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及川公生の聴きどころチェックHear, there and everywhere 稲岡邦弥No. 244

#447『THE BLIND SWORDSMAN~侠(おとこ)』

text by Kimio Oikawa 及川公生

Ratspack EYES RPES-4863 (SHM-CD)  ¥3000+tax

勝新太郎 (vocal/conga)
佐藤允彦 (作・編曲/piano)
井上堯之 (guitar)
東京キューバンボーイズ
福居典美(津軽三味線)
御諏訪太鼓(山本麻琴)

1. プレリュード 乱乃舞~相即・諏訪雷 (佐藤允彦+御諏訪太鼓)*
2. The Blind Swordsman(勝新太郎/conga 今堀恒雄/guitar 上杉亜希子/chorus)*
3. サマータイム(勝新太郎/vocal)
4. ムーン・リヴァー(勝新太郎/vocal)
5. 想い出のサンフランシスコ(勝新太郎/vocal)
6. いそしぎ(勝新太郎/vocal)
7. Days of Blues(井上尭之/guitar)
8. 花・太陽・雨(井上尭之/guitar)
9. Calling(福居典美/津軽三味線)
10. フィナーレ 阿修羅(御諏訪太鼓)*
11. スペシャルトラック *
The Blind Swordsmanオーケストラ・ヴァージョン(東京キューバンボーイズ 岡部洋一/timbales)
*新録音


制作意図が作り出すサウンドの世界観が面白い。

諏訪太鼓が躍り出たり、ラテンバンドの音源が飛び出したり。

ソロの扱いが古典的サウンドで浮き上がり、当時の組み立て方を想像する。
ボーカルの音源に旧いサウンドが流れる。当時のボーカルといえば、この様な音質だったなあ〜と肉太な音質に郷愁を感じる。


Hear, there & everywhere #13
text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

このアルバムには少々説明が必要だろう。
メイカーの資料によると、「”侠(おとこ)” 勝新太郎をテーマとした、大胆で豪快な ”ニッポンのミュージック”」「東洋そのもでもない、西洋そのものでもない、不思議だが格好いい “ニッポンのミュージック。心の底で感じる、自分たちの音!私たちが元々持つ感性!!」とある。
勝新太郎 (1931~1997) 、破格の人生を歩んだ役者である。あたり芸「座頭市」は海外でも広く知られ来日するジャズ・ミュージシャンの多くがその魅力を口にし、その独特の殺法の振りを真似したものだ(座頭市映画の魅力については、本誌
243号の金野吉晃による名エッセイ「座頭市の話」に詳しい)。父親直伝の長唄と三味線の世界から役者の世界に転出したキャリアが示すように音楽的センスは群を抜いている。座頭市のテーマなどは何度聞いても惚れ惚れする。
この作品はその勝新太郎の歌手としての魅力にスポットを当てたもので(本人は、アタシは歌手新太郎ではなく勝新太郎です、などと謙遜しているが)、ライヴ音源から4曲を収録、見事な歌いっぷりをみせている。何よりも長唄と(恐らくは)アルコールで鍛えたドスの効いた声自体が素晴らしい。先日、BSTVのお宝LP巡りという番組を観ていたら、歌手の野口五郎が杉良太郎の<すきま風>をかけながら、「役者さんの歌は譜割り通りではなく演技力で歌うところが魅力で、大変学ぶところが多い」とコメントしていたが、この作品で聴かれる勝の歌にもそのことがいえるだろう。加えて、勝がどこかのパーティで余興で披露したコンガの演奏を生かすために佐藤允彦が新作を書き下ろしているのも見逃せない。佐藤允彦はジャズ界きってのキレ者でとびきり真面目な音楽家だが、時に思わぬところに顔を見せることがある。この勝新へのトリビュート作もそんな部類のひとつだろう。<The Blind Swordsman>、”盲(めしい)の剣士”、すなわち”座頭市”である。オーケストラ・ヴァージョンもあるが、どんな場面でも絶対に手を抜くことのない佐藤の面目躍如といったところ。
御諏訪太鼓は、日本三大太鼓(御陣乗太鼓、助六太鼓)のひとつで「長野県岡谷市にその道場を持ち小口大八を宗家とする、複式複打法の組太鼓スタイルの曲を中心として演奏する創作和太鼓のプロ集団」(wikipedia)、ここでは小口大八の孫の山本麻琴が打師を務めているが、ストーリー性を帯びた17分に及ぶフィナーレの<阿修羅>がけだし圧巻!女流津軽三味線の福居典美(TENBI)は福居流師範、激烈な津軽三味線を聴き慣れた耳には激しさの中に見せる優美さ、しなやかさが新鮮で、「侠(おとこ)」の世界に紅一点、花を添える。スパイダースやPYGのギタリストとして知られる井上尭之の2曲は最後のレコーディングからの選曲とのこと。
勝新太郎のミュージシャンとしての才能に共鳴する演奏者や制作スタッフの思いをまとめあげた労作である。


 

及川公生

及川公生 Kimio Oikawa 1936年福岡県生まれ。FM東海(現 東京FM)技術部を経て独立。大阪万国博・鉄鋼館の音響技術や世界歌謡祭、ねむ・ジャズ・イン等のSRを担当。1976年以降ジャズ録音に専念し現在に至る。2003年度日本音響家協会賞受賞。東京芸術大学、洗足学園音楽大学非常勤講師を経て、現在、音響芸術専門学校非常勤講師。AES会員。

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