JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 29,925 回

No. 216Concerts/Live Shows

#876 イリアーヌ・イリアス・トリオ Eliane Elias Trio

2016.1.8 21:30 ブルーノート東京 Blue Note Tokyo

text by Hideo Kanno 神野 秀雄
photo by Yuka Yamaji 山路 ゆか

Eliane Elias (p,vo)
Marc Johnson (b)
Mauricio Zottarelli (ds)

ladeira da preguiça (Gilberto Gil)
Chega de Saudade (Antnio Carlos Jobim)
Você (Roberto Menescal)
Brasil (Ary Barroso)
Embraceable You (George Girshwin)
B is for Butterfly (Eliane Elias)
Isso Aqui o Que é (Ary Barroso)
Desafinado (Antnio Carlos Jobim)
Só Danço Samba (Antnio Carlos Jobim)

05ELE0028band 00ELE0157Eliane02ELE0153_ElianeMarc01ELE0064MarcMauricio 03ELE0013Marc04ELE0182Mauricio

最新作『Made in Brazil』(Concord)をリリース後の来日。その後、イリアーヌはこのアルバムで2015年のグラミー賞をベスト・ラテン・ジャズ・アルバムで受賞した。1月6日〜7日には、エリック・ミヤシロ率いるブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラと共演、サウンド的に最高の相性を魅せ、このトリオ公演へと続く。エリック・ミヤシロによると、正しい発音は「イリアーニ」だとのことだが、ここでは慣例にしたがって、イリアーヌと表記する。
イリアーヌは1960年、サンパウロ生まれ、1980年ヨーロッパ・ツアー中にエディ・ゴメスに見いだされニューヨークへ、1982年、ステップス・アヘッドへの参加でも注目され、以降、ブルーノートやコンコードなどに常に新鮮なサウンドのリーダー・アルバムを多数リリースしている。
マーク・ジョンソンは、ビル・エヴァンス・トリオの最後のベーシストという謳い文句が不要になるほど、最高のベーシストとしてリーダーにサポートに素晴らしい作品の数々を残してきた。古くは『Bass Desires』(ECM1299)に始まるシリーズ、最近では、イリアーヌとの共作による『Swept Away』(ECM2168)が印象に残る。
マウリシオ・ゾタレリは、サンパウロ州サントスに生まれ、同州リオ・カルロで育つ、ブラジルでの音楽活動を行い、情報科学の学位を取った後、1999年にバークリー音楽大学の奨学金を得て渡米、共演者として、上原ひろみ、イリアーヌ、マークの順に挙げているのが興味深く、エスペランサ・スポールディング、リチャード・ボナ、イヴァン・リンス、リシャール・ガリアーノ、リー・リトナー、松居慶子など個性的な面々が揃う。2009年に初リーダー・アルバム『7 Lives』をリリース、続いて『MOZIK』、『Glasses, No Glasses』を発表している。

ジルベルト・ジルの<Ladeira da Preguiça>から始まり、トム・ジョビン<Chega de Saudade>、ホベルト・メネスカルの<Você>へとつないで行く。<Chega de Saudade>は、1958年に“最初のボサノバ”となった記念碑的な名曲だが、そのMCでは、17歳のイリアーヌがサンパウロのクラブで演奏をしていたときに、トム・ジョビンとヴィニシウス・ジ・モラエスが聴きに来た、というエピソードも披露した。イリアーヌがジョビンを演奏する機会は非常に多いが、個人的には義弟マイケル・ブレッカーと共演した『Eliane Elias Sings Jobim』(Somethin’ Else)はかなり聴いた。
<B is for Butterfly>はジョーイ・バロンとともに『Marc Johnson & Eliane Elias / Swept Away』(ECM2168)に録音されたイリアーヌらしい優しく気持ちのよい1曲。ブラジル名曲集の中にあって、あらためてイリアーヌのオリジナルだからこそリラックスする自分に気付く。2015年のステップス・アヘッドでも演奏された。
<Embraceable You>は、チェット・ベイカーに捧げられた前作『I Thought About You』(Concord)からボサノバ的なアプローチで。トム・ジョビンの<Desafinado>では、マークのアルコ、マウリシオのパーカッションがフィーチャーされ活き活きとして、曲に新しい生命を吹き込んだ演奏だった。そして、アンコールに<Só Danço Samba>、「昨日までのビッグバンドでも演奏したから、ぜひ聴き比べてください」とコメントして弾き始め、爽やかな余韻とともに幕を閉じた。

今回、『Made in Brazil』なだけに、ボサノバの超有名曲から、MPB、ブラジル人も大好きな<Brasil>、そしてジャズ・スタンダードのボサノバ的演奏までを巧みに織り交ぜた。デパート的選曲でもあり、それがブラジル音楽ファンの一部にはかえって鼻につくかもしれないし、陳腐に感じるかもしれないし、ヴォーカルだけを抜き出せばもっと惹かれるミュージシャンは他にいくらでもいるだろう。
それを超えてこのトリオがオンリーワンの輝きを魅せるのは、イリアーヌの持つ独特のサウンドの広がりと、ジャズとブラジルの間を自由に行き来する絶妙なタイム感ゆえだろう。それに裏打ちされながら、ぴったり寄添う、公私ともにパートナーのマークのベースと、マウリシオのドラムスとパーカッション。イリアーヌの経歴とマウリシオの経歴を重ねてみると、その音の幅広さと自由さを共有することに納得がいく。それを抱擁するマークの幅の広さも言うまでもなく、3人が一体となり、緊張感とリラックスした気持ちが共存する素晴らしいグルーヴを生み出している。そして、何よりもイリアーヌのピアノの一音一音、コードのひとつひとつが、奇をてらわず、とてもシンプルでありながら、とても力強い説得力を持っている。これは、イリアーヌ、マークにピーター・アースキンが参加した2015年のアコースティックなステップス・アヘッドでも強く感じたことだった。そして、本人の声だからこそトリオのサウンドに絶妙に溶けていく。
イリアーヌの音楽が常に発散している洗練されながらわくわくする感覚、そしてブラジル音楽の持つ歓びが結びつき、最大限に発揮された素晴らしい音楽のひとときとなった。

【関連リンク】
Eliane Elias Official Website
http://elianeelias.com
Mauricio Zottarelli Official Website
http://www.mzdrums.com
Eliane Elias – Made In Brazil (The Making Of)
https://youtu.be/-1hgRohZYE0
Marc Johnson & Eliane Elias / Swept Away (ECM2168)
http://player.ecmrecords.com/johnson
Eliane Elias – I Thought About You (A Tribute To Chet Baker)
https://youtu.be/CJeKND-rRFQ

【JT関連リンク】
ステップス・アヘッド ブルーノート東京 2015
http://archive.jazztokyo.org/live_report/report786.html

 

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください