JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 3,035 回

CD/DVD DisksReviewsNo. 314

#2326 『本多俊之&野⼒奏⼀/ほ・ん・の・り』

text by Keiichi Konishi 小西啓一

PitInn Music PILJ-0017 ¥2,750(税込)

本多俊之(ss,as) 野⼒奏⼀(p)
ゲスト:本多尚美 (p) 4.6.に参加

1. CC-Rex (本多俊之) 04:15
2. Crystal Silence Chick Corea(チック・コリア)07:02
3. Three Views of a Secret Jaco Pastorius (ジャコ・パストリアス) 05:31
4. マルサの⼥ The Woman From Marusa (本多俊之) 06:08
5. Haru Overture (野⼒奏⼀) 05:09
6. S.B.C. Magic (本多俊之) 05:17
7. Alfie Burt Bacharach (バート・バカラック)05:58
8. Beauty and the Beast Wayne Shorter (ウェイン・ショーター)05:08
9. ⾵町 Kazamachi (野⼒奏⼀) 05:16
10. Danny Boy (アイルランド⺠謡) 03:29

録⾳: 2023 年10 ⽉17 ⽇(⽕)18 ⽇(⽔) @ 東京・新宿⽂化センター⼤ホール
録⾳エンジニア : 菊地昭紀 (PitInn Music)
プロデューサー : 本多俊之 & 野⼒奏⼀
共同プロデューサー : 品川之朗(PitInn Music)


このところ “和ジャズ”の作品で、『照らす』(魚返明未)など中々に印象的な日本語タイトルの作品を、見掛けることが増えている気がするが、その象徴的な作品がこの『ほ・ん・の・り』ではないだろうか…。唄心溢れたハート・ウーミングでインティメイトな、ジャズ・サックスとピアノの対話。“ほんのり”として愉し気、ワクワク感もたっぷりな、ここでの真摯にして遊び心にも富む音による会話。それを写し取ったような素敵なタイトルで、思わずその中身を早く聴きたくなってしまう…。そんなタイトルのデュオ・アルバムを作った、本多俊之(sax) と野力奏一(p) の2人(但し 本多の娘・尚美が2曲でピアノで参加)。もう皆様お気づきのように、それぞれの苗字を合わせればそのままこのタイトルになる…とは、なんとも微笑ましくも相性の良いこと。
実はこの2人、1957年生まれのおない年で、なんと19才の時からの付き合い(本多のバンドに野力も参加)で、もう半世紀近くも深い交友関係を結ぶ。それぞれがサックスとピアノという楽器の、日本を代表する第一人者であると同時に、作・編曲者としても素晴らしい才能を発揮、映画音楽の分野でも成果を挙げ、またプロデューサーとしても抜群の働きを見せる…等々、ジャズの世界に留まらない活動を展開する多彩な才の持ち主どうし。どちらも還暦をとうに過ぎているのに、その容貌も相まって、相変わらずいい意味で “とっちゃんボーヤ” 的な若々しさを漂わせている辺りも、好ましくもあり嬉しいところでもある。
そんな気心知れ合った2人のインティメイトな対話だけに、実に心地良い至福の時が過ぎ、全 10曲あっという間に聴き通し、その才に惚れ直してしまう。曲も <マルサの女>(本多)<風町>(野力)という2人の書いた代表的な映画主題曲や、<SBCマジック>(本多)などのオリジナル曲、さらには<スリー・オブ・ア・シークレット>(ジャコ・パストリアル)<ビューティー&ザ・ビースト>(ウエイン・ショーター)等、2人の好きな銘品ジャズ・オリジナルなどで、快調で気持ち良さげに交情を交わす。なお、本多のオリジナルにある“SBC”とは、2人とも関係の深い“新宿文化センター”のこと。その大ホールは改修工事で23年11月から25年9月(予定)まで長期休館なのだが、そのクローズ直前の23年10月、無観客でこの収録はその大ホールで行われ、ホール特有のナチュラルな音響(&残響)も、2人の対話にマジカルな作用を及ぼす。
ぼく自身はここでのデュオどれも気に入っているのだが、中でも印象深いのは本多も野力も大好きだと言う、今は亡きチック・コリアのヒット作『リターン・トゥ・フォー・エバー』(72年)に収録され、チックとゲイリー・バートンとの絶妙なデュオを繰り広げたアルバム(73年)のタイトル曲でもある<クリスタル・サイエンス>。至高のデュオ・ナンバーとも呼べそうなこの銘品、ここでもソプラノ・サックスとピアノで “(水晶の)静けき究極美” を描き出すが、この2人ならではの “美” の描写、なんとも堪(こた)えられない。さらに、ラストの<ダニーボーイ>。2018年に発表された、野力のキャリア初となる出色のピアノ・ソロ・アルバム(18年)でも、やはりラストに奏されたこのアイルランド民謡。アンコール風の演奏の余韻に浸りつつ、対話は静かにクロージングされる。
リラックスした“ほ・ん・の・り”と気分良い時間を…、そんな感慨に浸らせてくれる好アルバムです。ただ一つ注文を付けるとすれば、ジャケットを“ほんわか”とした感じの2人のイラストまたは童画に..とも思いますが(実際は2人の写真が使われている)、それは詮無き事なのでしょう…。

♪ 関連記事
(悠雅彦:悠々自適)
https://jazztokyo.org/monthly-editorial/monthly-editorial-yuh/post-48758/

(野力奏一インタヴュー)
https://jazztokyo.org/interviews/post-44167/

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください