#1321 彩Saya Re:Start~彩-Saya(沖縄電子少女彩)、坂田明、纐纈雅代、武田理沙、非常階段etc.
text by 剛田武 Takeshi Goda
photos by 剛田武 Takeshi Goda, except 彩Sayaソロ by せんごく
2024年8月10日(土)
高円寺HIGH
出演:
彩Saya(沖縄電子少女彩)
AUTO-MOD clas-six(GENET、渡邉貢<PERSONZ >、友森昭一)
非常階段
彩階段
Ami-bique
纐纈雅代
gloptin
坂田明
武田理沙
妖精マリチェル
Rohco (from ASTRO)
晃(ex フィンガー5)
少女から大人へ成長する彩Sayaに魅了された一夜。
沖縄音楽をベースにポップス、ダンスミュージック、民俗音楽、アンビエント、ノイズ、テクノ、即興音楽などジャンルやスタイルを飛び越える活動をしてきた沖縄電子少女彩。2016年に沖縄のアイドルグループTincyに参加し、翌年ソロ活動をスタートした頃は、地下アイドル・シーンが活況を呈していて、正統派のアイドルソングやJ-POPだけでなく、ヘヴィメタルやパンクロックやプログレ、ヒップホップやテクノなど様々な音楽性を持つアイドル・グループがライヴハウスを中心にパフォーマンスを繰り広げていた。それは制作面でジャンルやスタイルを飛び越えてハイブリッドな音楽表現の実験ができる場でもあった。自分のバンドでは演奏できないスタイルの曲をアイドルのために提供するロック・ミュージシャンもいるなど、自由な表現を実現できることが「アイドル・シーン」の魅力でもある。一方でアイドル本人は与えられた曲を言われるままに歌って踊るだけ、という場合がほとんど(それが魅力というファンも少なくない)だが、プロデューサーから聴かされたレコードからノイズ・ミュージックに興味を持った彩は、自ら演奏するエレクトロニクス・ノイズをアイドル・パフォーマンスに取り入れ、意識的に「ノイズ・アイドル」として頭角を現した。その一方で自らのルーツである沖縄音楽への興味を深め、パフォーマー/クリエイターとして独自のスタイルを育んできた。もちろん彩の才能や興味を見抜いたプロデューサーの指導によるところも大きかったに違いないが、活動を重ねるにつれて彩自身の意志や志向が研ぎ澄まされてきたことは間違いない。
活動開始から7周年になる今年は7月7日に集大成となるワンマンライヴ『生(ん)まりーん 踊(うどぅ)ゆん 夏(なち)』を開催、沖縄音楽、エレクトロニクス、ダンスミュージック、中華電子少女彩名義の東洋テクノまで、これまでの多面的な活動を一気にみせる3時間のパフォーマンスを繰り広げた。
その約1か月後の8月10日に同じ会場で開催されたのが『Re:Start(再出発)』とタイトルされたイベントである。ゲストにこれまでコラボレーションしてきたゲスト・ミュージシャンを多数迎えた、いわば「彩のプチ夏フェス」であった。
●彩Saya+妖精マリチェル+Rohco+gloptin+Ami-biqueセッション
彩、妖精マリチェル、Rohcoの女性エレクトロニクス・トリオに、gloptinのメタルパーカッションとAmi-biqueのLo-Fiノイズが加わった妖艶かつジャンクなコラボレーション。彩の伸びやかなヴォイスとgloptinのがなり立てるヴォーカルが不思議なハーモニーを生み出す。後半はストロボが激しく点滅する中で、客席に飛び込み暴れるAmi-biqueやフライパンや鍋を観客に叩かせるgloptinのパフォーマンスがカオス状態を作り上げる。「彩フェス」の幕開けに相応しい熱狂のセッションだった。
●彩Saya+纐纈雅代+武田理沙+坂田明セッション
坂田と纐纈のサックス・デュオに武田のシンセ、彩のエレクトロニクスによる即興コラボレーション。どっしりと貫禄のある坂田のプレイ、食らいつくように叫ぶ纐纈のブロー、コスミックなサウンドを奏でる武田の鍵盤。即興の猛者3人の秀逸なインプロヴィゼーションを、スぺ―シーな電子音と透明なヴォイスで別世界へ導く彩のパフォーマンスを堪能。後半に飛び出した坂田の平家物語はどこか沖縄風の味付けがされているように聞こえた。
●AUTO-MOD clas-six
日本のゴス・ロック界の先駆的バンドAUTO-MODのフロントマンGENET(ジュネ, vo&g)と渡邉貢(B.&Vo Programming、PERSONZ)、友森昭一(G. ex.レベッカ)によるロックトリオ。彩は2021年8月にGENETのバンドAUTO-MOD DTDに参加、GENETが「うちの娘」と呼ぶほどの信頼関係を結んでいる。AUTO-MOD clas-sixはAUTO-MODの楽曲をシンプルなアレンジで演奏するタイトなロックバンド。GENETのロックスター然としたパフォーマンスには、80年代アンダーグラウンド・ロックの香りがある。
●非常階段~彩階段
JOJO広重(g)、JUNKO(vo)、美川俊治(electronics)、岡野太(ds)というフル・メンバーでの非常階段のパフォーマンスは、2020年11月の彩主催イベント以来約4年ぶり。ブランクを全く感じさせない堂々とした演奏はまさにKING OF NOISE。とはいえドラムを含むバンド編成の非常階段は、大音量のエレクトロノイズをイメージさせるNOISEとは異なるロック的な抒情性とドラマ性を湛えている。それゆえ「○○階段」名義の他ジャンルとのコラボレーションが面白くなるのだろう。彩が参加した彩階段では、非常階段のノイズ演奏が、メランコリックな彩の歌をよりダイナミックによりダークに彩る異次元のサウンドワールドを堪能させてくれた。
●彩Saya
ソロ・パフォーマンス。黒い衣装で妖艶な舞を踊る姿は、少女から大人の女性への成長を感じさせ、新たなスタートを切ろうとする強い決意が毅然とした表情から溢れている。演奏も歌もこれまで以上に自信に溢れ、3曲の新曲を含めどの曲もレベルが一つ上がったようなクオリティの高さを感じさせた。
1:耳切坊主
2:雨の子
3:don’t hurt yourself (新曲)
4:アシバナ
5:リズム
6:てぃんさぐぬ花(新曲)
7:チュー!ハイサイ!ハイタイ!(新曲)
8:アッチャメー!
●晃ソロ~学園天国セッション
スペシャル・ゲストとして同じ沖縄出身の大先輩、フィンガー5の晃が登場。キャリア的にも音楽的にも今日の出演者の中では異色の存在だが、同郷の有望若手アーティストの彩を応援する気待ちがひときわ強く伝わってくる。フィンガー5の代表曲「個人授業」「恋のダイヤル6700」をギターで弾き語り。誰でも知っている名曲ならでは、会場は大いに盛り上がる。最後に出演者総出演で「学園天国」をコラボレーション。「晃階段」もしくは「晃彩ジュネJazz非常階段」とでも呼べる特別編成によるノイズまみれの学園天国の「ヘーイヘイヘイへーイヘイ」のコール&レスポンスが彩の新たな門出を祝福するように響き渡った。
『Re:Start』とは24歳になりもはや「少女」とは呼べなくなったため、名義をシンプルに「彩Saya」へと変更するという意味だというが、当然ながら名前を変えることをきっかけに新たな表現を切り開き、活動の幅を広げていく決意表明でもある。冒頭に書いたジャンルの引用が必要ない<彩Sayaの音楽>を追求して行くことだろう。4時間に亘るイベントは、表現者としての彩Sayaの今後の飛躍を予感させる生命感に溢れていた。(2024年8月28日記)
PS. 8月末にリリースされたニュー・アルバム『彩Saya』はこれまでになく王道感のあるサウンドが満載。特にソングライティングの完成度とヴォーカルの素晴らしさが味わえる作品になっている。ぜひ聴いていただきたい。