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及川公生の聴きどころチェックNo. 233

#374『KOKOTOB / Flying Heart』

「及川公生の聴きどころチェック 今月の7枚」

CleanFeed CF431CD

Taiko Saito 斎藤易子 (marimba, vibraphone)
Niko Meinhold ニコ・マインホルド (piano)
Tobias Schimer トビアス・シマー (clainet, bass-clarinet)

1. Waldboden (T.Schimer)
2. Wellen (N.Meinhold)
3. Orgami In Gorlitzer Park (N.Meinhold)
4. Komodo No Kodomo (T.Saito)
5. Etude In Eb (T.Saito)
6. Feldmannchen (N.Meinhold)
7. 5 Viertel (N.Meinhold)
8. Bikkuri (T.Schimer)
9. Korokoro (T.Saito)
10. Snow Moon Flower (T.Saito)

Recorded Nov. 22nd and 23rd, 2015 at Studio H2, Berlin
Engineer: Marco Birkner
Mixing and editing: Marco Birkner
Produced by Kokotob
Executive production by Pedro Costa for Trem Azul

優れた録音が音楽の装飾を輝かせる。時に現代風な構成であっても、この音質で引き込まれてしまう。それぞれの楽器のサウンドが原音に忠実とか、そんな言葉で表現できない装飾音が、エンジニアの技巧に感じられる。楽器の音に忠実が正しいのとは違う。その楽器が表現できる意外性に気づいたエンジニアに賞賛。凄いぞ。マリンバのサウンドをオンで表現するか、少し空間情報を入れるか、通常を越えた録り方で音楽が生きている。聴き通していて意外性が次々と出てくる。

 

「Hear, there and everywhere」#9  by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

「Kokotob」は、マリンバ/ヴァイブの齋藤易子、ピアノのニコ・マインホルドとクラリネット/バスクラのトビアス・シマーによるトリオ。齋藤とニコのデュオ「Koko」に、2007年の日本ツアーに際してトビアスがゲストで参加、以来、「Kokotob」のトリオとして定着。鍵盤打楽器の応酬を中心とする「Koko」から、旋律楽器が加わった「Kokotob」へサウンドスケープは飛躍的に拡大されることになる。

ヴァイブとピアノのデュオではゲイリー・バートンとチック・コリア、マリンバとクラリネットのデュオではミカとリチャードのストルツマン夫妻がいるが、マリンバ、ピアノ、クラの楽器編成はとてもユニークだ。音楽性は前2者よりずっとストイックでコンテンポラリーだが、ドイツの音楽大学で学び(齋藤は桐朋学園大卒後)、ベルリンを活動拠点にしているというキャリアに拠るものだろうか。言葉遊びの好きなメンバーがいるとみえて(齋藤自身?)「Kokotob」から発想してアルバム・タイトルは『Flying Heart』、アートワークは空飛ぶ心臓だ!しかし、音楽性にアートワークから連想される一時期のドイツ・アヴァンギャルドの大仰さはまったくなく、共通するのはシュールの一点だけだろう。

動画で確認できるように、齋藤は短いパターンをリピートさせてミニマリスティックな動きを見せたり、コントラバスの弓でヴィブラフォンの鍵盤をこすったり、叩いてSE的な音を出すなど表現方法も多彩。アルバム・デビューまでに雌伏10年、完璧にコントロールされたエモーションの下、3者が緻密かつ有機的に連携し合うさまはポスト・フリーの見事な成果に違いない。

 

及川公生

及川公生 Kimio Oikawa 1936年福岡県生まれ。FM東海(現 東京FM)技術部を経て独立。大阪万国博・鉄鋼館の音響技術や世界歌謡祭、ねむ・ジャズ・イン等のSRを担当。1976年以降ジャズ録音に専念し現在に至る。2003年度日本音響家協会賞受賞。東京芸術大学、洗足学園音楽大学非常勤講師を経て、現在、音響芸術専門学校非常勤講師。AES会員。

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