーを擁している。
クリヤ・マコトは、本作品ではアコースティック・ピアノとローズ・ピアノを演奏しているが、同じアコースティック・ピアノを使った演奏でも、曲によってヤマハ、スタンウェイ、ファツィオリと使い分けていたようだ。安井源之新は、得意とするパンデイロはもちろんのこと、ブラジルやインドの楽器、また、エレクトリック系など数十種類のパーカッションを使用している。
参加ミュージシャンもとても豪華だ。本作品は3年以上の年月をかけて、二人が求める音を徹底的に追求するべく少しずつ仕上げてきたそうだ。多くのミュージシャンが関わっているが、各曲の雰囲気に、参加ミュージシャンそれぞれのカラーも強く反映されているのがとても興味深い。曲やアレンジの良さ、演奏の素晴らしさももちろんだが、「この参加メンバーでなければつくりだせなかったに違いない」と思えるサウンドがギッシリと詰まっていることも、このアルバムの大きな魅力のひとつだ。
1曲めの〈5 SPOT〉は、「5」を基調としたキャッチーかつトリッキーな安井源之新の曲。冒頭部分は、拍で示すと「4/4+3/4」と比較的シンプルなのだが、16分音符で5+5+5+5+4+4と複雑だ。拍のあたまからアクセントが1/16ずつずれていくが、そのズレ方がとても不思議な心地好さを生み出す。また曲の途中では5/8や、ラストのキメでは5/4など、「5」に関連するリズムをとても魅力的に表現している曲だ。曲の中盤ではスキャットも入るが、歌が入ると、この5+5+5+5+4+4部分はどことなくインドのタブラのイメージも想起する。リズムを憶えるためというわけではないが、筆者は何度か聴くうちにこのキメ部分は「カツシカク・カツシカク・カツシカク・カツシカク・シバマタ・シバマタ」と聴こえるようになってきた(笑)。
〈Brightness〉は、スムース・ジャズ系のサウンドかと思いきや、あたまの16分ウラのアクセントのビートとともにTeco Cardosoのフルートが入ると、これはもう完全なる「RHYTHMATRIX」の世界。そのビートの上を流れるストリングスのゆったりとしたラインも印象的だ。〈Lucky 88〉はクリヤ・マコトと安井源之新二人によるインタールード。インタールードはアルバムの途中で小休止的に3曲挟み込まれているが、この曲はエレクトリック・パーカッション等のつくりだす空間の中で、ピアノが軽やかに舞うような曲。マルセロ木村のギターと歌がフィーチャリングされた〈Passando〉は、ここまでの熱さを美しくクールダウンさせてくれる。長いピアノソロとそのバックの柔らかなストリングスの間のダイナミクスのやりとりがとても美しい。
〈I Can Recall Spain〉は、あの超有名曲でありボーカルバージョンもとても有名だが、様々なアイディアが詰まったとてもクールなアレンジだ。アランフェス協奏曲をカットしつつ斬新なイントロ、キメ部分での4ビートのベース、ストリングスの艶めかしいライン、その後に続くパンディロのリズム… ドラムソロ… 伸び伸びと歌い上げるKOTETSUのボーカル、アカペラでの透き通ったハーモニー… からのローズ・ピアノのソロ… 何もかもがクール! 〈Sunday’s Sun〉は、少しフェイザーがかかったようなローズ・ピアノがテーマをとる、天気の良い休日に散歩をしているような軽快な曲。中村恵介の柔らかなフリューゲル・ホルンのソロもとても爽やかだ。2つめのインタールード〈Take Off〉は、アコースティック・ピアノを中心とした軽やかな曲。
続く〈Água de Beber〉のボーカルは、なんとあのブラジル代表するシンガー、モニカ・サルマーゾ! 圧倒的な表現力と存在感だ。この曲も多くの人が演奏してきたであろう名曲だが、こちらもアレンジがまたとてもユニークだ。前半はクリヤ・マコトのローズ・ピアノと安井源之新のパンデイロを中心としたパーカッションのみで進行する。中盤のピアノソロから、ストリングスとドラム、ベースが加わり、情熱的な展開を見せる。
〈Lush Life〉はボーカル、KOTETSUの存在感が光る曲だ。前半はピアノをバックにしっとりと低い音域から歌い始め、後半はストリングスの温かい音色に柔らかく包まれながら高い音域で歌い上げていく。とても広い音域をカバーできるKOTETSUならではの素晴らしい歌だが、その持ち味が活かされるようにさり気なく転調をしていく見事なアレンジにも脱帽だ。
〈JABRA〉はDaniel Baederのドラムと安井源之新がつくり出す、滑っていくような躍動感のあるビートがたまらない。流れるようなドライブ感の中で、滑らかに決まるウラ拍のキメの凄さよ。
インタールード〈Lucky 77〉はローズ・ピアノを中心とした、ゆっくりとクールダウンするかのような曲。〈Un Homme Et Une Femme〉は、この曲もこれまで様々にアレンジされ演奏されてきた超有名曲。歌の他には、パーカッションとローズ・ピアノ、ストリングスのみによる演奏だが、アレンジの妙かとても新鮮に感じられるのが驚きだ。〈Jive Love〉は、松井秀太郎のフリューゲル・ホルンをフィーチャリングした曲。ゆったりとしながらとても明るく清涼感のある曲だ。アルバムラストは〈Berimbau〉。ビリンバウとは、ブラジルの弓のような形をしたパーカッションだが、イントロでその音と思われる演奏が聴かれる。こちらもブラジルを感じるとても熱い演奏。ライブで聴きたい!
どの曲もとても素敵でアレンジも演奏も非常に濃密。求める音になるまで、こだわりを持って緻密に音を積み上げ、丁寧につくりあげた作品という印象を受けた。パーカッションもピアノも、空間のあちらこちらに細かな音がいくつも入っていて驚く。何度聴いても新たな発見がある。とても素晴らしい作品だ。
<参考情報>
※〈5 SPOT〉は、安井源之新の別プロジェクトの高内ハル(g)、コモブチキイチロウ(b)との「Island Fish」のアルバム『STRAROSPHERE』にも収録されている。本アルバムとはまた違った雰囲気を味わうことができる。