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Concerts/Live ShowsNo. 319

#1330 北村英治スーパー・カルテット

text by Toshio Tsunemi 常見登志夫

2024年9月29日(日)
北村英治スーパーカルテット
ベイサイドジャズ2024千葉スペシャル2DAYS
千葉市民会館

北村英治(cl)スーパーカルテット:高浜和英(p,②④⑥vo) 山口雄三(b) 八城邦義(ds)
■Setlist
①Rose Room ②What A Wonderful World ③My Gal Sal(私のサリーさん)④Autumn Leaves(枯葉)⑤Someday Sweetheart(恋人よいつの日か)⑥My Blue Heaven ⑦Memories Of You ⑧Sing Sing Sing


 千葉市主催の歴史あるジャズ・フェスティバル、「ベイサイドジャズ2024千葉スペシャル2DAYS」を取材した。
各バンドが入れ替わりでステージに上がるのだが、それぞれのバンドや出演者の共演などはなく、“フェスティバル感”はあまりない。
(他の出演者は、寺井尚子(vln)カルテット、大原保人(p)トリオ&カルテット、今陽子(vo)、平賀マリカ(vo)、市原ひかり(tp,vo)、鈴木直樹(cl) & SWING ACE)
雑誌『Jaz’in』での取材だったが、2日目の北村英治(cl)のカルテットのステージをレポートしたい。

 オープニングでステージに上がった、バイオリンの寺井尚子のカルテット(ほとんどMCもなく、濃密で疾走感のある1時間だった)のあと、20分間の休憩となった。
いったんロビーに出て5分もしないうちに、次の出演者、北村英治(cl)スーパー・カルテットのサウンドチェックが始まった。「舞台の転換中にサウンドチェック?」と思いつつ、急いで座席に戻ると、ピアニストの高浜和英が〈オール・オブ・ミー〉を歌い出した(まだ休憩中である)。ロビーで談笑したり、くつろいでいた他の観客も座席に戻ってきた。サウンドチェックはそのまま本番に。自然とステージが始まる小さなジャズ・クラブのようなゆるさがいい。


 オープニングはスダンダードの〈ローズ・ルーム〉。それぞれが華麗なソロを担当する、当たり前のような展開だが、やはり北村のクリアなクラリネットが胸を打つ。北村は今年95歳(!)だが、クラリネットの音色は世界一美しいのではないか、と思わせるほど澄んでいる。
「長いこと、いい世界に生きてきたとしみじみ思うんです」と言いながら、ピアノのイントロで始まった〈この素晴らしき世界〉。高浜がしっとりと歌うテーマに、クラリネットが寄り添うようにハーモニーを付ける。クラリネットのソロでもメロディをいつくしむように奏でる。高浜は今年69歳だが、ささやくように歌っても、声はホールの後ろまで届くような伸びやかさがある。北村は「どんな曲でも知っていて、歌い上げる」と高浜を絶賛していた。
自らのカルテットを「嫌だと思ったことが一度もない。仲間がいいということはとても大事。長く生きてきて、元気でステージに上がれる幸せを感じる」と口にするが、本音だろう。
アップテンポでぐいぐいとスイングする〈私のサリーさん〉では、メンバーが思いきり弾けたソロで客席を沸かせた。
見事なピアノのイントロで始めた〈枯葉〉は高浜がフランス語で歌う。低音でむせび泣くように北村のクラリネットがハモる。一転、きらびやかなクラリネットのソロが会場に響き渡った。洒脱なスイングとはこのことである。かつてニューカレドニア公演でフランス語で〈枯葉〉を演奏した際、終演後に熱狂した現地のファンが押し寄せてきたのだが、彼らのフランス語がまったく分からなかったエピソードも披露した。
明るく温和なテーマの〈恋人よいつの日か〉、高浜のボーカルが光る〈私の青空〉など、軽いスイング曲が続く。
北村の十八番の〈Memories Of You〉は、冒頭のクラリネットでのイントロから泣けるような美しさ。もう20回以上は聴いてきているかもしれない。いつもながら珠玉、至高の名演と思う。たった2分足らずの演奏だが、これを聴けただけで1時間半かけて千葉市まできて良かった。
ラストはいつもの〈シング・シング・シング〉。ドラムのリズムが刻まれたとたん、観客の強く大きな手拍子が沸き起こった。北村は速いパッセージは吹かないものの、目くるめくような流麗なソロを展開する。おなじみのドラム・ソロでは、かたずをのんで見守っていた観客が後半で手拍子を重ねてきた。何コーラスだろうか。ドラム・ソロだけで5分以上も演奏してのけた。
約50分のステージに楽しいMCを織り交ぜて全8曲。いずれもテーマ~各ソロ~テーマ、といつも通りのナンバーだ。多くの観客も特に北村のステージに酔いしれていたと思う。演奏が終わった後も、多くの観客の顔にとても満足したものであったことがうかがえた。

常見登志夫 

常見登志夫 Toshio Tsunemi 東京生まれ。法政大学卒業後、時事通信社、スイングジャーナル編集部を経てフリー。音楽誌・CD等に寄稿、写真を提供している。当誌にフォト・エッセイ「私の撮った1枚」を寄稿。

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