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Concerts/Live ShowsReviewsNo. 333

#1399 Arnold Dreyblatt & The Orchestra of Excited Strings
アーノルド・ドレイブラット&ジ・オーケストラ・オブ・エキサイテッド・ストリングス

Text by 剛田武 Takeshi Goda
Photography by Yusuke Yamatani, Courtesy of MODE.

2025年12月18日(木) ゲーテ・インスティトゥート 東京
Arnold Dreyblatt & The Orchestra of Excited Strings
出演者:Arnold Dreyblatt / Konrad Sprenger / Joachim Schütz / Jim O’Rourke / 石橋英子

MODE公式Instagram


2023年にオーレン・アンバーチが主宰するレーベルBlack Truffleの100枚目のリリースとしてトニー・コンラッド、アーノルド・ドレイブラット、ジム・オルークのトリオの2001年1月9日ニューヨークのトニックでのライヴ・アルバム『Tony Conrad, Arnold Dreyblatt, Jim O’Rourke / Tonic 19-01-2001』がリリースされた。ミニマル・ミュージック/実験音楽を代表する三世代の最初で最後の共演は、アンバーチがレーベルの記念として選んだことも納得できる歴史的なパフォーマンスで、三人の演奏精神の強靭さと変幻する倍音の豊かさに圧倒される作品だった。

今回2度目の来日となるアーノルド・ドレイブラット&ジ・オーケストラ・オブ・エキサイテッド・ストリングスの来日公演に、ジム・オルークと石橋英子が参加することを聞いて、25年前のこのアルバムに匹敵する記念碑的なパフォーマンスになる予感がした。これまで実験音楽を中心に画期的なイベントをキューレートしてきたMODEの主催イベントらしく、若い世代を中心に満場御礼のゲーテ・インスティテュートは、開演前から期待の熱気が渦巻いていた。

●Konrad Sprenger (sole set)

The Orchestra of Excited Stringsでドレイブラットの良きパートナーとして演奏だけでなくプロデュース等も担当するコンラッド・シュプレンガーによるエレクトロニクス・ソロ。多彩な電子音や具体音を細分化して再構成するミュージックコンクレート的な手法で描き出す音のタペストリーは、音楽演奏というよりもサウンドアート/インスタレーションと呼ぶ方がふさわしい。目を瞑って聴いていると頭の中に幾何学模様のイメージが浮かび上がり、いつしか夢見るような浮遊感に包まれていた。

●Arnold Dreyblatt & The Orchestra of Excited Strings

Arnold Dreyblatt (b) / Konrad Sprenger (ds, electronics) / Joachim Schütz (g) / Jim O’Rourke (b) / Eiko Ishibashi (fl, electronics)

開演前からステージ上手に仁王立ちする巨大なベース状の楽器が存在感を誇っていた。これが通常の弦の代わりにピアノワイヤーを張ったオリジナル楽器Excited Strings Bassである。弓弾きにより重低音とともに豊饒な倍音が生まれるこの楽器でドレイブラットが奏でるリズミカルなビートが核となり、他の楽器の倍音が幾重にも重なり重厚なハーモニーが生まれる。基本的に一つの曲を通して一定のパターンが繰り返されるミニマル・ミュージックではあるが、Excited Strings Bassの骨太のパルスは、ロックンロールと同質の野性味を醸し出す。筆者がイメージしたのは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやザ・ストゥージズなどのガレージロックや、ファウスト、カン、タンジェリン・ドリームといったドイツのクラウトロックであった。ちなみにヴェルヴェッツの創立メンバーのジョン・ケイルは、60年代半ばにラ・モンテ・ヤングのシアター・オブ・エターナル・ミュージックに参加していた。ケイルに加えトニー・コンラッドも参加した1965年の録音が、ヤングのアーキヴィスト・アシスタントをしていたドレイブラットを通じて、2000年にヤングの許可なしに『Inside the Dream Syndicate, Vol. I: Day of Niagara 』(Table of Elements)としてリリースされ物議を醸した、という因縁めいた逸話もある。ファウストはトニー・コンラッドと共演し1973年に『Outside the Dream Syndicate』というアルバムを発表している。また、カンのキーボード奏者のイルミン・シュミットは、リゲティやシュトックハウゼンのもとで作曲を学んだあと、1966年に渡米してラ・モンテ・ヤング、スティーヴ・ライヒ、テリー・ライリーらと共演した。このように電子音楽やミニマル・ミュージックは一部の自覚的なロック・ミュージックに多大な影響を与えてきた。アーノルド・ドレイブラットも、オーレン・アンバーチやジム・オルークはもちろん、ソニック・ユースやグレン・ブランカなどの前衛ロックに大きな影響を与えている。

今回のステージでは、シュプレンガーとシュッツが参加した最新アルバム『Resolve』(2023)の楽曲を中心に、ジム・オルークと石橋英子を交えた5人のミュージシャンが、いずれも慣習的な演奏法やサウンドテクスチャーから逸脱した独創的なスタイルで再現する一期一会のパフォーマンスを繰り広げた。瞑想的なサウンドでありながらロックの覚醒感を伴う60分は、これまで体験した実験音楽や即興音楽では味わったことのない原初的な興奮と至福感に満ちていた。

かつてトニー・コンラッドは、ドレイブラットが使う「オーケストラ」という言葉について尋ねられて、「あらかじめ作曲された曲を届けるという意味ではなく、サウンドの大きさ、聴き手との関わり合いの大きさ、そして野心の大きさにまで及ぶ、ドレイブラット自身の姿勢を意味している」と答えたという。この言葉通り、会場を埋めた観客の熱狂的な拍手は、ドレイブラットの音楽が聴き手の心に大きな感動の渦を届けたことを証明していた。

【関連音源】

 

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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